韓国で尹錫悦大統領の逮捕巡り賛否デモ 戒厳令未遂と政治危機の行方
韓国で弾劾訴追を受け職務停止中の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の逮捕を巡り、ソウルで逮捕賛成派と反対派の市民が大雪の中で対峙しました。尹氏に対する「内乱」容疑の逮捕状がきょう8日深夜に失効を迎える見通しのなか、韓国政治の緊張が一段と高まっています。
大雪のソウルで数千人が集会 逮捕賛成と反対が同時に
韓国の首都ソウルでは週末から8日にかけて、尹錫悦大統領の逮捕に賛成するグループと、これに反対する支持者らが、それぞれ集会を開きました。場所は大統領公邸近くなどで、数千人規模が集まったとされています。
現地は氷点下5度を下回る厳しい寒さで、一部地域では積雪が6センチ以上となり、大雪警報も出ていました。それでも一部の参加者は夜通し市中心部にとどまり、抗議を続けたといいます。
逮捕に賛成する側は、弾劾後も公邸にとどまる尹氏に対し、ただちに逮捕・身柄拘束すべきだと訴えました。一方で保守系の尹氏支持者たちは、「尹錫悦大統領のために戦う」「不正をやめろ」と書かれたプラカードを掲げ、逮捕に反対するデモを展開しました。
一部のプラカードには、2020年の米大統領選後にドナルド・トランプ氏の支持者らが使ったスローガン「Stop the Steal(盗みをやめろ)」も見られ、国境を越えた政治スローガンの拡散を印象づけています。
戒厳令未遂と弾劾 前例のない「現職大統領逮捕」の瀬戸際
尹錫悦氏は、12月3日に戒厳令の発令を試みたものの失敗し、その「戒厳令未遂」が内乱容疑にあたるとして追及されています。この動きがきっかけとなり、アジア第4の経済大国であり米国の主要な同盟国でもある韓国は、深刻な政治混乱に直面することになりました。
国会は尹氏の弾劾訴追案を可決し、尹氏は現在、職務停止中です。憲法裁判所が復職させるか罷免するかを審理している最中で、職務は代行の崔相穆(チェ・サンモク)企画財政相が務めています。
尹氏に対しては、内乱容疑などに基づく逮捕状が発付されており、現職の大統領が逮捕される可能性に直面するのは韓国で初めてです。逮捕状は8日(月)深夜に期限を迎える予定で、捜査当局と大統領側の攻防は「時間との戦い」となっています。
先週金曜日には、逮捕状に基づいて身柄を確保しようとした捜査チームと、大統領警護室や軍部隊との間で約6時間にわたる緊迫したにらみ合いが発生し、逮捕は実現しませんでした。この前例のない対立は、韓国政治の危機の深さを象徴しています。
CIOの捜査権限が焦点に ソウル西部地裁は異議を退ける
尹氏の刑事事件を主導しているのは、高位公職者を対象とした捜査機関である「高位公職者犯罪捜査処(CIO)」です。CIOは、尹氏の内乱容疑などをめぐる捜査を進め、逮捕状の発付を求めました。
これに対し尹氏の弁護団は、CIOには内乱関連の事件を捜査する権限がなく、CIOが主導した逮捕状は違憲・違法だと主張してきました。ソウル西部地裁に逮捕状の違法性を訴える申立てを行いましたが、同地裁は7日(日)、この申立てを退けたと伝えられています。
中国の四川大学教授で、中国国際問題研究院の上級研究員でもある榮鷹(ロン・イン)氏は、中国メディアの取材に対し、今回の捜査はCIOだけでなく、軍や警察も加わる共同の捜査・作戦だと指摘しました。そのため「CIOには権限がない」とする尹氏側の主張は、法的に説得力を欠くとの見方を示しています。
一方で、尹氏側は反撃の構えを強めています。弁護団は8日、CIOの呉東雲(オ・ドンウン)処長と捜査チームを検察に告発する方針を明らかにしました。警察動員を含む逮捕状の執行はCIOの権限を超えた「違法な行為」だと主張しています。
