中国本土の博物館が変わる:四川大学博物館に見る学べるミュージアム video poster
「見る場所」から「一緒につくる学びの場」へ。中国本土の博物館が今、静かな展示空間から、子どもや若い世代が手を動かしながら学ぶ「ライブな空間」へと変わりつつあります。2025年の国際博物館の日に行われた四川大学博物館からのライブ企画は、その変化を象徴する試みでした。
国際博物館の日に映し出された「変身する博物館」
今年の国際博物館の日、四川大学博物館からは、博物館の新しい姿を伝えるライブ配信が行われました。テーマは「The transformation of Chinese museums(中国本土の博物館の変容)」。現場では、展示ケースの前で解説を聞くだけではない、「参加する文化体験」が中心に据えられていました。
配信の舞台となったのは、「Intangible Heritage Crafts in Action(無形文化遺産クラフト・イン・アクション)」というワークショップです。博物館の中に設けられた特設スペースで、子どもたちや若い参加者が、職人の指導を受けながら伝統工芸に挑戦しました。
漆器づくりで体感する「無形文化遺産」
ワークショップの目玉の一つが、漆器づくりの体験です。長い歴史を持つ漆の工芸は、工程が複雑で、職人の経験と繊細な技が求められます。こうした技は、形として残るだけでなく、作り手の手の動きや感覚そのものが「無形文化遺産」として受け継がれてきました。
ライブでは、参加者が実際に漆を塗り、模様を描き、作品を仕上げていく様子が映し出されました。隣には熟練の職人が寄り添い、手つきや力の入れ方を一つずつ確認しながら指導します。見ているだけではわからない「重さ」「粘り」「待ち時間」まで含めて、文化の奥行きが体で理解できる構成になっていました。
こうした「手を動かす」体験は、博物館を単なる知識の保管庫ではなく、技と記憶をともに再現するスタジオのような空間へと変えていきます。
STEAM教育と博物館:科学と文化をつなぐ
四川大学博物館の取り組みで特徴的なのは、文化体験とともに「STEAM教育」を前面に出している点です。STEAMとは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Arts)、数学(Mathematics)を組み合わせた学びの考え方を指します。
漆器のワークショップでは、単に「伝統工芸をやってみよう」で終わりません。漆の材料の性質や、乾く仕組み、色が変化する理由など、科学的な視点も交えながら進行していきます。参加者は、
- なぜこの温度や湿度が必要なのか
- どうして何度も塗り重ねる必要があるのか
- 形や模様のデザインをどう考えるか
といった問いを通じて、科学と芸術の両方に触れます。博物館という空間で、文化遺産と科学的な好奇心が自然に交差する構図は、まさにSTEAM教育の実践といえます。
「静的ではない」空間が若い世代に火をつける
今回のライブ企画が見せたのは、「触ってはいけない展示物」が並ぶ場所としての博物館ではなく、「自分の手で試していい場所」としての博物館です。この変化は、若い世代の学び方や価値観ともよく響き合っています。
情報があふれる時代に育つ子どもたちにとって、教科書や画面で知識を得ること自体は珍しいことではありません。その中で、実際に手を汚し、匂いを感じ、素材の質感に触れながら学ぶ体験は、記憶に残る強いインパクトを持ちます。
ライブでは、初めて漆を手に取る参加者が、試行錯誤しながら作品を仕上げていく姿が映し出されました。うまくいかないところで職人に質問しながら、少しずつコツをつかんでいく過程そのものが、学びの物語になっています。
「アイデンティティ」を育む博物館へ
今回の試みがもう一つ重視しているのが、「アイデンティティ」の育成です。中国本土のさまざまな地域で育まれてきた工芸や生活文化は、単なる昔話ではなく、今を生きる人びとのルーツでもあります。
自分の手で伝統工芸を体験することは、「遠い歴史」を知ること以上に、「自分が何につながっているのか」を感じるきっかけにもなります。ライブで映された若い参加者の姿からは、「難しいけれど楽しい」「自分でもできた」という実感とともに、自分の背景にある文化へのささやかな誇りも垣間見えました。
中国本土の博物館に広がる変化を見る視点
四川大学博物館からのライブ企画は、中国本土の博物館全体で進む変化の一断面といえます。展示物を守るだけでなく、人びとが文化を「学び」「触れ」「受け継ぐ」プロセスをどう設計するか。その問いに対する一つの答えが、今回のようなワークショップ型の取り組みです。
国際ニュースとして見たとき、この動きは「博物館」という制度が、世界各地で問い直されている流れとも重なります。デジタル化やオンライン配信が進む一方で、実際に現場で体を使って学ぶ価値は、むしろ高まっています。
四川大学博物館のライブが示したのは、博物館が「静かな陳列室」から、「創造性と好奇心、そしてアイデンティティを同時に育てるラボ」へと変わりつつあるということです。今後、中国本土のほかの博物館がどのような形でこの流れに続いていくのか、注目していきたいところです。
Reference(s):
cgtn.com








