トランプ2期目のアメリカ政治でDEIはどう変わる?多様性をめぐる新たな攻防 video poster
バイデン政権が進めてきた「多様性、公平性、包摂(DEI)」政策を見直すとトランプ氏が表明し、アメリカ政治の方向性に世界の注目が集まっています。本稿では、ワシントンから伝えられたケイト・フィッシャー記者のリポートを手がかりに、トランプ氏2期目の下でDEIはどう変わりうるのかを整理します。
就任式と「キング牧師の日」が重なった一日
2025年1月20日、ワシントンにはドナルド・トランプ氏の2期目就任式を見ようと大勢の人々が集まりました。同じ首都の別の場所では、公民権運動の象徴であるマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師をたたえる「キング牧師の日」の行事も行われました。
アメリカで人種差別と闘ったキング牧師の記念日と、トランプ氏の就任式が同じ日に重なったことは、象徴的な出来事です。公民権と平等をめぐるアメリカ社会の長い歴史の上に、今の政治があることをあらためて映し出したと言えるでしょう。
トランプ氏が「逆転」を宣言したDEI政策とは
ケイト・フィッシャー記者の伝えるところによると、トランプ次期大統領(当時)は就任を前に、バイデン政権の「エクイティ(公平性)」と「インクルージョン(包摂)」の政策を逆転させたいと語りました。つまり、バイデン政権が進めてきたDEIの取り組みを見直し、別の方向性を打ち出す意向を示したことになります。
ここで言うDEIとは、おおまかに次のような考え方を指します。
- ダイバーシティ(多様性):性別、人種、出自、障がいの有無などが異なる人々が共にいること。
- エクイティ(公平性):一人ひとりの出発点の違いを考慮し、結果として不利にならないよう支援や制度を調整すること。
- インクルージョン(包摂):少数派や弱い立場の人も意思決定の場に参加し、声が反映されるようにすること。
トランプ氏が具体的にどの制度やプログラムをどこまで変えようとしているのかは、発言だけからは限定的にしか分かりません。しかし、「公平性」や「包摂」を掲げたバイデン政権の路線を「逆転させる」というメッセージは、アメリカ国内の価値観の対立を象徴するものとなっています。
支持層と反対派、それぞれの見ているもの
トランプ氏のDEI見直しに賛成する人々は、しばしば次のような懸念を抱いています。
- 特定の集団を優遇しすぎると、別の人々にとって「逆差別」になるのではないか。
- 企業や大学での研修や人数目標が、自由な競争や表現の自由を損なうのではないか。
- 「政治的に正しい」言葉や考え方を押しつけられていると感じる。
一方で、バイデン政権のDEI路線を支持する人々は、次のような点を重視してきました。
- 歴史的に不利な立場に置かれてきた人々の格差を、そのままにしておくことはできない。
- 多様な背景を持つ人が意思決定に参加することで、組織や社会の質が高まる。
- 差別や排除の経験は今も続いており、放置すれば見えにくい形で固定化してしまう。
同じ「公平」や「自由」という言葉を使っていても、その中身のイメージが大きく違うことが、DEIをめぐる激しい対立につながっています。
2期目トランプ政権で想定される変化のシナリオ
トランプ氏が掲げる「逆転」がどのような形を取るのかは、今後の人事や具体的な政策次第です。ただ、方向性としては、次のような変化が想定されます。
- 連邦政府の方針変更
官庁や公的機関で行われてきた多様性研修、採用・昇進のガイドライン、補助金の条件などが見直される可能性があります。 - 教育現場への波及
大学や学校での人種やジェンダーに関する教育プログラムに対する政治的な監視が強まれば、教室で扱えるテーマが変わるかもしれません。 - 企業のDEI戦略の再調整
政府の姿勢が変わることで、一部の企業はDEIへの投資を抑えようとする一方、独自に多様性の取り組みを続ける企業も出てくると考えられます。
いずれのシナリオにおいても、アメリカ社会全体で「誰のどんな不公平を優先して正すのか」という問いが、より先鋭的に突きつけられることになりそうです。
キング牧師の遺産と、これからの対話
キング牧師の日に合わせて行われた式典では、毎年のように「夢」という言葉が語られます。人種や出自に関わらず、すべての人が尊厳を持って扱われる社会への「夢」です。
トランプ氏によるDEI政策の見直しは、その夢にどう向き合うのかという問いを、アメリカ社会にあらためて投げかけています。平等とは何か、公平とは何か、国家はどこまで格差是正に関与すべきなのか――答えの出ていない論点が、これから数年の政治と世論の中心に置かれるでしょう。
日本からこの議論をどう読み解くか
アメリカのDEIをめぐる議論は、単なる「よその国の内政」ではありません。グローバル企業や大学、国際機関で共有されている価値観の変化は、日本社会にも少しずつ影響を与えています。
日本でも、ジェンダーや障がい、外国にルーツを持つ人々などをめぐる「多様性」の議論が進みつつありますが、「公平性」や「包摂」をどう具体化するかは、まだ手探りの段階です。アメリカ政治の動きをニュースとして追うだけでなく、「自分の身の回りで、どんな不公平が見えにくくなっているだろう」と問い直してみるきっかけにもできそうです。
トランプ氏2期目のアメリカ政治の下で、DEIがどのような姿をとるのか。その過程をていねいに追うことは、日本社会のこれからを考えるうえでも、重要なヒントを与えてくれるはずです。
Reference(s):
What will 'diversity, equity and inclusion' look like under Trump?
cgtn.com