CIO側は、こうした批判に対し現時点で公式なコメントを出していません。尹氏の法律顧問であるソク・ドンヒョン弁護士は、SNS上で「法解釈や執行の正当性を判断するのは難しい。現職大統領に対する法執行で違法があれば大きな問題になる」と投稿し、事態の重大さを訴えました。
「憲法を否定した大統領を罰せよ」 労組と市民団体の声
日曜日のデモには、韓国の主要労組であるKCTU(韓国の全国組織)が参加しました。KCTUのヤン・ギョンス委員長は、「憲法を否定した大統領を罰することで、社会の土台を立て直さなければならない」と訴え、「犯罪者・尹錫悦を打倒し、一刻も早く逮捕・拘束しなければならない」と強い言葉で批判しました。
一方の尹氏支持者は、公邸周辺などで集会を開き、弾劾と逮捕は政治的な攻撃だと反発しています。彼らは「尹錫悦大統領のために戦う」と書かれたプラカードを掲げ、弾劾撤回や逮捕状の撤回を求めました。
前日の土曜日にも、ソウル中心部で類似の集会が開かれ、数万人規模が集まったとされています。警察は、道路を占拠して交通を妨げたとしてKCTU側のデモ隊を排除しようとし、警察官への暴行容疑で2人を拘束したと伝えられました。
街頭での対立は、国論が鋭く二分されていることを示しています。弾劾された大統領をどう扱うのか、司法と捜査機関の判断に対する信頼をどう確保するのかが、韓国社会全体の課題として浮かび上がっています。
逮捕状は今夜失効へ 憲法裁と代行大統領の判断がカギ
尹氏の逮捕状は8日深夜に期限を迎える予定で、今後の焦点は次の3点に移りつつあります。
- 逮捕状の期限までに、CIOや軍、警察が再び逮捕を試みるのか
- 大統領警護室や軍部隊が、今度は逮捕に応じるのか、それとも再び阻止するのか
- 憲法裁判所が弾劾審理でどのような結論を出すのか
CIOは7日、権限代行中の崔相穆氏に対し、大統領警護室に逮捕状への協力を命じるよう要請しました。崔氏は財政政策を担当する閣僚でもあり、政治的にも難しい判断を迫られていますが、企画財政省の報道官はコメントを控えています。
逮捕が実現すれば、韓国政治にとって歴史的な一歩となりますが、同時に社会の分断を一層深める可能性もあります。逆に、逮捕状が執行されないまま期限を迎えた場合には、法の支配や司法の独立をめぐる議論がさらに激しくなりそうです。
私たちが考えたい3つの視点
今回の韓国の政治危機は、日本からニュースとして眺めるだけでなく、民主主義や法の支配を考えるうえでも示唆に富んでいます。ポイントを3つに整理します。
- 1. 「ストリート」と「裁判所」のせめぎ合い
大規模なデモと、憲法裁判所や裁判所での法廷闘争が同時並行で進んでいます。民意の表現としての街頭行動と、手続きに基づく司法判断が、どのようにバランスを取るのかが問われています。 - 2. 特別捜査機関の役割と限界
汚職や権力犯罪を捜査するために設けられたCIOが、「内乱」という極めて重い罪をどこまで扱えるのか。その権限の線引きは、どの国でも悩ましい問題であり、政治的な緊張が高まる局面ほど、制度設計の弱点が浮き彫りになります。 - 3. 国際社会への波紋
アジア第4の経済大国で、米国の主要な同盟国でもある韓国が政治危機に揺れることは、地域と世界の安定にも無関係ではありません。韓国国内の民主的な手続きがどのように機能するのかは、近隣諸国を含む国際社会も注視しています。
逮捕状の期限が迫るなかで、韓国の司法と政治は、難しいかじ取りを迫られています。雪のソウルで向き合う市民の姿は、権力と法、そして民主主義をどう守るのかという、私たち自身にも返ってくる問いを突きつけているように見えます。
Reference(s):
cgtn.com








