米判事がトランプ政権の公務員退職買い取りを容認 連邦政府の大規模削減へ
米ボストンの連邦地裁判事が、ドナルド・トランプ政権による連邦職員向け退職買い取り制度を認める判断を示しました。制度にはすでに約6万5千人が応募しており、米連邦政府の大規模な公務員削減が一気に進む可能性があります。
何が決まったのか:退職買い取り制度を容認
今回争点となったのは、トランプ政権が導入した「Deferred Resignation Program」と呼ばれる退職買い取り制度です。一定の条件を満たした連邦職員に対し、実際には働かなくても来年10月まで給与と福利厚生を支給し、その後に退職してもらう仕組みです。
ボストンのジョージ・オトゥール連邦地裁判事は今週水曜日、労働組合側が起こした差し止め訴訟を退け、この制度の実施を認めました。判事は、組合は制度によって直接の損害を受けるわけではなく、訴える資格がないと判断しました。
米人事管理局は声明で「このプログラムは合法であり、連邦職員にとって価値ある選択肢だったことに疑いはない」と強調し、既に新規の応募受付は終了したと明らかにしています。
政権高官によると、先週金曜日の時点で、約2.3百万人いるとされる米連邦の民間部門職員のうち、およそ3%に当たる約6万5千人が退職買い取りに応じたといいます。
「人道的な出口」か「恣意的」か 対立する評価
米司法省の弁護士は、退職買い取り制度を「職場の将来に不安を感じる職員にとっての人道的な出口」だと説明してきました。トランプ政権は、連邦政府の民間部門の人員削減と在宅勤務の大幅な縮小を進めており、先行きに不安を抱える職員に穏やかな退職の道を用意した、という位置づけです。
一方、連邦職員を代表する労働組合は強く反発しています。約80万人の連邦職員を組織する米政府職員連盟のエヴァレット・ケリー会長は「今回の判決は、公務員の尊厳と公正を守る戦いにとって後退だが、戦いの終わりではない」とコメントしました。
組合側は訴状で、この制度は「驚くほど恣意的」であり、議会が承認していない支出を各省庁に強いる点で財政規律の法律に違反すると主張していました。オトゥール判事は、こうした争いはまず行政の不服申立て手続きで争うべきであり、裁判所に持ち込む前に段階を踏む必要があると指摘しています。
さらに別の訴訟も動き出しています。5つの労働組合は同じ水曜日、退職買い取りを拒んだ数十万規模の職員が一斉解雇される恐れがあるとして、その差し止めを求める新たな訴えを起こしました。
トランプ政権の公務員削減戦略の一部として
今回の退職買い取りは、トランプ政権が掲げる連邦公務員の大幅削減戦略の一環です。トランプ氏は、約230万人にのぼるとされる連邦の民間部門職員を「非効率的で、自分に偏見を持っている」と批判してきました。
政権は各省庁に対し、広範囲な人員削減計画の策定を指示し、すでに一部の機関では、十分な身分保障を得ていない新規採用者の解雇が始まっています。関係者によれば、省庁によっては最大7割の人員削減を想定した準備を求められているところもあるといいます。
労働組合は、こうした動きが公的サービスの質を大きく損ない、行政の中立性を揺るがすと警告していますが、政権側は「小さな政府」路線の一環として、公務員数の削減が不可欠だと主張しています。
イーロン・マスク率いる「政府効率省」が登場
象徴的なのは、トランプ氏が実業家のイーロン・マスク氏を新設の「政府効率省」のトップに任命したことです。同省は、昨年度の連邦予算総額6兆7,500億ドルのうち、1兆ドルの削減を目指すとされています。民間部門職員の給与は全体の5%に満たないとされ、単なる人件費カットだけでは目標達成は難しい構図です。
マスク氏のチームは、これまでに15の連邦機関を重点的に精査し、そのうち2機関を既に廃止しました。一つは世界の貧困層を支援する役割を担っていた機関、もう一つは国内で利用者を不公正な金融商品から守る役割を持っていた機関だとされています。
一部の共和党系の予算専門家からは、この取り組みは歳出削減というより、長年の保守的な小さな政府思想を具現化したものだという見方も出ています。
議会の予算方針とのねじれ
興味深いのは、こうした行政府側の大幅削減路線と、議会で進む予算議論との間にねじれが生じている点です。トランプ氏を支える共和党議員たちは、減税と安全保障関連支出の増額を盛り込んだ予算案を準備しており、中立的な専門家は「数兆ドル規模で国の債務を増やすことになる」と試算しています。
トランプ氏自身は、高齢者向けの年金や医療といった人気の高い給付には手を付けない考えを示しており、これらは連邦支出の約36%を占め、今後さらに膨らむと見込まれています。その分、連邦公務員や一部の社会プログラムが、優先的な削減対象になっている構図です。
退職買い取り制度についても、現行の歳出法は来年3月14日に期限を迎えるとされており、それ以降も給与が確保されるかどうかは不透明です。労働組合は、政権が約束どおりの支払いを最後まで履行するのか疑問視し、組合員に対して安易に応募しないよう呼びかけてきました。
日本への示唆:テック企業の論理と公共セクター
世界最大の民主国家で、巨大テック企業のトップが政府組織の再設計を主導しているという構図は、日本の読者にとっても無関係ではありません。民間企業の効率性の発想をどこまで行政に持ち込むべきなのか、どのようなガバナンスや説明責任が必要なのか、といった問いが投げかけられています。
日本でもデジタル化や行政改革が議論されるなか、公務員の役割やテレワークの是非、地方・中央の人員配置のあり方など、共通する論点は少なくありません。トランプ政権の公務員削減は極端な例に見えるかもしれませんが、「効率」と「公平・安定」のバランスをどうとるかという根本問題は、日本社会にも通じるテーマです。
これからの注目ポイント
今回の判決により、トランプ政権は退職買い取り制度を予定どおり終了させることが可能になりましたが、連邦公務員制度の行方をめぐる争いが終わったわけではありません。今後、次のような点が焦点になりそうです。
- 労働組合や州司法長官による新たな訴訟・控訴の行方
- 最大7割の人員削減が示唆された省庁で、実際にどこまで削減が実行されるのか
- 廃止・縮小された機関が担ってきた対外援助や消費者保護の機能を、誰がどのように代替するのか
- 連邦政府のサービス低下が、中長期的に米国経済や国際社会にどのような影響を及ぼすのか
今回の判決は一つの節目にすぎません。米国の公務員制度がどこまで縮小し、どのような形に再編されていくのか。そのプロセスを追うことは、日本の行政や働き方を考えるうえでも、重要なヒントを与えてくれそうです。
Reference(s):
U.S. judge allows Trump to proceed with government employee buyout
cgtn.com








