ラテンアメリカの肖像:中国系ペルー人ピアニスト、リディア・フンが語るルーツと音楽 video poster
ラテンアメリカを舞台に活躍するクラシック音楽家の中で、中国系ペルー人ピアニスト、リディア・フンの名は特別な存在感を放っています。チェンバロの名手として知られる彼女は、自身の中国系ペルー人としてのルーツこそが、音楽への情熱と献身を支えてきた原点だと語ります。
「ラテンアメリカの肖像」に登場する中国系ペルー人ピアニスト
リディア・フンは、ペルーを代表するクラシック音楽家の一人として高く評価されています。シリーズ「Portraits of Latin America(ラテンアメリカの肖像)」では、その人物像が、中国系ペルー人としての背景とともに紹介されています。
ピアノだけでなく、バロック音楽で用いられる鍵盤楽器・チェンバロの演奏で知られるフンは、その繊細で緻密なタッチ、作品への深い理解によって、多くの聴衆を魅了してきました。ラテンアメリカ発のクラシック音楽家という枠を越え、世界の音楽シーンの中で独自の位置を築いている存在だと言えます。
ルーツが支える「献身」という態度
フンは、自らの音楽への献身を、中国系ペルー人としてのルーツと結びつけて振り返っています。中国由来の文化的背景と、ペルーという多文化社会の中で育まれた感性。その両方が、地道な鍛錬を重ね、長い時間をかけて一つの作品と向き合うクラシック音楽の姿勢に、自然とつながっていったといいます。
クラシック音楽の世界では、日々の練習や作品研究といった「見えない時間」が、舞台上の数十分を支えています。フンにとって、その粘り強さや妥協を許さない姿勢は、家族やコミュニティから受け継いだ価値観と深く結びついているのでしょう。自分がどこから来たのかを理解することが、音楽的なアイデンティティを確立するうえでも重要な意味を持っていることが伝わってきます。
チェンバロという選択が映し出すもの
リディア・フンの特徴の一つが、チェンバロ演奏の名手として知られていることです。チェンバロは、ピアノの前身ともいわれる鍵盤楽器で、バロック音楽を中心に用いられてきました。鍵盤を押すと弦をはじく構造のため、音は透明感があり、華やかながらもどこか静かな緊張感を帯びています。
ラテンアメリカと聞くと、サンバやサルサ、フォルクローレなどリズム豊かな音楽を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかしフンの選んだフィールドは、ヨーロッパ発祥の古典的なチェンバロ音楽です。その選択は、ラテンアメリカのアーティストが、世界の多様な音楽伝統を自らの表現として取り入れ、再解釈していることを象徴しているとも言えます。
彼女の演奏は、過去の作品を「保存」するだけでなく、新しい文脈の中で鳴らし直す試みでもあります。中国系ペルー人というバックグラウンドを持つ演奏家が奏でるチェンバロの響きは、それ自体がグローバルな時代の音楽のあり方を物語っているとも言えるでしょう。
ラテンアメリカとアジアをつなぐクラシック音楽
2025年のいま、日本から見たクラシック音楽の世界は、欧米中心というイメージから少しずつ変わりつつあります。ラテンアメリカやアジア出身の演奏家が国際舞台で活躍し、それぞれのルーツを背負いながら、新しい解釈を提示しています。
リディア・フンの歩みは、その変化の一端を示しています。ペルーというラテンアメリカの国で、中国系の背景を持つ彼女が、ヨーロッパ起源のチェンバロ音楽を極めていく。その重なり合うレイヤーの多さこそが、現代の国際社会の姿と重なります。
日本の読者にとっても、こうしたアーティストの存在は、クラシック音楽を「西洋のもの」として距離を置いてしまうのではなく、アジアやラテンアメリカを含む幅広い地域が関わる、開かれた表現領域として捉え直すきっかけになるかもしれません。
自分のルーツとどう向き合うか
リディア・フンが語る「ルーツが音楽を支えている」という感覚は、必ずしも音楽家に限ったものではありません。どの国や地域に暮らしていても、人は家族やコミュニティの記憶、文化的な背景に少なからず影響を受けています。
多文化社会が当たり前になりつつある時代、自分のルーツをどう理解し、それをどう日々の仕事や創作、学びに生かしていくかは、多くの人に共通する問いです。フンのように、その背景を否定するのではなく、むしろ力の源として受け止める姿は、一つのヒントを与えてくれます。
ラテンアメリカの肖像として紹介される中国系ペルー人ピアニスト、リディア・フンの物語は、国境やジャンルを越えて、「自分は何者か」という静かな問いを私たちに投げかけています。彼女がチェンバロの鍵盤にそっと指を置くとき、その一音一音の背後には、ラテンアメリカとアジア、そしてクラシック音楽の長い歴史が響いているのかもしれません。
Reference(s):
Portraits of Latin America: Lydia Hung, Chinese-Peruvian Pianist
cgtn.com








