中国・大理の伝統菓子「一掌雪」 祖母と孫が紡ぐ甘い記憶 video poster
雪のほとんど降らない中国・雲南省大理で、「一掌雪(Yizhangxue)」と呼ばれる不思議な名前の伝統菓子が、祖母と孫の物語を通して地域の記憶を静かに語り継いでいます。
一掌雪とは? 「ひとにぎりの雪」のお菓子
大理では雪がめったに降りませんが、そこには「一掌雪」、直訳すれば「ひとにぎりの雪」という、詩のような名前を持つ名物があります。蒼山に積もった雪をぎゅっと押し固め、その上から赤砂糖のシロップをとろりとかけて食べる、とてもシンプルなお菓子です。
冷たい雪と、温かい甘さを持つ砂糖。口に含むとすぐに溶けてしまうはかない食感は、名前の通り、手のひらにすくった雪がすぐに消えていくような感覚と重なります。地元の人びとにとっては、その一瞬の甘さが、子ども時代の記憶や家族との時間を思い出させてくれる存在だとされています。
春になると動き出す、アーユエと祖母
物語の中心にいるのは、アーユエという若い女性と彼女の祖母です。春になると二人は一緒に家を出て、「一掌雪」を売り歩きます。手のひらほどの小さな雪に赤砂糖をかけただけのお菓子ですが、その周りには、世代を超えた記憶と感情がぎゅっと詰まっています。
アーユエにとって、この季節の仕事は単なる商いではありません。祖母と歩調を合わせ、準備をし、売る場所へと向かうひとつひとつの動作が、家族の歴史を体で覚えていく時間でもあります。
蒼山、洱海、大理古城をめぐる道
二人が「一掌雪」を売りに歩く道のりには、象徴的な風景が並びます。背後には雪を湛えた蒼山、前には静かな洱海、そしてそのあいだに広がる大理の古い街並み。山と湖と古い街をつなぎながら歩くこと自体が、この土地の歴史をなぞる行為になっています。
蒼山の雪が一掌の菓子へと姿を変え、それが洱海のほとりや古城の路地で人びとの手に渡っていく。そのささやかな循環のなかに、自然と人間の暮らしが静かに結びついていることが見えてきます。
バイ語で語られる「口承の歴史」
道すがら、祖母は優しいバイ語の語り口で、「一掌雪」の由来や、大理の過去の出来事をアーユエに聞かせます。文字に書かれた歴史ではなく、声と言葉で受け継がれていく歴史。こうした語りは、しばしば「口承の歴史」と呼ばれます。
特別な史料や大きな事件だけが歴史ではありません。ある菓子がいつから作られ、誰がどんな思いで売ってきたのか。山の雪が少ない年、人びとはどんな工夫をしたのか。そうした細かなエピソードこそが、地域の「小さな歴史」を形づくっています。
甘い雪が運ぶ、静かな問いかけ
「一掌雪」の物語は、甘い菓子の紹介にとどまりません。手のひらに乗るほどの雪と砂糖が、世代を超えた記憶をつなぎ、土地の過去を思い起こさせる、そのあり方自体が一つのメッセージになっています。
- 私たちは、どんな食べ物と一緒に家族の記憶を思い出すのか
- 日々の暮らしの中のどんな習慣が、地域の歴史を支えているのか
- 方言や家族の語りを、どうやって次の世代に渡していけるのか
大理の「一掌雪」をめぐるアーユエと祖母の物語は、こうした問いを静かに投げかけます。2025年の今、世界のあちこちでローカルな食文化が消えつつあると言われるなかで、この小さな菓子は、足元の暮らしから歴史を見つめ直す視点をそっと示しているようです。
Reference(s):
cgtn.com








