アウシュビッツ解放80年 生存者の声と広がる極右・ヘイトを考える
世界はきょう、アウシュビッツ強制収容所の解放から80年を迎えました。現地で行われた記念式典には、生存者と欧州の指導者が集まり、ホロコーストの記憶をどう未来につなぐかが改めて問われています。
アウシュビッツ解放80周年、式典の焦点は「聞くこと」
アウシュビッツは、ナチス・ドイツが運営した強制収容・絶滅収容所の中で最大規模の施設で、第二次世界大戦中に約600万人のユダヤ人が虐殺されたホロコーストの象徴とされています。そのうち約100万人のユダヤ人が1940年から1945年までの間にアウシュビッツで殺害され、ユダヤ人以外にも10万人を超える人々が命を落としました。
解放の日は、国連が定める「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」となっており、80周年となる今年は約50人の生存者と、エマニュエル・マクロン仏大統領、オラフ・ショルツ独首相、アンジェイ・ドゥダ・ポーランド大統領など欧州各国の指導者が、アウシュビッツ第二・ビルケナウ収容所の門前に集まりました。
アウシュビッツ=ビルケナウ記念博物館の広報担当パヴェウ・サヴィツキ氏によると、式典では政治家の演説は行わず、指導者たちは生存者の証言に耳を傾けることに専念します。
サヴィツキ氏は「生存者のグループが目に見える形で参加できる節目の記念式典は、これが最後になることを私たちは理解しています」と述べ、今のうちに証言を聞くことの重要性を訴えました。「あと10年もすれば、こうした集まりは不可能になるでしょう。だからこそ、私たちは生存者の声、証言、個人的な物語に耳を傾け続けるべきです」と語っています。
式典で訪問者を迎えたドゥダ大統領も、「ドイツがこの収容所を建設した土地に暮らす私たちポーランド人は、記憶の番人なのです」と強調しました。
生存者が訴える「歴史を繰り返さない」ための記憶
今回のアウシュビッツ解放80周年に合わせ、世界各地の生存者がメディアの取材に応じ、「生き証人」がいなくなった後に、どう記憶を残していくのか、そしてなぜそれが今も必要なのかを語っています。
生存者の一人で92歳のエヴァ・セペシさんは、インタビューの中で、世界で広がる過激主義や右派ポピュリズムに強い危機感を示しました。「とても恐ろしい状況です。本当に恐ろしい。だからこそ、物事が始まりそうな一番初めの段階で、私たちは何かをしなければならないのです」と訴えています。
マクロン大統領も、式典を前にSNS「X」に投稿し、「命を落としたすべての人の名において、私たちは反ユダヤ主義と憎悪に対してたゆまず闘わなければならない。私たちは、彼らの『記憶の記憶』でいよう」と呼びかけました。
極右の台頭と「罪を忘れたい」という欲望
一方で、ナチスの人種主義的な優越思想の名の下に行われた犯罪をどう記憶するかは、近年、ヨーロッパ政治の中で一段と鋭い対立点となっています。背景には、各国で支持を伸ばす極右政党の存在があります。
ドイツでは、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、選挙で2番手となる勢いを見せる中、党の支持層の一部にはホロコーストを巡る歴史的責任を相対化しようとする動きがあります。
こうした支持者に向け、アメリカの実業家イーロン・マスク氏はビデオ演説を行い、「子どもたちは親の罪、ましてや曽祖父母の罪の責任を負うべきではない」と語りました。マスク氏は、米国大統領ドナルド・トランプ氏の有力な顧問としても知られており、その発言は大きな注目を集めています。
ポーランドのドナルド・トゥスク首相は、この演説について「AfD集会の中心人物たちから語られた『偉大なドイツ』や『ナチス犯罪に対するドイツの罪を忘れるべきだ』といった言葉は、あまりに聞き覚えのある、不吉な響きを持っていた」と批判しました。トゥスク氏は、とりわけアウシュビッツ解放80周年の直前というタイミングを問題視しています。
マスク氏によるAfD支持の表明には、ショルツ首相らからも強い反発が出ており、ショルツ氏は、こうした極右勢力への支援は「ヨーロッパの民主主義を危険にさらす」と警鐘を鳴らしています。
「遠い歴史」ではない 世界で続く過激主義とヘイト
アウシュビッツの解放から80年がたった現在も、政治的な過激主義やヘイトに根ざした暴力は各地で続いています。ホロコーストの記憶は、「過去の出来事」ではなく、現在進行形の問いとして突きつけられています。
たとえば、2021年1月にアメリカの連邦議会議事堂が襲撃された事件では、極右の陰謀論や暴力的な過激思想が大きな役割を果たしました。この事件は、民主主義の中核とされる議会が、いかに脆くなり得るかを世界に示しました。
また、2023年10月7日にイスラエルとパレスチナの武装組織ハマスとの武力衝突が始まって以降、アメリカやイギリスなど一部の国では、イスラム教徒への差別や攻撃的な言動が増加したと報告されています。反ユダヤ主義と同様に、イスラム教徒への偏見や憎悪も、社会の分断を深める深刻な問題となっています。
国際社会の動き ヘイトスピーチと人種差別をどう抑えるか
こうした状況を受け、国連機関は数年前から、ヘイトスピーチや人種差別、過激主義に対する国際的な行動を呼びかけてきました。2023年6月には、国連安全保障理事会が決議第2686号を採択し、加盟国に対してヘイトスピーチや人種差別、過激主義を公然と非難し、抑止するよう求めています。
決議は、武力紛争やテロだけでなく、オンライン空間で拡散する憎悪の言葉が、実際の暴力や迫害へとつながり得ることを強調しています。アウシュビッツのような大量虐殺の悲劇は、一夜にして起きたわけではありません。長年にわたる差別的な言説、陰謀論、無関心の積み重ねが、やがて取り返しのつかない暴力に転化していったという歴史的な教訓があります。
私たちにできる小さなアクション
アウシュビッツ解放80周年のニュースは、過去を悼むだけでなく、今を生きる私たち自身の態度を問い直す機会でもあります。極端な思想やヘイトが広がる時代に、個人としてどんな行動が取れるでしょうか。
- 生存者や専門家の証言、信頼できる国際ニュースに触れ、「事実」に基づいて歴史を学ぶ
- SNS上で憎悪や差別をあおる投稿を見かけたら、むやみに拡散せず、批判的に距離を取る
- ユダヤ人やイスラム教徒など特定の集団をひとまとめにする言説に違和感を覚えたら、身近な人と話し合ってみる
- 学校や地域でのホロコースト教育や人権に関するイベントに参加し、対話の場を広げる
生存者の高齢化が進む中、「歴史を忘れない」ことは、教科書に年号を刻むだけではなく、日々の言葉や選択の中で憎悪を拒む態度を持ち続けることでもあります。アウシュビッツ解放から80年という節目に、私たちは何を継承し、何を変えていくのか。静かに立ち止まって考えるタイミングと言えそうです。
Reference(s):
cgtn.com








