韓国・尹錫悦大統領の弾劾、第7回審理で浮かぶ「戒厳令」判断
韓国の憲法裁判所で進む尹錫悦大統領の弾劾審理は、非常戒厳令の是非と軍の動員をめぐる証言が食い違い、韓国政治の行方を左右する局面に入っています。
憲法裁で第7回審理、大統領も出廷
韓国の憲法裁判所は火曜日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾裁判の第7回審理を開き、勾留中の尹氏本人も5回目の出廷をしました。スーツに赤いネクタイというこれまでと同じ姿で、午前10時ごろ、ソウル中心部の法廷に姿を見せました。
尹氏は法廷で、昨年12月に出した非常戒厳令の宣言とその後の措置について、憲法で保障された大統領の権限に基づく正当な対応だったと主張しました。
戒厳令をめぐる争点
韓国では、戦争状態や重大な事件、これに準ずる国家非常事態で、敵との交戦や社会秩序の極端な混乱が生じた場合に、戒厳令を敷くことができるとされています。
野党勢力は、尹氏が戒厳令を宣言した当時、そのような国家非常事態の兆候は確認されていなかったとして、宣言は違憲かつ違法だと批判。大統領の権限行使が正当だったのかどうかが、弾劾審理の大きな争点になっています。
尹氏は裁判官に対し、昨年12月3日夜に戒厳令を宣言した際、「誰も引きずり出されたり逮捕されたりしておらず、兵士が市民を抑圧したり攻撃した事実もない」と説明したとされています。一方で、短時間で解除されたこの戒厳令のさなか、軍用ヘリコプターが国会議事堂に着陸し、武装した特殊部隊の兵士数百人が議事堂に侵入する様子がテレビ映像で報じられていました。
特殊部隊幹部の証言と食い違う指揮系統
前回の審理では、陸軍特殊戦司令部第707特任団の金炫泰(キム・ヒョンテ)大佐が証言台に立ちました。金大佐は、国会内外で特殊部隊が市民と揉み合いになった場面について、「部隊は攻撃ではなく防御に徹した。多くの恥ずかしさを感じていた」と述べ、軍側の行動はあくまで受動的だったと強調しました。
尹氏は、自身が当時の国防相や戒厳司令官に対し、国会やその他の標的から部隊を撤収するよう繰り返し命じていたと主張しています。これに対し、陸軍特殊戦司令部の元司令官である郭鍾根(クァク・ジョングン)中将は前回の審理で、大統領や国防相から撤収命令を受けたことはないと証言し、指揮命令系統をめぐる認識は当事者の間でも大きく食い違っています。
メディアへの圧力命令はあったのか
証言の食い違いは、メディアへの圧力をめぐる問題にも及びます。前行政安全相の李相珉(イ・サンミン)氏は裁判官に対し、尹氏から左派系とされる放送局MBCやJTBC、新聞のハンギョレ、京郷新聞、さらに世論調査会社フラワー・リサーチなどに対し、電力や水道を止めるよう指示を受けたことはないと述べました。
しかし、検察が提出した起訴状によれば、昨年12月3日深夜ごろ、尹氏が李氏に対し、これらのメディアや調査会社への電力・給水を遮断するよう命じたとされています。政府高官の証言と検察側の主張が真っ向から対立する中、憲法裁がどの証拠と証言に重きを置くのかが注目されています。
弾劾と刑事裁判が並行する異例の状況
尹氏に対する弾劾訴追案は昨年12月14日に国会で可決され、憲法裁判所に送付されました。憲法裁は最長180日間かけて弾劾の可否を審理することになっており、その間、大統領としての権限は停止された状態が続いています。
尹氏は今年1月15日、大統領府で身柄を拘束され、韓国で現職大統領として初めて逮捕された人物となりました。さらに同月26日には、勾留されたまま起訴され、在任中の大統領が拘束下で刑事裁判にかけられる初のケースともなっています。
検察は、尹氏が前国防相と共謀し、違憲かつ違法な戒厳令を宣言して国会に武装した部隊を派遣することで、内乱を主導したとみています。尹氏側は、一貫して大統領としての正当な権限行使だったと反論しており、事実認定をめぐる攻防が続いています。
第8回審理と今後の焦点
第7回審理当時、憲法裁は木曜日に第8回かつ最終となる予定の審理を開くスケジュールを組んでいました。ただし、必要であれば追加の審理日を指定する可能性もあるとされ、判断までのプロセスは流動的な面も残されています。
今回の弾劾審理では、緊急時に大統領がどこまで権限を行使できるのか、軍は政治にどの程度関与してよいのかといった、民主主義の根幹に関わる問いが突きつけられています。韓国社会にとってだけでなく、非常事態と市民の権利のバランスに悩む多くの国や地域にとっても、今後の判断は重要な参考事例となりそうです。
Reference(s):
S. Korea court holds 7th Yoon's impeachment hearing, with Yoon present
cgtn.com








