中国主導の国際チーム、霊長類脳アトラスを公開 マカク視床枕を詳細マッピング video poster
中国本土が主導する国際研究チームが、霊長類の脳を前例のない精度で描き出す「ランドマーク」研究を発表しました。マカクザルの視床枕(ししょうちん)という領域について、世界で最も包括的な全脳結合性アトラス(脳内のつながり地図)が公開され、爬虫類からヒトまで続く神経ネットワークの理解が一段と進んだとされています。
中国主導の国際チームが公開した「10本のメゾスケール脳マップ」
今回発表されたのは、中国本土が主導する国際チームによる、メゾスケール脳マッピングに関する10本の先駆的な研究です。メゾスケールとは、個々の神経細胞よりは大きく、脳全体よりは細かい「中くらいのスケール」のことを指します。
このスケールで脳内の結合を詳細に描き出すことで、次のような点が見えてきます。
- どの領域とどの領域が、ネットワークとして強く結びついているのか
- 情報が脳内をどのルートで伝わっていくのか
- 種を超えて共通する「基本設計図」がどこまであるのか
マカク視床枕の「世界で最も包括的なアトラス」とは
10本の研究の中でも、特に注目されているのが、マカクザルの視床枕に関する全脳結合性アトラスです。視床枕は、脳の深部にある視床という部位の一部で、感覚情報の中継や統合、注意の制御などに関わると考えられている領域です。
今回公開されたアトラスは、マカクの視床枕から脳全体に伸びる結合を網羅的にマッピングしたもので、「世界で最も包括的な」データセットだとされています。これにより、視覚や注意、意識といった高次機能を支えるネットワークの構造が、これまでより立体的に理解できる土台が整いました。
先端イメージング、空間トランスクリプトミクス、AIが融合
今回のメゾスケール脳マッピングの特徴は、複数の先端技術を統合している点にあります。研究チームは主に次の三つを組み合わせています。
- 先端イメージング:高解像度で脳全体を撮像し、神経回路の微細な走行を可視化する技術
- 空間トランスクリプトミクス:各場所ごとの遺伝子の発現状態を地図のように記録する技術
- AI(人工知能):膨大な画像データと遺伝子データを自動で解析し、パターンや法則性を抽出する技術
これらを統合することで、「どこにどんな細胞があり、どのようにつながり、その細胞がどの遺伝子をどのくらい使っているのか」という情報を、一つのフレームワークの中で扱えるようになってきています。
爬虫類からヒトまで:進化を貫く神経ネットワークの理解へ
研究チームは、今回の成果が爬虫類からヒトに至るまでの「神経ネットワークの進化」を読み解く鍵になるとしています。マカクザルは霊長類のモデル動物として、ヒトの脳機能を理解する上で重要な位置づけにあります。
メゾスケールの脳マップを複数の種で比較することで、以下のような問いにアプローチしやすくなります。
- 脳のどのネットワークが、進化の初期からほぼ変わらず保存されてきたのか
- ヒトや霊長類で特に発達した回路はどこにあるのか
- 種ごとの行動や知能の違いは、ネットワーク構造のどの違いと対応しているのか
脳疾患研究やAIへの応用可能性
マカク視床枕を含む詳細な脳アトラスは、基礎科学にとどまらず、今後の応用研究の基盤にもなり得ます。たとえば、脳の結合パターンの乱れが関係するとされる精神・神経疾患の理解を深める手がかりになり得ますし、より人間らしく柔軟に学習するAIの設計にもヒントを与える可能性があります。
一方で、脳の詳細なマップが整備されるほど、データの扱い方や倫理、プライバシー保護など、社会が考えるべき論点も増えていきます。脳科学とAIが連携する時代に、どこまでを許容し、どのようなルールで研究成果を共有していくのかは、国際的な議論が求められるテーマです。
私たちがこのニュースから考えたいこと
今回の中国本土主導の国際研究は、脳科学のフロンティアが急速に広がっていることを改めて示しました。同時に、「脳をどこまで理解し、どこまで操作してよいのか」という問いを、私たち一人ひとりにも投げかけています。
スマートフォンの向こう側で進む最先端の脳マッピングは、遠い世界の専門研究のように見えますが、将来の医療、教育、働き方、さらにはAIとの共生のあり方にもつながっていく可能性があります。ニュースとして追うだけでなく、自分の生活や価値観との接点を少しだけ想像してみると、この研究の重みがより立体的に見えてきそうです。
Reference(s):
China unveils landmark primate brain atlas, mapping macaque pulvinar
cgtn.com








