多極化する世界と共有の人間性:元レバノン首相が語る新しい国際秩序 video poster
世界の力のバランスが一極集中から多極化へと移りつつある今、その変化を「危機」と見るのか、「新しい機会」と見るのかで、これからの国際秩序の姿は大きく変わります。レバノンの元首相ハッサン・ディアブ氏は、この多極化の流れを、人間の尊厳と対話を中心に据えたグローバル・ガバナンス(地球規模のルール作り)に生かすべきだと語りました。
多極化する世界は「脅威」ではなく「チャンス」
2020年代に入り、「多極化する世界」という言葉を耳にする機会が増えました。米国や欧州、中国、インド、湾岸地域など、複数の中心が共存する構造が固まりつつあると語られます。
ディアブ氏は、この変化を単なる勢力争いとしては捉えていません。むしろ、限られた国だけで形作られてきた国際ルールを見直し、より多くの地域や社会の声を反映させるチャンスだと見ています。
彼の視点の出発点にあるのは、「多極化=不安定化」という図式への静かな疑問です。多極化を恐れるのではなく、人間の尊厳を守るためにどう活かすのかを考えよう、という提案でもあります。
人間中心のグローバル・ガバナンスとは
ディアブ氏が描くのは、軍事力や経済規模だけで序列が決まる世界ではなく、「共有された人間性」に基づくグローバル・ガバナンスです。キーワードは次の三つです。
- 尊厳を真ん中に置くこと
- 互いの声に本気で耳を傾けること
- 多極化を対立ではなく協調の土台にすること
尊厳を最優先にする
ディアブ氏は、国際関係の目的は「勝つこと」ではなく、「人間の尊厳を守ること」に置くべきだと強調します。経済制裁や安全保障政策など、どのような手段を選ぶにしても、その影響を受けるのは一人ひとりの生活であり、子どもや高齢者であるという視点です。
この発想は、国内政策にも通じます。国家の威信よりも、人々の生活や権利への影響をどう最小化するか。多極化の時代にこそ、こうした基準が問われているといえます。
「聞く」ことを外交の中心に
もう一つの柱は、「本気で聞く」姿勢です。ディアブ氏は、多極化した世界では、一方的に価値観や制度を押し付けるアプローチは機能しにくいと見ています。その代わりに必要なのは、自分とは異なる歴史や経験を持つ相手の話に、時間をかけて耳を傾けることだといいます。
これは単なる理想論ではなく、実務レベルの外交においても重要なポイントです。会議や交渉の場で、相手の「言葉になっていない不安」や「背景にある事情」をどこまで汲み取れるかが、合意形成の質を左右します。
多極化を協調の土台にする
多極化は、たしかに利害の衝突を生みやすい側面を持ちます。しかしディアブ氏は、そこにこそ協調の余地があると見ています。複数の中心が存在するからこそ、誰か一国だけでは解決できない課題に対して、役割を分担しながら取り組む余地が広がるという見立てです。
気候変動や感染症対策、食料やエネルギー安全保障など、地球規模の課題は、もはや一つの国や地域だけでは対応できません。多極化した世界は、こうした課題に複数のアクターが関与する仕組みをつくるための「現実の土台」ともいえます。
分断の時代に向けられたメッセージ
同じニュースでも、見るメディアやSNSのタイムラインによって、まったく違う風景として映る。そんな情報環境も相まって、世界は「分断」という言葉で語られがちです。
ディアブ氏のビジョンは、この分断の時代への静かなカウンターメッセージでもあります。多極化を「陣営の分かれ目」として描くのではなく、「互いの物語を聞き合うための場」として捉え直す。そのとき初めて、共通の課題に向けた協力の余地が見えてくるのではないか――そんな視点です。
日本を含む各地域が直面する問い
このビジョンは、中東や欧州に限らず、日本を含むあらゆる地域にも静かな問いを投げかけます。
- 国際ニュースを語るとき、どの地域の視点が抜け落ちているか
- 安全保障や経済を語るとき、人間の尊厳という軸をどこまで意識できているか
- 自国の経験や価値観を前提にしすぎていないか
多極化した世界では、「誰が正しいか」を決めるよりも、「どうすれば違いを抱えたまま共に生きられるか」を考えることが重要になります。ディアブ氏のメッセージは、その出発点として「聞くこと」と「尊厳」を置こうとする試みだといえます。
静かに考えたい三つの視点
最後に、日々ニュースに触れる読者が、自分なりに考えを深めるための視点を三つ挙げておきます。
- 多極化は本当に「不安」だけをもたらすのか。それとも、これまで届かなかった声が届くチャンスにもなりうるのか。
- 国際社会の議論の場で、どの地域や人々の声が「周縁」に追いやられているのか。
- 自国や自分の立場から離れて、「共有された人間性」という視点でニュースを読み替えると、何が見えてくるのか。
レバノンの元首相であるハッサン・ディアブ氏が描く多極化時代のグローバル・ガバナンスは、派手なスローガンではありません。しかし、国際政治を「勝ち負けのゲーム」としてではなく、「尊厳と対話をどう守るか」という問いとして捉え直すヒントを与えてくれます。
世界の構図が揺れ動く2025年の現在、こうした静かなビジョンに耳を傾けることは、ニュースを追う日常に小さな揺らぎをもたらしてくれそうです。
Reference(s):
Multipolar world, shared humanity: Rethinking global governance for a new era
cgtn.com








