南シナ海とメディア報道 外交はなぜ「ドラマ」になってしまうのか video poster
南シナ海をめぐる国際ニュースは、海上のにらみ合いや「中国脅威」を強調する見出しが目立ちますが、その裏側には私たちの認識を左右する「物語」があります。
南シナ海(South China Sea)は、いまや地政学を語るときのバズワードのように使われています。軍艦の接近、飛行機の飛来、緊張の高まり――そんな言葉とともに報じられることが多く、「誰が悪いのか」をめぐる単純なストーリーに押し込められがちです。
中国国際テレビ(CGTN)のキャスター、Chen Yuan(チェン・ユアン)氏は、専門家との対談を通じて、この「物語」が南シナ海情勢の見え方をどう変え、外交を「ドラマ」に変えてしまっているのかを掘り下げました。本稿では、その議論を手がかりに、メディアと国際政治の関係を考えます。
南シナ海が「地政学のバズワード」になるとき
南シナ海という地名自体には、政治的な意味合いはありません。しかし国際ニュースの中では、次のようなイメージをまとって語られることが多くなっています。
- 大国同士が対立する「最前線」
- 軍事衝突一歩手前の「危険な海域」
- 世界経済を揺るがしかねない「リスクの源泉」
こうしたイメージは、ニュースの分かりやすさという点では一定の役割を果たしますが、その一方で、実際に行われている地道な外交対話や協力の動きを見えにくくしてしまいます。
CGTNの対談が示した、外交がドラマ化されるプロセス
Chen Yuan氏の番組では、南シナ海報道におけるメディアの役割がテーマとなりました。対談からは、外交がドラマのように扱われてしまういくつかの特徴が浮かび上がります。
1. 対立の場面だけが切り取られる
映像や写真で伝えやすいのは、艦艇が接近する場面や、記者会見で強い表現が飛び出した瞬間です。日々の実務的な協議や、水面下で続く調整プロセスは絵になりにくいため、どうしても報じられる量が少なくなります。
その結果、視聴者や読者は「いつも緊張している」という印象を持ちやすくなり、実際には対話と交渉が積み重ねられているという現実が伝わりにくくなります。
2. 物語は「善と悪」の構図になりやすい
番組では、「中国脅威」という表現を含む一部の報道が取り上げられました。こうしたラベルは、複雑な歴史的背景や各国の立場を一気に単純化し、「脅かす側」と「脅かされる側」という二項対立の物語を作り出します。
物語としては分かりやすいものの、「なぜその国はその行動を取っているのか」「どのような合意や対話がすでに存在しているのか」といった問いは、見落とされがちになります。
3. ドラマチックな言葉が緊張感を増幅させる
「一触即発」「にらみ合い」「対決」といった表現は、読者の関心を引きつけやすい一方で、状況を過度に劇的に見せてしまう危険もあります。番組で専門家は、言葉の選び方一つが、世論や政策決定に影響しうると指摘しました。
南シナ海をめぐる報道でドラマチックな表現が重ねられると、遠く離れた場所に暮らす人々ほど、実際以上の緊張や不安を感じる可能性があります。
視聴者・読者としてできる三つの工夫
では、私たちはこうしたメディアの「ドラマ化」と、どのように付き合えばよいのでしょうか。CGTNの議論を踏まえると、次のような視点が役に立ちます。
- 見出しだけで判断しない:刺激的な言葉が並ぶ見出しを見ても、本文を読み、どの程度の事実が裏付けとして示されているのかを確かめる習慣を持つこと。
- 誰の声が扱われているかを見る:報道の中で、どの国や地域の立場が詳しく紹介され、どの立場が簡略にしか触れられていないのかに注目すると、バランスが見えてきます。
- 複数の情報源を比べる:同じ出来事について、異なるメディアの報道を読み比べることで、一つの「物語」に引きずられにくくなります。
ドラマの向こう側にある現実を見る
2025年現在、南シナ海をめぐる議論は、国際政治や安全保障を考えるうえで避けて通れないテーマとなっています。同時に、それがしばしば「ドラマ」の形で消費されてしまうことも、私たちは意識しておく必要があります。
CGTNのChen Yuan氏による専門家との対談は、南シナ海情勢そのものだけでなく、「誰が、どのような言葉で、どのような物語を語っているのか」という視点の重要性を示していました。国際ニュースを読むとき、その視点を少しだけ思い出してみることで、見えてくる景色は変わっていくかもしれません。
Reference(s):
How media narratives turn diplomacy into drama in South China Sea
cgtn.com








