フランス政府に崩壊危機 左右野党が不信任案提出、欧州に揺らぎ
フランスで、ミシェル・バルニエ首相率いる政府が崩壊の危機に立たされています。極右政党と左派勢力が不信任案を共同で提出し、1962年以来となる「不信任決議による政権交代」が現実味を帯びています。欧州の中心で起きているこの政治危機は、選挙モードに入ったドイツや、まもなくホワイトハウスに戻るドナルド・トランプ次期米大統領をめぐる国際情勢にも影響を与えそうです。
左右が手を組んだ異例の不信任案
不信任案が提出されたのは現地時間の月曜日、つまりきょう8日です。極右政党の国民連合(RN)と、急進左派の「不屈のフランス」など左派勢力が相次いでバルニエ政権に対する不信任案を下院に提出しました。
RNの指導者マリーヌ・ルペン氏は議会で記者団に対し、「フランス国民はもううんざりしている」と述べ、9月初めに就任したばかりのバルニエ首相は状況を悪化させたと批判しました。そのうえで、政権を退陣に追い込むため不信任案を提出したと強調しています。
RNと左派勢力を合わせると、不信任案を可決するのに必要な票をすでに確保しているとみられています。ルペン氏は、自らの政党が提出する不信任案だけでなく、左派連合の不信任案にも賛成すると明言しており、よほどの番狂わせがない限り、採決が行われる見通しの今週水曜日にバルニエ政権は不信任を突きつけられることになります。
これが現実になれば、フランスで政府が不信任決議によって退陣に追い込まれるのは1962年以来、数十年ぶりとなります。
引き金は社会保障法案と緊縮的な予算
今回の危機の直接の引き金となったのは、社会保障制度をめぐる法案と、歳出削減を伴う予算案です。バルニエ首相は月曜日、RNの支持が得られないことが明らかになるなかで、社会保障法案を議会採決なしで押し通す方針を表明しました。これはフランス憲法が認める手続きですが、野党からは「民主主義のさらなる否定だ」と強い反発が起きました。
左派政党「不屈のフランス」のマチルド・パノ氏は、「この度重なる民主主義の否定に直面し、私たちは政府を問責する」と述べ、「ミシェル・バルニエ政権とエマニュエル・マクロン大統領のもとで、フランスは政治的カオスの中にある」と批判しました。
バルニエ政権は少数与党であり、これまではRNの協力によってかろうじて議会運営を維持してきました。しかし、フランスの膨らみ続ける財政赤字を抑えるため、600億ユーロ(約630億ドル)規模の増税と歳出削減を盛り込んだ予算案を巡って、両者の関係は決定的に悪化しました。
それぞれの陣営の思惑
バルニエ首相側とルペン氏側はともに「譲れるところは譲った」と主張し、決裂の責任を相手に押し付けています。バルニエ首相に近い関係者は、首相がRNに対して大幅な譲歩を行ったとしたうえで、「ここで政府を倒す投票をすれば、ルペン氏が勝ち取った成果はすべて失われることになる。彼女はそれを本当に望んでいるのか」と疑問を投げかけています。
一方で、RNにとっては、バルニエ政権の「支え手」と見なされることは避けたいという計算もあります。左派勢力にとっても、社会保障や公共サービスへの削減を伴う予算案を受け入れる余地は小さく、結果として「左右の反マクロン陣営」が一点で一致した形になっています。
不信任が可決された後のシナリオ
不信任案が可決されれば、バルニエ首相は憲法上、直ちに辞表を提出しなければなりません。ただしマクロン大統領は、日常的な行政を継続するために、バルニエ政権に暫定政権としての続投を依頼する可能性があります。その場合でも、新しい首相の任命は来年に持ち越される可能性が高いとみられています。
現行制度の下では、次の解散総選挙を7月以前に再び行うことはできません。つまり、マクロン大統領は現議会の枠内で、どのような形の政権なら不信任を乗り切れるのかという難しい政治パズルを解かなければならない状況に置かれています。
テクノクラート内閣という選択肢
選択肢の一つとして取り沙汰されているのが、明確な政党色や政策綱領を持たない専門家(テクノクラート)中心の内閣を組閣する案です。政党間の対立をいったん脇に置き、「危機対応のための暫定内閣」と位置付けることで、不信任案の提出を思いとどまらせようという狙いがあります。
ただし、こうした内閣は民主的な正当性の面で批判を受けやすく、どこまで長続きするかは見通せません。
迫る12月20日、予算成立のタイムリミット
政治的な綱引きと同時に、フランス政府には極めて技術的かつ切迫した課題も迫っています。議会が12月20日までに予算を採択できない場合、暫定政権は憲法上の権限を用いて、政令による予算の執行を決めることができます。
しかし、「暫定政権」がこの強力な権限を用いることに法的な疑義があるとも指摘されており、その場合は野党側の反発が一段と強まるのは避けられません。より現実的な案としては、暫定政権が今年度の歳出枠と税制をそのまま延長する緊急立法を提案する可能性が高いとみられています。
その場合、バルニエ政権が掲げていた歳出削減策や財政再建のための措置は棚上げされ、財政赤字の抑制は先送りされることになります。
欧州の「中心」に生じる政治空白
フランスとドイツは長年、欧州連合の「エンジン」として域内統合を主導してきました。現在、ドイツも選挙モードに入っており、フランスで政権が空白状態になれば、欧州の意思決定プロセス全体にブレーキがかかる恐れがあります。
さらに、数週間後にはドナルド・トランプ次期米大統領が再びホワイトハウスに入る予定です。欧州にとって、対米関係や安全保障、貿易政策などで足並みをそろえることがこれまで以上に重要になる局面で、フランスの政治的な不安定さは不確実性を一段と高めかねません。
市場と市民が注目すべきポイント
- 不信任案の採決がどの程度の差で可決されるのか、それとも予想外の形で否決されるのか
- 新たに誕生する政権が、財政赤字の抑制と社会保障の維持という難題にどうバランスを取るのか
- フランスの政治的な揺らぎが、欧州全体の決定プロセスや対米関係にどこまで波及するのか
まとめ:揺れるフランス政治、その先をどう読むか
今回の不信任案は、単なる与野党対立を超え、フランス社会に蓄積した不満と不信が一気に噴き出した局面とも言えます。バルニエ政権が崩壊するかどうかにかかわらず、少数与党と分断された議会という構図は変わらず、フランス政治の不安定さは続く可能性があります。
欧州の一大中核国で起きているこの政治危機が、来年以降の欧州と世界のパワーバランスをどう変えていくのか。今週の不信任採決は、その第一歩となる重要な分岐点になりそうです。
Reference(s):
French government faces collapse as no-confidence motions submitted
cgtn.com








