武漢大学・桜の回廊 詩とコードが出会う「AI花見」の現在 video poster
2025年の春、中国・武漢大学の桜並木「Cherry Blossom Avenue」は、600メートルにわたる桜の回廊を舞台に、AIや自動運転、拡張現実(AR)を組み合わせた「詩とコードの花見」を実現しました。伝統的な桜の風景が、最新テクノロジーと出会う現場を見ていきます。
1930年代の一本の桜から始まった「600メートルの詩」
武漢大学のキャンパス内、珞珈山(Luojia Mountain)の斜面に沿って伸びるこの桜並木は、1930年代に植えられた一本の桜から歴史が始まったとされています。そこから約1世紀をかけて育まれた並木道は、今では600メートルにおよぶ「桜の回廊」として知られています。
今年、その桜のトンネルが、単なる景観ではなく「生きた実験室」として再構成されました。自然とテクノロジーのあいだを行き来する新しい花見のかたちが、ここで試されています。
AIライトショーと3Dホログラム、夜桜がデータの舞台に
夜の桜並木では、AIを使ったライトショーが展開されます。アルゴリズムが光の動きを制御し、立体的な花びらのホログラムが空間に浮かび上がる演出です。観客の流れや音の変化に合わせて、光のパターンがリアルタイムに変化する「対話型」の桜となっています。
花びら一枚一枚がデータの粒に、並木道全体が巨大なインターフェースに変わることで、桜は「鑑賞する対象」であると同時に、「参加するプラットフォーム」へと姿を変えています。
自動運転シャトルとロボット管理人が守る桜のトンネル
桜並木の下を滑るように走るのは、自動運転のシャトルです。衛星測位システム「北斗(BeiDou)」によるナビゲーションを活用し、来訪者を安全に案内します。人の歩く流れとシャトルの動きが重ならないように制御しながら、混雑する時間帯の移動をサポートします。
並木道の足元では、四足歩行ロボットの「管理人」たちが巡回し、設備の点検や安全確認を行います。静かに動き回るロボットの姿は、一見すると異物のようでありながら、長い年月を刻んだ桜の幹と、不思議な調和を見せています。
ARガイドと「Luojia Blossom Archive」、木一本ごとに物語がある
スマートフォンをかざすと情報が浮かび上がる拡張現実(AR)のガイドも導入されています。来訪者が一本の桜をスキャンすると、「Luojia Blossom Archive(珞珈ブロッサム・アーカイブ)」と呼ばれるデジタル資料が表示されます。
そこには、木ごとの植樹年代や由来、これまでの季節の記録などが蓄積されています。物理的には並んでいるだけに見える桜の列が、データベースを介して「一本ごとのストーリー」を持つ存在として立ち上がるのです。
学生たちの詩が、プロジェクションの歌詞として咲く
この場をさらに「詩的な実験場」にしているのが、学生たちの創作です。武漢大学の学生詩人たちは、桜やキャンパスの記憶をテーマにした短い詩を制作し、それが来訪者から寄せられた言葉とともに「クラウドソーシングされた歌詞」として集められます。
こうして集まったフレーズは、並木道沿いのプロジェクションウォールに映し出され、光のショーと連動して表示されます。観客は、誰かの書いた言葉が光の花びらとともに浮かび上がるのを目にしながら、自分自身も物語の一部になっていきます。
「詩とコードは同じ泉から湧く」というメッセージ
武漢大学の桜並木が伝えようとしているのは、詩とコード、自然とアルゴリズムが対立するものではなく、同じ「泉」から湧き出る表現なのではないか、という問いかけです。
- AIライトショー:アルゴリズムで桜を照らす「デジタルの詩」
- 自動運転シャトル:移動そのものを変える「交通のコード」
- ARアーカイブ:一本の木の記憶を可視化する「データの物語」
- プロジェクション詩:観客の言葉が景色に溶け込む「参加型の文学」
自然とテクノロジーを結びつけるこうした取り組みは、単なる「映える演出」を超えて、私たちがデジタル時代にどのように季節や場所を感じ、記憶していくのかというテーマを投げかけています。
日本の花見とテクノロジーへの示唆
日本でも、桜は古くから詩歌や物語の中心モチーフであり、近年はプロジェクションマッピングやインタラクティブなアートを取り入れた花見イベントも増えています。武漢大学の取り組みは、その一歩先で「キャンパス全体をメディア化する」試みとも言えます。
人が自然を守り、楽しむためにコードを書く。アルゴリズムが、人と人、人と場所の出会い方をデザインする。そうした新しい関係性は、日本の花見のあり方や、都市の公共空間の使い方を考えるヒントにもなりそうです。
桜が散ったあとも、データと記憶は残り続けます。2025年の武漢大学「Cherry Blossom Avenue」で交差した詩とコードは、来年以降のアジア各地の春にも静かに影響を与えていくかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








