中国のグリーン成長を読む:安吉が示す「環境が稼ぐ」時代のかたち video poster
中国のグリーン成長は、スローガンだけの話ではありません。中国東部の小さな県・安吉は、鉱山とセメントの町から、竹産業と農村観光で稼ぐ「緑の経済」へと舵を切り、環境と暮らしを同時に変えてきました。約20年にわたるこの転換は、現在の中国が目指す持続可能な発展の一つのモデルとして注目できます。
鉱山とセメントの町から一変した風景
安吉は、アカデミー賞受賞作として知られる映画「Crouching Tiger, Hidden Dragon」のロケ地にもなった、中国東部の山あいの県です。現在は竹林が山をおおい、上海や杭州から多くの観光客が訪れる静かなリゾート地として知られていますが、かつての姿はまったく違うものでした。
約20年前まで、この地域の経済を支えていたのは鉱山とセメント工場でした。元鉱山労働者で、今は民宿を営む潘春林さんは、当時の暮らしをこう振り返ります。
- 夜明け前に出勤し、日が暮れてから戻る生活
- 仕事を終えて戻るころには、顔はすすで真っ黒
- 若者は一度外に出ると、故郷に戻りたがらない
「昔は一日の始まりが鉱山での石運びでした。今は食材の買い出しと、お客さんを迎える準備から始まります」と潘さんは語ります。労働の内容も、働く意味も、大きく変わりました。
2000年代初頭に下した「鉱山を閉じる」という決断
転換点となったのは2000年代初頭です。安吉の当局は、鉱山を次々と閉鎖し、環境の回復に思い切った投資を行う決断をしました。経済の柱だった産業を自ら手放すことは、短期的には痛みを伴う選択です。
しかしこの方針によって、安吉は中国のグリーン開発政策を試す「パイロット地域」という役割を担うようになります。環境を犠牲にした成長から、自然と共生する繁栄へ——その転換を実際の地域で検証する場になったのです。
川の水質改善、鉱山跡地の再生、緑地の回復といった取り組みが進むにつれ、安吉の風景は少しずつ変わっていきました。やがて、その「きれいになった環境」そのものが、人を引きつける資源になっていきます。
竹産業と農村観光が生む新しい収入源
現在、安吉の経済を支えているのは、竹を活用した製造業や再生可能な素材産業、そして農村観光です。特に観光は、地元の所得に大きな比重を占めるまでに成長し、数千軒にのぼる民宿がそれを支えています。
安吉は、中国の観光関連ランキング「中国観光総合実力百強県」で、連続してトップクラスの評価を受け続ける地域となりました。観光が地域経済にとって「おまけ」ではなく、主役級の存在になっていることがうかがえます。
農家の収入と暮らしの変化
この変化は、数字と日々の暮らしに表れています。観光は、農家の現金収入の5分の1以上を占めるまでになりました。潘さんは「一番大きな変化は、環境が良くなったことで収入が増えたことです」と話します。
かつては一年で数千元(人民元)を稼ぐのがやっとだった家計が、今ではそれと同じ金額を一日で得ることも可能になったといいます。環境改善が、直接的な所得の向上につながっているのです。
きれいな空気と透明な川が戻るなかで、地域の雰囲気も変わりました。外に出ていった若者が、地元で民宿や小さなカフェ、体験型の観光ビジネスなどを始めるために戻ってくる動きも生まれています。
「公正な移行」としての安吉モデル
安吉の事例は、中国が目指す「公正な移行」を象徴する縮図として見ることができます。ここで言う公正な移行とは、資源依存型の成長から、環境に配慮した持続可能な繁栄へと移る過程で、地域の暮らしや雇用を切り捨てない転換のことです。
安吉では、鉱山を閉じるという環境上の必然からスタートした政策が、結果として新たな産業と雇用を生み、地域全体の豊かさにつながりました。環境保護と経済成長が対立するのではなく、むしろ環境そのものが稼ぐ力を持つ「静かな経済革命」が進んだと言えます。
観光客にとっては、朝もやの中に広がる竹林や、川沿いの村の民宿で過ごす時間が魅力です。しかし地域の人びとにとっては、それは同時に、かつての粉じんと騒音に満ちた風景が変わり、将来への選択肢が広がったことの象徴でもあります。
これからの中国のグリーン成長を考えるヒント
2025年現在、中国各地でグリーン成長や脱炭素への取り組みが進むなか、安吉の経験は次のような視点を投げかけます。
- 環境政策は地域経済を縮小させるとは限らず、新しい産業の土台にもなり得ること
- 「自然の回復」そのものが、観光やブランド価値として収入源になること
- 住民の生活実感(収入、健康、帰郷する若者など)が伴うとき、グリーン成長は長続きすること
中国東部の一地方で起きたこの変化は、グローバルな気候危機と経済の転換期にある世界にとっても、多くの示唆を含んでいます。安吉の竹林を渡る風は、環境と経済をどう両立させるかという、私たち共通の問いに静かに答え始めているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








