中国・ジアンの農村再生:一村一品が生む持続可能な成長モデル video poster
2025年夏に天津で開かれたサマーダボス会議では、レジリエンス(回復力)と包摂的成長が大きなテーマになりました。その議論を地元レベルで具体的な形にしているのが、中国東北部の国境の町ジアン(Ji'an)です。一村一品の戦略で、遠隔地の農村を文化・観光・産業が連動する新しい経済の拠点へと変えつつあります。
サマーダボスとジアンをつなぐキーワード
サマーダボス会議は、世界の政治・経済・ビジネスのリーダーが集まり、国際ニュースの焦点となる課題を議論する場です。今年は、とくに次の二つがキーワードになりました。
- 世界的なショックに耐えうるレジリエンス(回復力)
- 誰一人取り残さない包摂的な成長
中国東北部のジアンは、この二つのテーマを体現するケースとして注目されています。国境に近い遠隔地の農村が、地元の文化や産業をてこにしながら、新しい形の成長モデルを模索しているからです。
中国東北部の国境の町・ジアンとは
ジアンは、中国東北部に位置する国境の町です。中心部から離れた山間部には、小さな村々が点在し、これまで交通の不便さや人口流出といった課題を抱えてきました。
こうした村々は、一般に次のような状況にあります。
- 高齢化が進み、若い世代は都市へと移動しがち
- 一次産業に依存しやすく、収入が天候や相場に左右されやすい
- 外から見ると、観光資源や産業ポテンシャルが見えにくい
ジアンが進める一村一品の取り組みは、こうした弱点を逆手に取り、「その村にしかない強み」を磨き上げていくプロセスだと言えます。
一村一品で村ごとの個性を経済のエンジンに
ジアンの農村再生の軸になっているのが、一村一品戦略です。英語では One Village, One Product と呼ばれ、各村がそれぞれの得意分野を一つ選び、集中的に育てていくというシンプルな発想に基づいています。
文化・観光・産業をまとめて磨く
ジアンの一村一品は、単に「名物商品をつくる」ことにとどまりません。村ごとに、次の三つを組み合わせて磨き上げるのが特徴です。
- 文化:伝統的な祭り、民間芸能、手仕事などを見直し、ストーリー性のある地域ブランドとして発信する
- 観光:農家民宿や農業体験、自然散策などを組み合わせ、都市からの来訪者が滞在しやすい仕組みを整える
- 地場産業:農産物や加工品、工芸品などを一村一品として明確に位置づけ、品質向上と販路開拓を進める
たとえば、ある村は地元の農産物を使った加工食品を前面に出し、別の村は伝統工芸や民俗文化を軸に観光を組み立てるといった具合に、村ごとに異なる顔を持たせています。
遠い村だからこその「行く理由」をつくる
こうした一村一品の取り組みによって、かつては「遠くて不便」と見なされていた村が、今では「わざわざ行きたい場所」へと変わりつつあります。
- 都市住民にとっては、自然と文化に触れられる滞在型の旅先になる
- 地元住民にとっては、観光やサービス産業という新たな収入源が生まれる
- 村全体に小さなビジネスが増え、雇用の受け皿が広がる
結果として、農村経済のエンジンが単一の農作物から、多様なサービスや商品へと広がり、地域全体のリスク分散にもつながっています。
デジタルが支える新しい農村経済
ジアンの一村一品戦略を後押ししているのが、デジタル技術の活用です。スマートフォンとインターネットを通じて、遠隔地の村でも次のような動きが起きています。
- 地元の若者が短い動画やライブ配信で村の魅力や商品を紹介する
- オンラインショップを通じて、一村一品の商品を国内外の消費者に直接届ける
- SNSを活用し、季節ごとのイベントや観光情報をタイムリーに発信する
デジタル化は、単に販売チャネルを増やすだけでなく、若い世代が地元と関わり続けるきっかけにもなっています。都市で働きながらオンラインで地元のブランドづくりに関わるという、新しい関係の形も生まれています。
持続可能な成長モデルとしての意味
ジアンの事例が国際ニュースとしても注目されるのは、短期的な景気刺激策ではなく、持続可能な成長をめざしている点にあります。
ポイントは次のように整理できます。
- 地域資源の再発見:外から持ち込むのではなく、その土地にもともとある文化や自然を基盤にしているため、長期的に続けやすい
- 分散型の経済構造:各村がそれぞれの一村一品を持つことで、地域全体として多様な産業ポートフォリオを形成できる
- 包摂的な成長:高齢者や女性など、これまで経済活動から取り残されがちだった人々も、観光やサービス、手仕事を通じて参加しやすい
これは、サマーダボス会議が掲げるレジリエンスと包摂的成長というキーワードとも重なります。外部からのショックに強く、多様な人が参加できる経済構造を、農村の現場からつくり出そうとしていると言えます。
日本の地方へのささやかなヒント
日本でも、地方都市や農山漁村が人口減少や高齢化と向き合う中で、地域の文化や産業をどう次世代につなぐかが大きな課題になっています。
ジアンの一村一品の取り組みからは、次のようなヒントを読み取ることができます。
- 小さな村ごとに「ここだけの物語」と「ここだけの商品」を意識的に紐づける
- 観光・文化・産業を別々に考えるのではなく、一体の戦略として組み立てる
- デジタルを前提に、地域外の人とのつながり方を設計する
もちろん、国の制度や地域の歴史が異なるため、ジアンのモデルをそのまま当てはめることはできません。それでも、遠隔地の農村が自らの文化と産業を基盤に、新しい成長の道を切り開こうとしているという事実は、日本の地方にとっても考えるきっかけになりそうです。
天津のサマーダボス会議と中国東北部のジアン。その距離は地理的には離れていますが、レジリエンスと包摂的成長というテーマで見ると、世界の議論とローカルな実践が静かにつながり始めていると言えるのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








