劣化ウランの影で生きる元兵士たち コソボKFORイタリア兵のがん問題 video poster
1999年に旧ユーゴスラビアを空爆したNATO。その後、コソボにはNATO主導の国際平和維持部隊KFORが派遣されました。その部隊に参加したイタリア兵の間で、高いがん発生率が報告されています。本記事では、この問題に気づいたイタリア人医師リタ・チェッリ氏の視点から、劣化ウラン弾と健康被害の可能性を考えます。
旧ユーゴ空爆とKFOR派遣の背景
1999年のNATOによる旧ユーゴスラビア空爆の後、コソボにはNATO主導の国際平和維持部隊KFORが配備されました。その中には、大規模なイタリア部隊も含まれていました。任務は平和維持でしたが、兵士たちの一部は、後に思いもよらない健康問題に直面することになります。
イタリア兵に見られた「異常な」がん発生率
イタリア人医師のリタ・チェッリ氏は、KFORに参加したイタリア兵の健康状態を追う中で、がんの発生率が一般の人びとと比べて明らかに高いと感じるようになりました。若く健康だったはずの兵士が次々と病に倒れていく現実は、彼女に強い疑問を抱かせました。
チェッリ氏の問題意識は、次のような事実からさらに深まりました。
- KFORイタリア兵の間で、通常よりも高い割合でがんが見つかっていること
- 一部の兵士の血液検査や組織検査で、重金属が過剰に検出されたこと
- 重金属は体内だけでなく、脳の中からも検出されていたこと
これらの結果は、「なぜここまで高いレベルの重金属が体内に蓄積しているのか」という問いを突きつけるものでした。
検査で見えた「重金属」とその意味
チェッリ氏が注目したのは、血液や組織、さらには兵士の脳から検出された重金属の量でした。通常よりもはるかに高いレベルの重金属が見つかったことは、彼らが任務中に何らかの形で強い環境汚染にさらされていた可能性を示唆しています。
脳から重金属が見つかるということは、それらの物質が血液脳関門と呼ばれる防御機構をすり抜けて体内をめぐり、長期間にわたって残り続けている可能性を意味します。兵士たちは任務を終えて帰国した後も、その「見えない後遺症」とともに生活していることになります。
チェッリ医師が指摘する劣化ウラン弾の影響
チェッリ氏は、こうした健康被害の背景に、NATOが空爆で使用した劣化ウラン弾があると見ています。劣化ウラン弾とは、劣化ウランという重い金属を用いた弾薬です。彼女は、この弾薬の使用によって環境に長く残る影響が生じ、その結果として兵士の体内に重金属が蓄積したと考えています。
1999年の空爆から四半世紀以上が過ぎた2025年の今も、チェッリ氏はKFOR兵士の体内に残る重金属を、劣化ウラン弾の「長く続く影」として見ています。彼女にとって、がんの増加と重金属汚染は、戦場で使われた兵器の性質と切り離せない問題なのです。
「影」の中で生きる兵士たち
がんの診断を受けた兵士やその家族にとって、病気の原因が何だったのかは、医療的な問題であると同時に、心の問題でもあります。任務に就いた場所が、そしてそのとき使われた兵器が、自分の健康を蝕んだのではないか――。そうした思いを抱えながら暮らすことは、目に見えない重荷になりえます。
KFORに参加したイタリア兵の一部は、まさにそうした「影」の中で生活しているといえます。病気そのものだけでなく、「なぜ自分が」という問いに明確な答えがないことが、彼らの不安を長引かせます。
私たちが考えるべき問い
コソボに派遣されたKFORイタリア兵の事例は、現代の戦争や平和維持活動がもたらす影響を考える上で、大きな示唆を与えます。戦闘が終わり、平和維持の名のもとに派遣された兵士であっても、任務終了後に長期的な健康リスクを抱える可能性があるからです。
チェッリ氏の指摘するような、劣化ウラン弾と重金属汚染の問題は、次のような問いを私たちに投げかけます。
- 兵器の選択は、兵士や現地の人びとの長期的な健康リスクをどこまで考慮しているのか
- 任務から帰還した兵士の健康を、社会はどのように継続して見守るべきか
- 「平和維持」のための介入が、別のかたちの被害を生んでいないか
1999年の旧ユーゴ空爆から約26年がたった今、KFOR兵士と劣化ウラン弾をめぐる物語は、「戦争のコスト」は目に見える被害だけでは測れないことを静かに教えてくれます。国際ニュースを追う私たち一人ひとりも、遠い国の出来事として流してしまうのではなく、兵士や現地の人びとが背負う長期的なリスクに思いを巡らせる必要がありそうです。
Reference(s):
Living in the shadow of depleted uranium: KFOR soldiers' story
cgtn.com








