シリアで揺れる政治移行と制裁緩和 国連特使とHTSリーダーの発言は何を示す?
シリアの首都ダマスカスで、国連のシリア特使ゲール・ペデルセン氏が「新しいシリア」への希望とともに、包摂的な政治移行と経済制裁の緩和の必要性を語りました。武装勢力ハイヤト・タハリール・アル=シャーム(HTS)などがダマスカスに入ってからわずか11日という、きわめて流動的な状況のなかでの発言です。
2025年12月8日現在、この動きはシリアの将来だけでなく、制裁政策や紛争後の復興をどう設計するかという国際的な議論にも直結しており、国際ニュースを追う読者にとって見逃せない局面になっています。
「新しいシリア」への期待と不安
ペデルセン特使は、今月水曜日にダマスカスで記者団に対し、最近の政治的な激変を受けて「新しいシリア」の可能性が見え始めているとの見方を示しました。一方で、「HTSなどのグループがダマスカスに入ってからまだ11日しか経っていない」として、現時点では「まだ初期段階」にすぎないとも強調しています。
特使はここ数日間で、HTSや他の武装勢力、シリア国民連合の関係者に加え、拘束・失踪者の家族、市民社会の関係者、女性の活動家らと相次いで面会しました。これは、政治の当事者だけでなく、被害者家族や市民社会、女性の声も取り込もうとする「包摂的なプロセス」を意識した動きだといえます。
安保理決議2254に沿う政治プロセス
ペデルセン氏が描く「新しいシリア」の青写真は、国連安全保障理事会決議2254に沿ったものだと説明されています。同氏は、すべてのシリアの人々にとっての「新しい社会契約」を保証する新憲法を採択し、そのうえで移行期間を経て自由で公正な選挙を実施する道筋を示しました。
これは、武装勢力を含むさまざまな当事者の力関係だけでなく、拘束・失踪者問題や市民の権利保障をどう位置づけるのか、といった論点も内包する複雑なプロセスです。誰が交渉のテーブルにつき、誰の声がどの程度反映されるのかが、今後の焦点になりそうです。
北東部クルド支配地域の停戦と「全国的な和平」
ペデルセン特使は、シリア北東部のクルド勢力が支配する地域で停戦が更新されたことも歓迎しました。同氏は、この地域の問題が十分に扱われないかぎり、シリア全体の持続的な平和は確保できないと警告し、政治的な解決の必要性を改めて訴えています。
局地的な停戦は、住民にとっては暴力の一時的な緩和を意味しますが、政治プロセスと結びつかなければ、容易に後退するリスクもあります。北東部の停戦が、単なる軍事的な小休止に終わるのか、それとも全国的な政治対話への足がかりとなるのか。ここも国際社会が注視すべきポイントです。
深刻な経済危機と制裁緩和をめぐる議論
ペデルセン氏が強く懸念を示したのが、シリアの深刻な経済状況です。同氏は、シリアが直面する「急激な経済的困難」を重大な課題として挙げ、即時の人道支援に加え、復興に向けた措置、そして制裁の緩和の可能性に言及しました。
特使は「経済回復を実現し、制裁を終わらせるプロセスを始める必要がある」と述べています。これは、政治プロセスの進展と経済制裁の見直しを、どのようにリンクさせるのかという難しい問いを突きつけます。
人道支援・復興・制裁はどう両立するか
一般に、制裁は政権側への圧力手段である一方、市民生活に影響を与えかねないというジレンマを抱えます。ペデルセン氏の発言は、シリアにおいても同じ問いが突きつけられていることを示しているといえるでしょう。
- 政治移行の進展に応じて段階的に制裁を緩和するのか
- 人道支援や基礎インフラの復旧を制裁の対象外として広げるのか
- 誰が、どの条件を満たしたと判断するのか
こうした点は、今後の国際的な協議の核心となる可能性があります。
HTSリーダーが訴える「制裁解除」とイメージ転換
HTSの指導者アフマド・アル=シャラー氏(通称アブ・モハンマド・アル=ジュラニ氏)は、BBCのインタビューで、シリアへの国際的な制裁の解除を強く求めました。同氏は、シリアは世界にとって脅威ではないと主張し、制裁を続ける理由はないと訴えています。
さらにシャラー氏は、テロ組織に指定されているHTSについて「HTSはテロ組織リストから外されるべきだ」と述べ、その理由として「民間人や民間地域を標的にしていない」と強調しました。
インタビューでは、シリアをアフガニスタンのような形に変えたいのではないかという疑念についても否定しました。同氏は、両国では伝統や考え方が異なるとしたうえで、女性の教育の重要性を信じているとも語っています。
政治参加を見据えた発信か
HTSがテロ組織リストからの解除を求め、女性の教育への支持などを打ち出していることは、国際社会に対して自らのイメージを変えようとする動きとも受け取れます。今後、政治プロセスが進む中で、こうした武装組織がどのような役割を果たしうるのか、そして市民社会や被害者家族がそれをどう受け止めるのかは、大きな論点となりそうです。
一方で、武装組織の過去の行動をどう検証し、責任をどのように問うのかという「責任追及」と「和解」のバランスも、政治移行プロセスの正当性を左右します。このバランスをどう取るのかについて、現時点で明確な答えは示されていません。
シリア政治移行をめぐる3つの論点
2025年12月上旬の時点で見えるシリア情勢のポイントを、あえて3つに整理すると次のようになります。
- 包摂的なプロセスになりうるか
HTSや他の武装勢力、シリア国民連合だけでなく、拘束・失踪者の家族、市民社会、女性の活動家など、多様な当事者の声がどこまで反映されるのか。 - 新憲法と選挙の順番と中身
新しい社会契約としての憲法をどう設計し、そのうえで移行期間を経た自由で公正な選挙を実現できるのか。そのプロセスを誰が監督し、信頼性を担保するのか。 - 制裁と経済・人道状況のリンク
政治的な前進と引き換えにどのように制裁を見直すのか。経済回復や人道支援を進めながら、どのように責任追及や政治的圧力とのバランスを取るのか。
これらはどれも簡単に答えの出ない問いですが、ペデルセン特使やHTSリーダーの発言は、シリアがまさにその分岐点に立っていることを示しています。
これから私たちが注視すべきこと
今後、注目したいのは次のような点です。
- HTSや他の武装勢力が、政治プロセスへの参加をどのような形で模索していくのか
- 北東部クルド支配地域の停戦が維持され、より広い政治対話につながるのか
- 国際社会が、制裁緩和と人道支援・復興支援の組み立てをどう議論していくのか
シリア情勢は、紛争後の政治移行や制裁政策をめぐる国際的な「試金石」となりつつあります。newstomo.comとしても、この「読みやすいのに考えさせられる」テーマを、今後も継続的に追いかけていきます。
Reference(s):
Inclusive political transition and easing of sanctions urged in Syria
cgtn.com








