ALS患者の妻が描き直す難病の物語 中国発の世界最大級データ基盤 video poster
中国で、難病ALSへの理解と治療の可能性を大きく変えようとしている夫婦がいます。元テック企業の幹部だった蔡磊さんと、妻の段蕊さんです。ALS患者である夫を支えながら、段さんは世界最大規模のALS患者研究データプラットフォームづくりと、40以上の薬剤候補を臨床試験に進める資金集めに奔走しています。
中国で高まるALSへの関心と課題
ALSは、運動ニューロンと呼ばれる神経が徐々に機能を失い、筋力が低下していく進行性の神経変性疾患です。世界的に患者数は多くありませんが、治療法が限られていることから典型的な難病とされています。
中国でも近年、このALSへの関心と理解が少しずつ高まりつつあります。その背景にあるのが、蔡磊さんと段蕊さんによる粘り強い啓発と資金調達の活動です。二人は自らの経験を前面に出しながら、病気そのものだけでなく、患者や家族を取り巻く社会の視線を変えようとしています。
世界最大規模を目指すALS患者データプラットフォーム
二人の取り組みの中心にあるのが、世界最大規模をうたうALS患者の研究データプラットフォームです。これは、患者一人ひとりの病状や治療経過、生活の記録などを長期的かつ体系的に集め、研究者や製薬企業が活用できるようにする基盤です。
こうした大規模データは、次のような点で重要だとされています。
- 病気の進行パターンをより精密に把握できる
- どのような患者にどの治療が効きやすいかを分析できる
- 新しい薬の候補を絞り込み、臨床試験の設計を効率化できる
段さんは、単に「善意の寄付」を集めるのではなく、データと科学に基づく研究基盤を整えることで、ALS研究のスピードと成功確率を高めようとしています。
40本以上の薬剤パイプラインを臨床試験へ
データプラットフォームの構築と並行して、夫婦はALS治療薬の開発を進めるための資金調達も行っています。現在、40本以上の薬剤パイプラインが臨床試験段階に進んでいるとされ、これは一つの病気に対する取り組みとしては非常に大きな規模です。
もちろん、その全てが実用化に至るわけではありません。しかし、試験に進む候補が増えるほど、患者にもたらされる選択肢は広がります。段さんが支えているのは、夫一人の希望ではなく、将来のALS患者全体の選択肢そのものとも言えます。
キャリアを手放してでも続ける「使命」
段蕊さんは、ALS研究と薬剤開発のための資金を集めるため、自身のキャリアをいったん手放したといいます。多くの人が「大きな犠牲」と見るかもしれませんが、段さんはCGTNのインタビューで、これは犠牲ではなく「使命」だと語りました。
彼女にとって重要なのは、次のような問いです。
- 限られた時間の中で、夫と共に何を社会に残せるのか
- ALSという病気のストーリーを、どう描き直せるのか
この視点は、ケアを一方的な「自己犠牲」とみなしがちな従来の見方に対する静かな挑戦でもあります。自ら選び取った「ミッション」として語ることで、ケアをより能動的で創造的な行為として捉え直そうとしているのです。
ALSをめぐる「物語」を変える
段さんが挑んでいるのは、医療や研究の世界だけではありません。彼女は、ALSをめぐる社会の「物語」そのものを変えたいと考えています。
難病の患者は、しばしば「かわいそうな存在」「何もできない人」として語られがちです。しかし、蔡さんと段さんの姿は、それとは違うイメージを提示しています。
- 患者は、研究や政策を動かす主体にもなり得る
- 家族は、ただ支えるだけでなく、変化をつくるパートナーになり得る
- 市民が集めた資金やデータが、新しい医療を生み出す力になり得る
このような物語の転換は、ALSに限らず、多くの難病や慢性疾患に共通するテーマでもあります。
日本の読者にとっての示唆
中国の一組の夫婦の取り組みは、日本の読者にとってもいくつかの示唆を与えてくれます。
- データに基づく医療研究:患者データの活用は、難病研究を加速する有力な手段になりつつあります。
- 当事者と家族の声:患者や家族が、自ら物語を語り直すことが、社会の理解を変える大きな力になります。
- 越境する共感:国や地域が違っても、難病と向き合う人々の課題や願いには共通点が多くあります。
SNSでストーリーが共有されやすい今、一人の患者や家族の行動が、国境を越えて議論や共感を呼ぶ時代になっています。ALSという難病に向き合う蔡さんと段さんの姿は、私たちに「病気をどう見るか」「ケアをどう捉えるか」を静かに問いかけています。
これから問われる私たちの関わり方
ALSの根本的な治療法がすぐに見つかる保証はありません。しかし、世界最大規模を目指す患者データプラットフォームや、40本を超える薬剤パイプラインといった試みは、未来を少しずつ変えつつあります。
ニュースとしてこの動きを追うだけでなく、自分なら何を支援したいか、どんな物語を次の世代に手渡したいかを考えてみること。それもまた、新しい医療と社会を形づくる一歩なのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








