シリア北西部で反政府勢力が電撃攻勢 国際社会は自制と対話を要請
シリア北西部アレッポ周辺で反政府武装勢力が電撃的な攻勢を仕掛け、政府軍との大規模な戦闘が続いています。13年以上続くシリア内戦が新たな局面に入りつつある中、各国はシリアの領土一体性と民間人保護を訴え、緊張緩和と対話を呼びかけています。
シリア北西部で何が起きているのか
先週、水曜日にかけて、アルカイダ系とされる過激組織ハヤート・タハリール・アルシャーム(HTS)と同盟する反政府勢力が、北西部アレッポ県西部の田園地帯で大規模な攻勢を開始しました。狙いは、政府側が支配する地域への深い侵入です。
金曜日までに、反政府勢力は2016年以降初めてアレッポ市の一部へ進入し、シリア軍は圧力にさらされる中で一時的な部隊再配置を発表しました。土曜日には、西部中央のハマ県北部でも複数の町や村を制圧し、アレッポ県とイドリブ県にまたがる要衝を相次いで掌握しました。
イギリスに拠点を置くシリア人権監視団によると、HTSは土曜日にアレッポ国際空港を制圧しました。HTSの支配下に置かれるのは初めての民間空港とされています。
一方、日曜日にはシリア政府軍がハマ県北部で反攻作戦を開始し、反政府勢力から一部地域を奪還したとされています。国営テレビは、過去3日間の作戦でHTSなどの戦闘員約1000人を殺害したと伝えました。
同じく日曜日、トルコの支援を受けるシリア反体制派も、アレッポ県北部のクルド系勢力が支配する都市テルリファートに攻勢を開始し、激しい衝突が起きていると伝えられています。こうした動きに伴い、イランの支援を受ける民兵組織の撤収や、クルド部隊の再配置など、北西部アレッポ周辺の勢力図にも変化が生じています。
民間人に広がる被害と長期化する人道危機
シリア人権監視団は、攻勢が始まった水曜日以降、少なくとも372人が死亡し、そのうち少なくとも20人が民間人だとしています。犠牲者には政府軍と反政府勢力の戦闘員も含まれます。
国連シリア常駐調整官のアダム・アブデルムーラ氏は声明で、度重なる避難を強いられてきた人々が再び家や暮らしを捨てて逃げ出しているとし、「新たに多くの命を緊急に守らなければならない」と警鐘を鳴らしました。最近のレバノンからの帰還者や難民約50万人超の流入前から、シリア国内ではすでに1670万人以上が人道支援を必要としていたといいます。
シリア内戦は14年目に入り、人道危機は深刻さを増しています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が公表した2025年シリア情勢概観は、この紛争がこれまで以上に多くの人々を深刻な貧困へと追い込んでいると指摘し、2025年には国内避難民が約720万人、周辺国のエジプト、イラク、ヨルダン、レバノン、トルコなどに逃れた難民が約620万人に達すると予測していました。
国連児童基金(ユニセフ)は、シリアの子どもたちが世界で最も複雑な人道危機の一つに直面していると警告し、「2024年には約750万人の子どもが人道支援を必要とする」と見込んでいました。シリアの家族の約90%が貧困下で暮らし、崩壊した保健医療体制、安全な水へのアクセス不足、不十分な衛生環境、食料不安が、感染症の拡大と子どもの急激な栄養失調増加につながっているとしています。
- 国内避難民(予測):約720万人
- 国外に逃れた難民(予測):約620万人
- 人道支援を必要とする子ども(見込み):約750万人
- 貧困状態にある家族:全体の約90%
レバノン停戦の「かすかな光」に影
今回の電撃的な攻勢は、イスラエルとレバノン間の停戦が水曜日に発効し、中東地域にわずかながら平和への光が見え始めた矢先に起きました。この停戦自体も、南部レバノン国境地帯でのイスラエル軍による散発的な攻撃が続く中で依然として脆弱な状態にあります。
シリア北西部の緊張の再燃は、中東で新たな暴力の火点が開かれるのではないかという懸念を各国に広げています。
各国がシリアの領土一体性と自制を訴え
こうした中、地域諸国やロシア、欧米諸国などは相次いで声明を出し、シリアの領土一体性の尊重と、関係当事者による自制と対話を求めています。
アラブ首長国連邦(UAE)のモハメド大統領は、UAEは「シリア国家とともにあり、テロとの戦い、主権の行使、領土の統一、安定の実現を支持する」と表明しました。イラクのスーダニ首相も、シリアの安全と安定はイラクの国家安全保障と密接に結びつき、中東全体の安定に不可欠だと強調しました。エジプトのアブデルアッティ外相は、シリアの国家機関への支持と、テロ対策や地域安定におけるシリアの「重要な役割」をあらためて確認しました。
イランのペゼシュキアン大統領は、シリア問題の解決に向けてイスラム諸国の協力を呼びかけ、「地域の安全保障は、域内諸国の努力によって実現でき、外国の介入は必要ない」と述べました。同国外相アラーグチ氏は、その後ダマスカス訪問のため出発したと報じられています。トルコのフィダン外相も、アンカラは「地域の不安定化を深めるいかなる動きにも反対し、シリアにおける緊張緩和のための取り組みを支持する」と述べました。
ロシアのラブロフ外相は、シリアの国家主権と領土一体性、政府と軍による「テロ組織」との戦いに対するロシアの「揺るぎない」支持を表明しました。ロシア国防省は、自国空軍がシリア軍を支援するため、反政府勢力への空爆を実施したと発表しています。ベネズエラ政府も、反政府勢力を「テロリスト」と非難し、シリア国家に対する一切の攻撃を批判しました。
一方、アメリカの国家安全保障会議のサヴェット報道官は、今回の攻勢について「アメリカは一切関与していない」としつつ、事態を注視していると述べました。アメリカは即時の緊張緩和、民間人と少数派の保護、そしてシリア内戦を終結させるための信頼できる政治プロセスの開始を求めています。
フランス外務省は、アレッポ周辺で軍事行動に関与するすべての当事者に対し、国際人道法の順守と民間人の保護を求め、国連を中心とした外交的な解決努力を呼びかけました。イギリス外務省も、関係当事者に交渉と民間人やインフラの保護を求める声明を出しています。
日本からこのニュースをどう捉えるか
今回のシリア情勢は、前線の地図の書き換えだけでなく、すでに限界に近い人道状況にさらなる圧力をかけている点で重要です。複数の武装勢力、シリア政府軍、クルド系部隊、周辺国の支援勢力、ロシア空軍などが同じ空間で動く構図は、偶発的な衝突や誤算のリスクも高めています。
一方で、地域諸国や国際社会の多くが「領土一体性の尊重」と「政治的解決」を改めて強調していることは、中長期的な出口を探るうえで重要なシグナルとも言えます。日本にいる私たちにとっても、シリアのような長期化した紛争が、人道危機だけでなく地域の安全保障や難民問題、エネルギー市場などにどう波及するのかを考えることは、決して遠い世界の話ではありません。
今後は、シリア政府軍の反攻の行方やアレッポ国際空港など要衝の支配状況、テルリファート周辺での戦闘の推移に加え、国連をはじめとする国際社会が停戦や対話の枠組みづくりにどこまで踏み込めるのかが焦点となりそうです。
Reference(s):
Int'l community urges de-escalation amid rebel offensive in Syria
cgtn.com








