EUがトランプ大統領のICC制裁を批判 ウクライナの「正義」への影響は video poster
国際刑事裁判所(ICC)に制裁を科す米ドナルド・トランプ大統領の大統領令に対し、欧州連合(EU)がICCと足並みをそろえて強い懸念を示しています。ウクライナでの戦争犯罪の追及にも影響しかねない今回の動きは、国際司法と大国政治のせめぎ合いを改めて浮かび上がらせています。
今回のニュースのポイント
今回の国際ニュースを押さえるうえで重要な点は次の3つです。
- トランプ大統領がICC職員らに経済制裁と渡航制限を科す大統領令を発動
- ICCは強く非難し、「世界中の人々に正義を提供し続ける」と表明
- EUトップのウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、ウクライナでの「正義の追及」が損なわれると警告
トランプ大統領の大統領令は何を狙うのか
ホワイトハウスのサイトで2月6日に公表された大統領令は、ICCがイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相や前国防相ヨアブ・ガラント氏に逮捕状を出したことを取り上げ、ICCが権限を乱用し、不当な逮捕状を発行したと批判しています。
大統領令は、米国民や米国の同盟国、特にイスラエルに対するICCの捜査に関わる個人を対象に、次のような措置を認めています。
- 米国内にある資産の凍結などの経済制裁
- 米国への入国禁止やビザ発給の制限などの渡航制裁
トランプ大統領は、米国もイスラエルもICCの加盟国でもローマ規程の締約国でもなく、ICCの管轄権を認めていないと強調しています。そのうえで、両国は「活力ある民主国家」であり、その軍隊は「戦時国際法を厳格に守っている」と主張し、ICCの捜査自体が不当だという立場です。
こうした強硬姿勢は、トランプ氏の1期目の政権時代に取られた路線をなぞるもので、ICCへの圧力を再び強める狙いがあるとみられます。
ICCとEUの反応:なぜここまで強く反発するのか
これに対し、オランダ・ハーグに本部を置くICCは、大統領令を「制裁」という形での圧力行使だとして強く非難しました。ICCは、世界中の何百万人もの人々に正義を提供し続けると明言し、締約国や関係国に対し、支援と団結を呼びかけています。
欧州連合もICC側に立つ姿勢を鮮明にしています。EUの指導的立場にあるウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、トランプ大統領の制裁は、ウクライナでの戦争犯罪疑惑をめぐる「正義の追及」を危険にさらすと警告しました。EUにとってICCは、ウクライナでの責任追及を進める上で不可欠な国際機関であり、その職員が制裁対象となることは看過できないというメッセージです。
国際社会では、この大統領令に対して批判が広がる一方で、イスラエルやハンガリーなど一部の国はトランプ政権を支持していると伝えられています。ICCの権限行使をどう評価するかをめぐり、各国の立場の違いがあらためて浮き彫りになっています。
ICCとはどんな裁判所か
今回の動きを理解するには、ICCがどのような役割を持つ機関なのかを押さえておくことが重要です。
- 常設の国際刑事裁判所:ICCは、ジェノサイド(集団殺害)や戦争犯罪、人道に対する罪、侵略犯罪といった重大な国際犯罪を個人の責任として裁く常設の裁判所です。
- ローマ規程に基づく:1998年に採択されたローマ規程にもとづいて設立され、この条約を批准した国々が加盟国(締約国)となります。
- 補完性の原則:まずは各国の国内司法が責任追及にあたるべきだと考え、国内での裁きが不可能または不十分な場合に限ってICCが関与するという仕組みを取っています。
アメリカやイスラエルはローマ規程を批准しておらず、ICCの加盟国ではありません。そのため、両国政府はICCが自国民を捜査すること自体を不当な干渉だとみなしがちです。一方でICC側は、加盟国の領域で起きた犯罪や、国連安全保障理事会から付託された事件などについては、関係国の同意があれば捜査できると説明しています。
ウクライナでの「正義の追及」にどう影響するのか
フォン・デア・ライエン氏が特に強調したのが、ウクライナでの戦争犯罪疑惑をめぐる捜査への影響です。ウクライナ情勢に関して、EUはICCと連携しながら責任追及の枠組みづくりを進めてきました。
もしICCの検察官や判事、捜査官が米国から制裁を受ければ、次のような影響が懸念されます。
- 個人資産や渡航の自由が制約され、職務遂行に心理的な圧力がかかる
- 他の国際機関や第三国の関係者が、報復を恐れてICCとの協力をためらう
- 国際刑事司法全体への信頼が揺らぎ、被害者側の期待を損なう
とくにウクライナでの戦争犯罪の被害を訴える人々にとって、ICCは国境を越えて責任を問える数少ない場の一つです。そのICCが政治的圧力の標的になることは、「誰も法の上にいない」という原則をめぐる象徴的な攻防ともいえます。
なぜ支持と反発が割れるのか
トランプ大統領の大統領令をめぐって、各国の反応が割れている背景には、国際司法に対する見方の違いがあります。
制裁を支持する側の主な懸念
- ICCが政治的な思惑に左右され、一部の国や指導者を狙い撃ちにしているのではないか
- 自国の軍や安全保障政策が国際裁判所の判断によって縛られると、主権や安全保障が損なわれる
- 自国には十分に機能する司法制度があるため、外部からの介入は不要だと考えている
ICCやEUが反発する理由
- 戦争犯罪や人道に対する罪は国際社会全体の問題であり、加害者の国籍にかかわらず責任を追及すべきだという考え
- 特定の国が制裁で圧力をかければ、他の事件の捜査や裁判にも萎縮効果が広がる恐れ
- 被害者にとって、独立した国際裁判所の存在が「最後のよりどころ」になっていること
こうした価値観と安全保障上の計算がぶつかり合うなかで、国際刑事司法の将来像が問われていると言えます。
これからの注目ポイント
今回の大統領令をめぐり、今後どのような展開が予想されるでしょうか。情報が限られるなかで、少なくとも次の点は注視する価値があります。
- 制裁の具体的な対象と運用:どの範囲のICC関係者や協力者が制裁対象となるのか、実務レベルでの運用が注目されます。
- ICC加盟国の防護策:EUをはじめとする加盟国が、ICC職員を外交的・法的にどう保護するのかが問われます。
- 米欧関係への影響:ウクライナ支援や国際法の尊重を掲げる米欧の連携が、この問題でどこまで維持できるのかが焦点となります。
国際刑事裁判所をめぐる今回の対立は、単にアメリカとICCの関係にとどまらず、「力」と「法」のどちらをどこまで優先するのかという、国際社会全体の根本的な問いを私たちに投げかけています。日本からこのニュースを追う私たちにとっても、戦争と正義、主権と国際法のバランスをどう考えるのか、自分なりの視点を持つきっかけになりそうです。
Reference(s):
EU joins ICC in condemning Trump sanctions on court officials
cgtn.com








