シリアで反体制派支援の暫定首相就任 北部停戦とイスラエル空爆が交錯
シリアでバッシャール・アル・アサド氏が追放されてからわずか3日。反体制派の支援を受けるモハンマド・アル・バシール氏が暫定首相として権限掌握を宣言し、北部ではクルド系部隊とトルコ支援勢力の停戦が成立する一方、イスラエルはシリア各地に大規模な空爆を行いました。急速に地図が書き換わるシリア情勢を整理します。
反体制派が推すバシール氏、「暫定首相」として就任宣言
今週火曜日、シリアの国営テレビに登場したモハンマド・アル・バシール氏は、自らが「暫定首相」として国のかじ取りを担うと発表しました。バシール氏はこれまで、北西部の反体制派支配地域で行政を率いてきたものの、シリア全体ではほとんど知られていない人物です。
バシール氏によると、新たな暫定当局は少なくとも3月1日まで国を運営する予定で、同日には「政府の引き継ぎと機関の移管」をテーマに閣議を開いたと説明しました。彼の背後には、3日前にアサド氏を打倒した反体制派勢力がついているとされています。
ダマスカスでは日常が徐々に再開、治安はHTS系部隊が担当
首都ダマスカスでは、アサド氏の追放後初めて銀行が営業を再開し、商店も徐々にシャッターを開け始めました。道路には再び車が行き交い、清掃員が通りを掃除する様子も見られるなど、緊張の中にも日常が戻りつつあります。一方で、市内に立つ武装勢力の数は目に見えて減っていると伝えられています。
反体制派に近い複数の関係者によると、反体制派指揮部は戦闘員に対し都市部からの撤退を命じ、その代わりに、主要勢力ハヤート・タハリール・アル・シャーム(HTS)に所属する警察や治安部隊を展開させたということです。HTSは、かつて国際過激派組織アルカイダ系とされていた武装勢力で、近年はジハード色を前面に出さない路線にかじを切ってきたとされています。
北部マンビジでSDFとSNAが停戦合意
シリア北部の要衝マンビジでは、クルド人主体の「シリア民主軍(SDF)」と、トルコが支援する「シリア国民軍(SNA)」との間で続いていた戦闘が、数日ぶりに停止しました。SDFのマズルーム・アブディ司令官は水曜日未明、米国の仲介により両勢力が停戦に合意したと明らかにしました。
アブディ氏は、11月27日以降マンビジ防衛を担ってきた「マンビジ軍事評議会」の戦闘員について、「可能な限り早期に地域から撤退する」と述べ、前線からの退避を示唆しました。これは、トルコ支援勢力の前進を受け、マンビジからのSDF撤退を安全に行うことで事前に米国とトルコが合意していた枠組みに沿うものです。
SDFは、米国主導の有志連合が「イスラム・ステート」と戦う上での主要な同盟勢力とされてきました。一方トルコ側は、SDFの中核を、トルコ国家と40年にわたり武力衝突を続けてきたクルド労働者党(PKK)と密接な関係を持つ「テロ組織」だと批判しています。
今回の停戦で、北部戦線はいったん小康状態となりましたが、マンビジや周辺地域の支配権がどの勢力に落ち着くのかは、なお不透明です。
イスラエルが48時間で350回の空爆、「戦略兵器の大半を破壊」と主張
こうした地上の動きと並行して、イスラエルはシリア全土にわたり大規模な攻撃を実施しました。イスラエル軍は火曜日、過去48時間でダマスカスを含むシリア各地に約350回の空爆を行い、「シリアが保有する高度な兵器のほとんど」を標的にしたと発表しました。
また、ミサイル艇による攻撃で、シリア海軍の施設があるアル・ベイダとラタキアの港も打撃を受けました。そこにはシリア海軍の艦艇15隻が停泊していたとされています。イスラエル軍は声明で、今回の作戦により「シリア国内の戦略兵器の大半を無力化した」と説明し、こうした兵器が「テロ組織の手に渡るのを防ぐこと」が目的だと主張しました。
ネタニヤフ氏、新政権との関係構築に言及しつつ強硬姿勢も
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は火曜日夜、テルアビブの軍本部キリヤから発表したビデオ声明で、シリアの新暫定政権との関係構築に前向きな姿勢を示しました。一方で、新指導部がイランの再進出や、イラン製を含む各種兵器のヒズボラへの移送を許したり、イスラエルへの攻撃を行ったりした場合には、「強力に報復し、重い代償を払わせる」と警告しました。
ゴラン高原周辺の非武装地帯にも進駐、周辺国が懸念
アサド氏が日曜日に国外へ逃れた後、イスラエル軍は1973年のアラブ・イスラエル戦争後に設定されたシリア側の非武装地帯に進軍しました。ダマスカスを見下ろす戦略的高地ヘルモン山のシリア側にある放棄された軍事拠点を掌握したほか、軍報道官によれば、現在もこの緩衝地帯とその周辺の「いくつかの追加地点」に部隊がとどまっているといいます。
一方、シリア側の情報源は、イスラエル軍が非武装地帯を越えて東に数キロ進み、ダマスカス空港から車で程近いカタナの町まで到達したと主張しました。しかしイスラエル軍は、こうした主張を否定し、「非武装地帯を大きく越えてシリア領奥深くまで侵攻した事実はない」と説明しています。
イスラエル軍の越境行動については、トルコ、エジプト、カタール、サウジアラビアが相次いで非難声明を出しました。
国連特使「イスラエルの攻撃は停止すべき」
シリア問題を担当する国連事務総長特使のゲール・ペデルセン氏は火曜日の記者会見で、イスラエルによるシリアへの軍事行動に強い懸念を示しました。ペデルセン氏は「現在もイスラエルによるシリア領内への動きと砲爆撃が続いていることは、非常に憂慮すべき事態だ。これは止める必要がある」と述べ、即時停止を求めました。
揺れるシリア、これからの焦点は
アサド体制崩壊から日が浅いなか、シリアでは複数の武装勢力と周辺国、そして国際機関の思惑が複雑に絡み合っています。ダマスカスでの暫定政権樹立、北部マンビジの停戦、イスラエルによる空爆と越境行動は、それぞれ別個の出来事に見えつつも、シリアと中東全体の安全保障地図を同時に揺さぶっています。
今後の情勢を見るうえで、少なくとも次の点が重要になりそうです。
- バシール暫定政権が、どこまで全国的な統治能力と正統性を獲得できるか
- HTSを含む反体制派武装勢力が、治安機構や政治プロセスにどう組み込まれていくのか
- マンビジ停戦が北部全域の安定につながるのか、それとも新たな衝突の火種となるのか
- イスラエルとシリア新政権の関係が、イランやヒズボラをめぐる対立を緩和するのか、逆に先鋭化させるのか
急速に再編されつつあるシリア情勢は、地域全体の安全保障だけでなく、難民問題やエネルギー、テロ対策といった幅広い課題にも波紋を広げる可能性があります。短いニュースの見出しだけでは見えにくい構図を意識しながら、今後の動きを丁寧に追っていく必要があります。
Reference(s):
Rebel-backed figure takes charge as Syria's interim prime minister
cgtn.com








