「デジタル・サウス」でAI格差是正へ 2025年の国際会議が示した新潮流 video poster
AIやデジタル技術をめぐる格差が広がるなか、2025年7月に上海で開かれた世界人工知能会議とグローバルAIガバナンス・ハイレベル会合、そして同年のBRICS首脳会議で打ち出された「デジタル・サウス」というキーワードが注目を集めています。
上海の会合では、中国がグローバル人工知能協力機構の設立を呼びかけました。また、リオデジャネイロで行われた2025年BRICS首脳会議では、中国の李強国務院総理が、途上国を中心とするグローバル・サウスの能力強化を目指す「デジタル・サウス」ブランドの構想を発表しています。
8月5日には、このテーマを掘り下げる特別番組「A Digital South Together」が中国の国際メディアで放送され、グローバル・サウスがどのように協力してAI格差を埋め、包摂的な成長につなげるかが議論されました。本稿では、その背景と今後の論点を整理します。
デジタル・サウスとは何か
デジタル・サウスは、開発途上国を含むグローバル・サウスがデジタル技術とAIを活用し、自らの発展のための能力を高めていくことを目指すブランドとして位置づけられています。単なるスローガンではなく、インフラ整備、人材育成、制度づくりなどを通じて、デジタル分野での格差を縮小することが狙いとみられます。
上海の世界AI会議:協力の「場」をどうつくるか
今年7月に上海で開かれた世界人工知能会議とグローバルAIガバナンス・ハイレベル会合では、中国がグローバル人工知能協力機構の設立を提案しました。この機構構想は、各国がAI技術やルールづくりについて対話し、協力を進めるための常設のプラットフォームを目指すものと考えられます。
AIは国境を越えて活用される一方、安全性や倫理、データ保護などをめぐる懸念も国境を越えて共有されています。グローバルな協力枠組みが整えば、技術とルールの両面で、グローバル・サウスが議論に参加しやすくなる可能性があります。
BRICSリオ首脳会議で示された方向性
2025年のBRICS首脳会議(リオデジャネイロ)では、李強国務院総理がデジタル・サウスブランドを先導すると表明しました。BRICSには、グローバル・サウスを代表する新興国が多く参加しており、デジタル分野での協力強化は、これらの国々の共通課題にも直結します。
このブランドの下で、インフラ構築やデジタル産業の育成、AIに関する研修や人材交流など、具体的な協力プロジェクトがどこまで広がるかが、今後の焦点になります。
GDIの枠組みで進める包摂的なデジタル・サウス
今回の議論では、GDI(グローバル・デベロップメント・イニシアチブ)の枠組みの中で、どのようにデジタル・サウスを共に築くかが問われています。重要になるのは、「誰も取り残さないデジタル化」を具体的な仕組みに落とし込めるかどうかです。
たとえば、次のような方向性が考えられます。
- 通信ネットワークやデータセンターなど、基礎的なデジタルインフラへの投資と共同整備
- AIやデータサイエンスの教育プログラムを通じた人材育成と留学・研修の拡大
- 中小企業やスタートアップが活用しやすいオープンソース技術や共通プラットフォームの整備
- データ保護やAI倫理に関するルールづくりで、グローバル・サウスの視点を反映させる対話の場づくり
- 農業、医療、教育など、社会課題の解決に直結する分野でのAI活用プロジェクトの推進
AI格差をどう埋めるか:グローバル・サウスのカギ
AI格差とは、AI技術を開発・活用できる国や企業と、そうでない国や地域との間に生じる能力や機会の差を指します。インフラや資金だけでなく、データへのアクセス、研究開発力、規制環境など、複数の要因が重なって生まれます。
グローバル・サウスにとって重要なのは、「後追い」ではなく、自らのニーズに基づいたAI活用モデルをつくることです。たとえば、
- 少ないデータでも学習できるAIや、低コストで動く省エネ型のAI技術の開発・導入
- 地域の言語や文化に合わせたサービス設計
- 行政サービスのデジタル化による透明性向上と住民参加の促進
といった取り組みは、技術の「輸入」にとどまらず、自ら価値を生み出す方向性といえます。
日本とアジアの読者への示唆
日本やアジアの読者にとって、デジタル・サウスの動きは決して遠い話ではありません。アジアには、グローバル・サウスと重なる国・地域が多く、デジタル化のスピードと格差が同時に進んでいます。
日本企業や研究機関にとっては、単なる市場としてではなく、「共にデジタルのルールと活用モデルをつくるパートナー」としてグローバル・サウスを見る視点が重要になりそうです。また、AIガバナンスをめぐる国際議論に、アジアからどのような価値観や経験を持ち込めるかも問われています。
これからの注目ポイント
今年、上海の会合やBRICS首脳会議を通じて、デジタル・サウスというキーワードは一気に国際舞台に躍り出ました。今後、私たちがフォローしたいポイントを整理すると、次のようになります。
- グローバル人工知能協力機構の具体的な設計と、参加を表明する国・地域の動き
- デジタル・サウスブランドの下で実際に立ち上がるプロジェクトや基金の中身
- GDIの枠組みの中で、グローバル・サウスの多様な声がどこまで反映されるか
- AIガバナンスをめぐる国際ルールづくりにおいて、新興国がどのように提案やイニシアチブを打ち出すか
AIとデジタル技術をめぐる国際ニュースは、一見すると専門的で遠い話に見えますが、自分たちの仕事や生活にじわじわと影響していきます。デジタル・サウスをめぐる動きは、これからの世界経済とテクノロジーの方向性を映す鏡の一つとして、引き続き注視していきたいテーマです。
Reference(s):
cgtn.com








