キショール・マブバニが語る「西側の中国観のゆがみ」とは video poster
中国をめぐる西側の言説は、どこまで現実を映しているのでしょうか。シンガポールの元外交官で学者のキショール・マブバニ氏は、最近のインタビューで、西側、とくにアメリカにおける中国の語られ方は「極端にゆがんでいる」と指摘しました。本記事では、その発言のポイントと、日本の読者にとっての意味を考えます。
シンガポールの元外交官が見る「中国報道」
マブバニ氏は、シンガポールの元外交官として長く国際社会の現場に関わってきた人物で、現在は国際政治を論じる学者としても知られています。中国やアジアに関する論評が多く、しばしば「中国に楽観的すぎる」と見なされることもあります。
しかし本人は、その評価自体が、西側、とくにアメリカで広がる中国観の歪みを示していると見ています。つまり、自分が特別に「中国寄り」というよりも、西側の見方が世界の多数派から大きくずれているのではないか、という視点です。
なぜ「中国に楽観的」と見られるのか
マブバニ氏によれば、自身が「中国に楽観的」とラベルを貼られる背景には、アメリカを中心とする西側社会において、中国が過度に否定的に語られている現状があります。中国をめぐる議論が安全保障、テクノロジー、価値観などさまざまな分野で展開される中で、中国はしばしば一面的に、そして感情的に描かれがちです。
そのため、少しでもバランスを取ろうとして「多くの国は必ずしも中国を悪魔視していない」と指摘すると、それだけで「楽観的すぎる」「中国に甘い」と受け取られてしまう、とマブバニ氏は見ています。
アメリカで広がる「悪魔化」のナラティブ
マブバニ氏がとくに強調したのは、アメリカの公共空間における中国の語られ方です。アメリカの一部の政治的言説やメディア報道では、中国が「脅威」や「競争相手」として繰り返し描かれ、その存在全体が否定的な枠組みにはめられる傾向があります。
そのような言説は、国際政治の現実を冷静に分析するというより、国内政治や世論の動員と強く結びついている場合もあります。結果として、中国に対する理解よりも、不安や警戒といった感情が前面に出やすくなります。
マブバニ氏は、こうしたアメリカ中心の語り方は、「世界の大多数の国々が持つ中国観」とは大きくかけ離れていると指摘します。つまり、「アメリカで支配的な中国像」と「国際社会全体の中国像」は、必ずしも一致していないという問題意識です。
世界の多くの国はどう見ているのか
マブバニ氏が強調するのは、「世界の大多数の国々は、中国をアメリカほど悪魔視してはいない」という点です。各国は、安全保障上の懸念や経済的な利害を抱えつつも、中国を国際社会の重要な一員としてどう付き合うかを考えています。
アジアやグローバルサウスと呼ばれる地域の多くの国々にとって、中国は貿易相手であり、投資パートナーであり、地域の安定や成長に関わる存在でもあります。そのため、対立だけでなく協力や共存の側面にも目を向けざるを得ません。
マブバニ氏のメッセージは、「アメリカ発の物語だけを国際世論の代表とみなすのではなく、より広い世界の視点を見よう」という呼びかけだと受け取ることができます。
日本の読者への問いかけ:どの中国観を前提にしているか
2025年現在、日本でも中国をめぐるニュースは毎日のように報じられています。安全保障や経済、安全保障上の懸念、技術競争など、どれも重要なテーマですが、そこで前提とされている「中国観」がどの視点に立ったものかは、あまり意識されないかもしれません。
マブバニ氏の発言は、日本の読者にも次のような問いを投げかけているように見えます。
- 自分が日々読んでいる国際ニュースは、どの国・地域の視点を中心に組み立てられているのか。
- アメリカやヨーロッパの議論を「世界の総意」として受け取っていないか。
- アジアや他の地域から見た中国観を、どれだけ情報として取り入れているか。
これらの問いにすぐ答えを出す必要はありませんが、「どのレンズを通して世界を見ているのか」を意識するだけでも、国際ニュースの見え方は変わってきます。
国際ニュースを読むときに意識したいポイント
マブバニ氏の指摘を手がかりに、国際ニュース、とくに中国に関するニュースを読む際に意識できるポイントを整理してみます。
1. 語り手は誰か
記事やコメントの語り手が、どの国や地域を背景にしているのかを確認することは重要です。アメリカ発の議論なのか、ヨーロッパなのか、アジアなのか。語り手の立ち位置によって、見える風景は大きく変わります。
2. どの利益が前提になっているか
安全保障、経済、価値観など、どの利益が前面に出ているのかを意識すると、なぜその言葉遣いやトーンになるのかが見えやすくなります。中国をどう位置づけるかは、その国自身の課題や不安と深く結びつきます。
3. 言葉遣いに注目する
「脅威」「敵対」「競争」といった強い言葉が頻繁に使われていないか、一方で「協力」「パートナーシップ」「共存」といった語がどの程度登場するのかを見比べると、その社会が中国をどうイメージしているかが浮かび上がります。
4. 他地域の視点も意識的に取り入れる
アジアや中東、アフリカ、ラテンアメリカなど、さまざまな地域で中国がどう捉えられているかを知ることは、単なる「情報の追加」以上の意味を持ちます。世界の多様な見方に触れることで、自分の前提も相対化されやすくなります。
「ゆがみ」を意識することから始める
マブバニ氏は、西側、特にアメリカの中国観が「極端にゆがんでいる」と語りました。日本の読者がこれをどう受け止めるかはさまざまですが、一つ言えるのは、「ゆがみ」の可能性を意識すること自体が、国際ニュースとの付き合い方を豊かにするということです。
2025年の世界では、情報があふれる一方で、どの視点から語られた情報なのかが見えにくくなっています。だからこそ、自分が立っている場所と、そこから世界をどう見ているのかを穏やかに問い直すことが大切です。
マブバニ氏の問題提起は、「中国をどう評価するか」という一つのテーマを超えて、「世界をどのようなレンズで見るか」という、より大きな問いを私たちに投げかけています。SNSで記事をシェアするとき、友人や同僚と議論するとき、その問いを頭の片隅に置いておくことが、これからの国際ニュースとの賢い付き合い方につながっていきそうです。
Reference(s):
Kishore Mahbubani: Western discourse on China is extremely distorted
cgtn.com








