イスラエルとヒズボラが停戦違反を相互非難 南レバノンで何が起きているのか
イスラエルとレバノンの武装組織ヒズボラが、発効したばかりの停戦をめぐって互いに違反を非難し合い、南レバノンの緊張が続いています。ガザでの戦闘と並行して1年以上続いた衝突を終わらせるための停戦ですが、その脆さが早くも浮き彫りになっています。
停戦発効から1日で空爆と砲撃
イスラエル軍は、停戦発効の翌日となる木曜日、南レバノンにあるヒズボラの中距離ロケット保管施設を空軍が攻撃したと発表しました。停戦が水曜日の朝に発効して以降、イスラエルによる空爆はこれが初めてとされています。
レバノンの治安筋や民放アル・ジャディードは、この空爆がリタニ川の北側に位置するベイサリヤ付近で行われたと伝えています。今回の停戦合意は、リタニ川以南の無許可の軍事施設の撤去を定めていますが、北側の施設については触れていません。
同じ木曜日には、イスラエルの戦車砲撃が南レバノンの5つの町と農地を攻撃し、少なくとも2人が負傷したと、レバノンの治安筋や国営メディアが伝えました。これらの地域は、レバノンとイスラエルの境界線を示すブルーラインから2キロ以内の範囲にあります。
イスラエル軍は、停戦合意がまとまった後も、この一帯を沿岸部の立ち入り禁止区域と宣言しており、軍による監視と統制が続いています。
イスラエル側の主張 安全確保のための「対応」
イスラエル軍は、木曜日に南部地域の複数の地点で車両に乗った「不審な人物」に向けて発砲したとも明らかにし、それが停戦条件に違反する行為への対応だったと説明しました。
軍の声明によると、南部のゾーンで「脅威となる複数の不審な活動」を確認し、それが停戦合意の条件に反していたとしています。イスラエル軍のヘルツィ・ハレヴィ参謀総長は「この合意からのいかなる逸脱も、武力によって強制される」と述べ、違反とみなした行動には実力行使で対処する姿勢を強調しました。
さらにイスラエルのネタニヤフ首相は、イスラエルのテレビ局とのインタビューで、停戦が破られた場合に備え、軍に対して激しい戦闘の準備を指示したと明かしました。首相は「われわれは力強く執行している。しかし必要とあらば、停戦の枠組みが破られた場合に備え、激しい戦争に向けて準備するよう軍に指示した」と述べ、強い警告メッセージを発しています。
ヒズボラとレバノン側の見方 「攻撃しているのはイスラエルだ」
これに対し、ヒズボラのハッサン・ファドララ議員は、イスラエルこそが停戦合意に違反していると主張しました。ファドララ氏は、国境付近の村に戻ろうとする人びとがイスラエル側の攻撃を受けていると訴え、「イスラエルは人びとが国境の村に戻るのを攻撃している」「このような形でも、きょうイスラエルによる違反がある」と語りました。
レバノン軍もその後、イスラエルが水曜日と木曜日に複数回にわたり停戦に違反したと非難し、イスラエル側の行動が合意と矛盾していると指摘しました。
イスラエルとヒズボラ、レバノン軍それぞれが相手方の違反を強く主張する構図となっており、同じ事象をめぐって評価と解釈が大きく食い違っています。
60日間の停戦合意 その中身と「空白地帯」
今回の停戦は、米国とフランスが仲介して実現したもので、ガザでの戦闘と並行して続いてきたイスラエルとヒズボラの衝突を終わらせることを目指しています。期間は60日間とされ、その間に恒久的な戦闘停止へとつなげることが期待されています。
合意のポイントとして示されているのが、リタニ川以南の無許可の軍事施設を撤去するという規定です。一方で、木曜日に空爆があったとされるリタニ川以北の施設については、合意文では特に言及されていません。この「地理的な線引き」が、今後の解釈をめぐる争点になりうるとみられます。
また、イスラエル軍はブルーライン沿いの一部地域を依然として立ち入り禁止とし、住民の往来を制限しています。木曜日には、リタニ川以南の南レバノンに住む住民を対象に、午後5時から午前7時までの外出を制限する夜間外出禁止令を改めて発表しました。停戦が成立しても、現場では軍事的な制約が強く残っている状況です。
南レバノンの住民が直面する現実
南レバノンでは、国境近くの自宅から避難していた家族の一部が、家屋の状況を確認しようと戻り始めています。しかし、イスラエル軍の部隊は依然として国境沿いのレバノン側の町に駐留しており、完全な安全が確保されているとは言いがたい状況です。
現地を取材した記者によると、南レバノンの一部地域では偵察用とみられる無人機の飛行音が聞こえ続けているとされます。停戦が政治的には成立していても、住民の日常生活の感覚からすると、軍事的な緊張と不安はなお色濃く残っています。
家に戻りたい住民、軍事的な支配を維持したい軍、停戦合意の細かな条件。その三者の思惑が国境地帯で交錯しているのが現在の南レバノンの姿だと言えます。
なぜ停戦はこれほど脆くなるのか
まだ始まったばかりの停戦が、なぜこれほど簡単に「違反」の応酬にさらされてしまうのでしょうか。今回の状況からは、いくつかの構図が見えてきます。
- 合意の適用範囲が地理的に限定されており、リタニ川以北の扱いなど、解釈の余地が残っていること
- 「不審な活動」や「脅威」といった評価が、当事者の安全保障上の判断に大きく左右されること
- 避難民の帰還や農作業の再開と、軍事的な警戒行動が同じ場所と時間帯で重なりやすいこと
どちらの側も、自らの行動は停戦を守るための「防衛」だと主張しつつ、相手の行動を「違反」だと見なしている構図がうかがえます。このような状態が続けば、停戦は形式的に存在していても、現場では衝突リスクが高止まりすることになります。
これからの60日間で問われること
今回の60日間の停戦は、単なる一時休戦にとどまるのか、それとも恒久的な戦闘停止への踏み台になるのか。今後の行方を左右するポイントはいくつかあります。
- イスラエルとヒズボラ双方が、事実関係の検証や連絡メカニズムを通じて「違反」のエスカレーションを抑えられるかどうか
- リタニ川以南の軍事施設撤去と、ブルーライン周辺の立ち入り制限がどこまで実務的に進むか
- 南レバノンの住民が安全に帰還し、農地や生活基盤を取り戻せる環境が整うかどうか
- 仲介役である米国とフランスが、双方に対してどこまで働きかけを強めるか
停戦が長続きするかどうかを判断する早期のシグナルは、最前線で暮らす人びとの生活が少しでも安定に近づいているかどうかに表れます。空爆や砲撃の有無だけでなく、夜間外出禁止や立ち入り禁止区域が緩和されるかどうか、帰還した家族が安心して夜を過ごせるかどうかが、重要な指標になっていきます。
イスラエルとヒズボラが互いに違反を非難し合う中で、本来守られるべきは南レバノンとその周辺で暮らす人びとの安全と尊厳です。これからの60日間が、その原点にどこまで近づけるのかが問われています。
Reference(s):
Israel and Hezbollah trade accusations of ceasefire violations
cgtn.com







