韓国ユン大統領の弾劾案が不成立 与党欠席で採決流会
韓国の国会で行われたユン・ソンニョル大統領の弾劾訴追案は、与党議員の大規模な欠席により採決が成立せず、廃案となりました。大統領の妻をめぐる疑惑や突然の戒厳令宣言に対する市民の不満が高まるなか、韓国政治は大きな揺れの中にあります。
- 弾劾案は与党議員の退席で定足数を満たせず不成立
- 一方で、ファーストレディ疑惑を捜査する特別検事法案は賛成多数
- 戒厳令宣言をめぐり、野党は大統領を反乱・内乱未遂だと厳しく批判
- 世論調査では弾劾賛成が7割超、支持率は就任以来最低の16%に
与党欠席で弾劾案は不成立に
韓国の国会では土曜日、ユン大統領の弾劾訴追案が採決にかけられましたが、与党の多くの議員が投票を拒否し、議場から退席したため、必要な定足数に達しませんでした。
弾劾案の成立には、300議席のうち200人以上の賛成が必要とされています。しかし、与党側の大半が議場を離れたことで、そもそも投票に参加する議員数が足りず、採決が成立しない異例の事態となりました。
与党・People Power Partyの108人の議員のうち、ほとんどがユン氏の妻をめぐる疑惑の捜査法案に反対票を投じた後、議場から退出。一人だけ残り、さらに二人が戻ってきたものの、大勢は戻らないままでした。
野党側は、最大野党の進歩系・共に民主党などの議員が、与党議員の名前を一人ずつ読み上げ、議場に戻って投票するよう呼びかけましたが、事態は動きませんでした。約3時間にわたり与党議員の復帰を待った末、国会のウ・ウォンシク議長は、定足数不足を理由に弾劾案の廃案を宣言しました。
ファーストレディ捜査の特別検事法案は賛成多数
弾劾採決に先立ち、大統領の妻キム・ゴニ氏に関する疑惑を捜査するための特別検事(特別検察官)法案が採決されました。この採決では、300人の国会議員のうち198人が賛成、102人が反対しました。
与党議員の多くは反対したものの、野党を中心とする賛成票が多数を占め、法案は可決されました。ただし、再可決の際には、少なくとも議員の3分の2の賛成が必要とされており、現在の賛成数198票では、そのラインには届いていません。
キム・ゴニ氏をめぐっては、株価操作による不正利益獲得の疑いに加え、2022年の補欠選挙や2024年の総選挙での候補者選定への介入疑惑、さらには2022年大統領選の際に世論操作に関与したとされる疑惑など、複数の問題が取り沙汰されています。これらはあくまで疑惑の段階ですが、国民の関心と政権への不信を大きく高める要因となっています。
戒厳令宣言が弾劾の中心争点に
今回の弾劾訴追案は、ユン大統領による戒厳令宣言を最大の争点としていました。野党側は、大統領が憲法と法律に反して戒厳令を発動しようとしたと主張しています。
報道によると、ユン大統領は火曜日の夜に緊急戒厳令を宣言しましたが、その後、国会が戒厳令に反対する投票を行ったことを受け、水曜日の早い時間に戒厳令を撤回しました。この撤回は閣議で承認されています。
弾劾案の説明によれば、戒厳令は戦争状態、重大な事件、またはそれに準ずる国家的な非常事態で、敵との交戦や社会秩序の極端な混乱が生じた場合に限って宣言できるとされています。野党側は、宣言当時、こうした国家非常事態の兆候はなかったと指摘し、国会への速やかな通知義務を果たさなかったことも、憲法および戒厳関連法の違反に当たると非難しました。
さらに野党は、弾劾案の中で、ユン大統領が国防相に対し、違法に軍を動員して国会を麻痺させようとしたと主張し、世論の監視や自らと妻の刑事責任追及を逃れるために「反逆」を試みたとしています。これらは野党側の主張であり、司法判断が下されたわけではありませんが、政権への信頼をめぐる対立は一段と深刻化しています。
数十万規模のキャンドル集会と世論の動き
国会の外では、数十万人規模の市民がキャンドル集会を開き、ユン大統領の弾劾採決を求めました。キャンドル集会は、韓国で市民が政治への不満を可視化する方法として定着しており、今回もその象徴的な形となりました。
世論調査でも、弾劾に対する支持の高さがうかがえます。韓国の世論調査会社リアルメーターが水曜日に有権者504人を対象に実施した調査では、ユン大統領の弾劾に賛成すると答えた人は73.6%に達し、反対は24%にとどまりました。
保守系支持が強いとされる慶尚北道や大邱市でも、弾劾賛成は66.2%となり、伝統的な保守地盤においても支持離れが広がっている可能性が示されています。
また、ユン大統領の戒厳令宣言を「内乱」と見なした回答者のうち、69.5%が弾劾に賛成し、24.9%が反対と答えました。戒厳令をどのように評価するかが、弾劾への賛否と密接に結びついていることが分かります。
別の世論調査会社であるギャラップ・コリアの調査では、ユン大統領の支持率は前の週から3ポイント低下し、16%となりました。これは、2022年5月の就任以来、最も低い支持率とされています。
揺らぐ政権基盤と今後の韓国政治
今回の弾劾案は、不成立という形式的な結末を迎えましたが、それは議席の単純な多数・少数というよりも、与党議員の退席という政治的な戦術によるものでした。採決そのものが行われなかったことは、政権への信任をめぐる対立が、制度の枠組みぎりぎりまで先鋭化していることを示しています。
一方で、ファーストレディをめぐる疑惑の捜査法案が賛成多数で可決され、戒厳令宣言に関する批判も続くなか、ユン政権は厳しい世論と向き合わざるを得なくなっています。支持率が16%まで低下していることは、政権の政策遂行能力や与党内の結束にも影響を及ぼす可能性があります。
今後の焦点は、次の3点に整理できます。
- 特別検事によるファーストレディ疑惑の捜査が、どこまで踏み込んだものになるか
- 戒厳令宣言をめぐる法的・政治的検証が、ユン大統領の統治能力への評価をどう変えるか
- 高い弾劾支持と低い政権支持率という世論の圧力に、与党がどう対応するか
弾劾案そのものは一度廃案となりましたが、これで政治危機が収束したとは言えません。むしろ、野党・市民・政権の三者の緊張関係が続くなかで、韓国の立憲主義と民主主義の制度がどのように機能するのかが、引き続き問われる局面が続きそうです。
日本から見える論点とは
日本からこのニュースを見ると、次のような問いが浮かびます。
- 非常事態宣言や戒厳令の権限を、憲法と法律でどう制約すべきか
- トップの家族をめぐる疑惑に対し、政治と捜査機関の距離をどう確保するか
- 大規模な市民デモや世論調査の結果を、議会政治の中でどう位置づけるか
隣国・韓国で起きている政治的な揺れは、単なる「他国のスキャンダル」ではなく、権力の暴走をいかに抑え、民主主義の仕組みを維持・更新していくのかという、より普遍的なテーマを私たちに投げかけています。
韓国政治の動きは、今後も東アジアの安全保障や経済、日韓関係にも影響を与えうる重要な要素です。日本語で最新の国際ニュースを追いながら、制度と世論、リーダーと市民社会の関係を自分なりに考えてみる余地が広がっていると言えるでしょう。
Reference(s):
South Korea's impeachment vote fails as ruling party walks out
cgtn.com








