韓国の政治危機、出口見えず 戒厳令・弾劾・逮捕拒否をどう読むか
戒厳令の宣言、国会による弾劾、そして逮捕への抵抗。韓国で続く尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏をめぐる政治危機は、専門家が「出口が見えにくい」と評する局面に入っています。本記事では、現地研究者とアナリストの視点から、この政治危機の構図と今後の焦点を整理します。
尹錫悦氏の戒厳令と弾劾、そして逮捕拒否
韓国の政治危機は、尹錫悦氏が12月3日に戒厳令を宣言したことから一気に表面化しました。この戒厳令は広く非難を浴び、大規模な抗議行動を呼び起こし、やがて国会による弾劾訴追へとつながりました。
国会は12月14日に弾劾案を可決し、尹氏は職務を停止されました。現在は憲法裁判所が弾劾の是非を審理しており、韓国はトップ不在に近い「政治的な空白」の状態に置かれています。
現在の主なポイント
- 戒厳令宣言とそれに続く国会での弾劾訴追
- 尹氏に対する「内乱」容疑と逮捕への抵抗
- 街頭で対峙する支持派と反対派、「空間の政治」の再来
- 世論の揺れと世代間の分断
- 財閥経済への影響は限定的との見方
同時に、尹氏には「内乱」の疑いもかけられています。汚職などを捜査する高位公職者犯罪捜査処は、尹氏が戒厳令への反対票を防ぐために、議会から議員を力ずくで排除する権限行使を承認したとして、10項目にわたる起訴内容を示しました。
金曜日には、この捜査機関の担当者が尹氏の公邸で逮捕を試みましたが、警護チームや支持者の抵抗に遭い、現場は約6時間に及ぶ対峙状態となりました。安全上の懸念から、捜査側は最終的にいったん撤退したとされています。
オンラインから路上へ、「空間の政治」が再び
ソウル女子大学で韓国学を教えるデービッド・ティザード准教授は、この政治危機の背景に「空間の政治」の再来があると指摘します。尹氏の支持者と批判派、そして捜査当局や警察が、それぞれ街頭で「存在感」を示そうとしているからです。
政治的な議論の多くがSNSやオンライン空間に移っていたなかで、再び人々が物理的な空間をめぐってせめぎ合う構図になっているといいます。ティザード氏は「空間の政治が現実世界に戻ってきている」と述べ、政治が再び身体性と場の力を伴う局面に入ったと分析しています。
国を覆う喪と分断されたリーダーシップ
今回の政治危機は、旅客機墜落事故の犠牲者を悼む全国的な服喪期間とも重なっています。社会全体が悲しみにある時期だけに、政治指導者には本来、希望を語り、社会を前に進める役割が期待されます。
しかし現状では、街頭での対立と政治的不信が前面に出ています。ティザード氏は「政治指導者は人々を鼓舞し導く存在であるはずなのに、目に見えるのは深い分断だ」と語り、このタイミングでの政治混乱が国民心理に与える影響の大きさを懸念しています。
「ポピュリスト国家」としての韓国と世論の行方
ティザード氏が強調するのは、法的プロセスだけでなく「世論」の動向です。韓国社会はポピュリズム的な性格が強く、大統領制と直接選挙の組み合わせのもと、街頭の声や支持率が政治のダイナミクスを大きく左右してきました。
氏は「問題は人々がどう動くかだ。月曜日になっても街頭にとどまるのか、それとも職場や日常に戻るのか」と問いかけます。生活のスピードが速い韓国では、短期間で情勢が一変することも珍しくありません。政治危機が一時的な噴出にとどまるのか、それとも長期的な分断として定着するのかは、まさに今後の市民の選択にかかっています。
尹氏の戦略は「先延ばし」?エイナー・タンゲン氏の見方
シンクタンクTaihe Instituteの上級研究員であるエイナー・タンゲン氏は、尹氏の対応を「引き延ばし戦略」と見ています。タンゲン氏によれば、尹氏は時間を稼ぐことで世論が自らの側に傾くことを期待している可能性がありますが、「その望みはかなり薄い」と指摘します。
世論調査などを踏まえると、尹氏は高齢層には一定の支持基盤を持つ一方で、若い世代と人口の多数派からは支持されていないといいます。重い起訴内容が突きつけられているなかで、時間だけで形勢を逆転させるのは難しいという見立てです。
タンゲン氏は、高位公職者犯罪捜査処による10項目の起訴内容について、議会での戒厳令反対票を封じるために、議員の排除に武力を用いることを認めた疑いが含まれていると説明します。そのうえで「それが法的に正当な手続きとは言い難い」と述べ、尹氏がこの疑惑を乗り越えるハードルは高いとみています。
経済と財閥への影響は限定的との見方
政治的な混乱が続くなかで、韓国経済への影響も注目されています。とくにサムスンなどの大手財閥グループ、いわゆる「チャボル」がどこまで影響を受けるのかは、日本を含む海外の関係者にとっても関心事です。
しかしタンゲン氏は、今回の危機が財閥の事業運営に与える直接的な打撃は大きくないとみています。サムスンのような巨大企業は数年先を見越して投資や供給網を設計しており、一政権をめぐる政治スキャンダルは「韓国の歴史におけるまた一つの出来事」として処理される可能性が高いと指摘します。
これは裏を返せば、政治の不安定さと経済エリートの分離が進み、両者の距離感が広がっていることも意味します。政治の危機が市民生活や中小企業に重くのしかかる一方で、巨大企業は比較的冷静に状況を見ている構図とも言えます。
出口なき危機が投げかける問い
ティザード氏は「ここから事態がどう前進するのか、ほとんど想像がつかない」と話し、政治・立法・司法の三つの権力が同時に行き詰まる異例の状況を強調します。形式上の法的手続きは進んでいても、社会の分断をどう癒やすかという問いには答えが見えていません。
韓国はこれまでも、市民の動員と制度政治のせめぎ合いを通じて、大きな危機を乗り越えてきました。今回の弾劾と政治危機が、その歴史のどこに位置づけられるのかは、今後の展開次第です。
日本を含む周辺国にとっても、韓国の政治安定は経済、外交、安全保障の面で重要な意味を持ちます。街頭に立つ市民、法廷で審理を進める裁判官、そして時間を稼ごうとする政治家たち。その三者の駆け引きが、韓国の民主主義のあり方をどのように変えていくのか、引き続き注視する必要がありそうです。
Reference(s):
Analysts say resolution hard to find in South Korea's political crisis
cgtn.com








