米裁判所、マスク氏の「政府効率省」に複雑な判断 財務省アクセスは継続停止
アメリカで、イーロン・マスク氏が率いる組織「政府効率省(Department of Government Efficiency=DOGE)」の権限をめぐり、連邦裁判所の判断が割れています。財務省の巨額支払いシステムへのアクセスは引き続き止められる一方、労働・保健・消費者保護関連の記録についてはアクセスが認められるなど、行政改革と司法のせめぎ合いが鮮明になっています。
DOGEとは何か トランプ大統領とマスク氏の行革プロジェクト
共和党のドナルド・トランプ大統領は先月就任し、就任直後から連邦政府の大幅なスリム化に乗り出しました。その一環として、自動車メーカー・テスラの最高経営責任者であるイーロン・マスク氏を起用し、「政府効率省(DOGE)」と呼ばれるコスト削減チームを立ち上げました。
DOGEは、省庁横断で「無駄な支出」を洗い出すことを任務とし、直近の金曜日には数千人規模の公務員削減が行われたとされています。こうした急速な改革に対し、州政府や労働組合、市民団体などが一斉に提訴し、法廷闘争が各地で進んでいます。
財務省の支払いシステムには引き続き立ち入り禁止
ニューヨークのマンハッタンでは、連邦地裁のジャネット・バルガス判事が、DOGEによる財務省システムへのアクセスを禁じる一時的な命令を延長しました。このシステムは、数兆ドル規模の支払いを処理する中枢で、数百万のアメリカ国民の個人情報も含まれるとされています。
19州の民主党系司法長官らは、DOGEにはこのシステムにアクセスする法的権限がなく、医療クリニックや幼児教育など、さまざまな公的プログラムへの資金が混乱するおそれがあると主張しています。彼らは、より長期間の仮差し止め命令(一定期間、政府の行為を止める暫定的な命令)を求めていますが、バルガス判事は現時点での判断は保留しました。
トランプ政権の政策をめぐっては、出生地主義による国籍付与の終了や、トランスジェンダーの人々への医療支援への連邦資金制限など、多くの施策が提訴されており、そのうち相当数が裁判所で差し止められています。DOGEをめぐる訴訟も、こうした一連の流れの一部といえます。
労働・保健・消費者保護の記録へのアクセスは容認
一方、ワシントンの連邦地裁では、異なる判断も示されました。ジョン・ベイツ判事は、労働省、保健福祉省、消費者金融保護局の記録へのDOGEのアクセスを一時的に止めてほしいとする労働組合や非営利団体の申し立てを退けました。
ベイツ判事は、DOGEは政府の一つの「機関」に該当する可能性が高く、その職員を他の省庁に派遣する権限があると判断しました。ただしこれは「ぎりぎりの判断」だと付け加え、政府側が別の法律に関してはDOGEを「機関」とみなされたくないと主張している点を指摘。DOGEは「都合の悪いときは機関ではないと言い、都合の良いときだけ機関だと主張する、ゴルディロックス的な存在だ」と皮肉りました。
ベイツ判事は、より長期の仮差し止め命令を出すかどうかを検討するため、今後の審理スケジュールを当事者に提案するよう求めています。マスク氏は、こうした判断を受けて自身のSNS「X」で「大きな勝利だ」とする投稿を拡散し、支持者と共に歓迎の姿勢を示しました。
教育省と学生ローンにも波及 学生団体が懸念
さらに別の裁判では、DOGEの教育分野への関与が争点になっています。連邦地裁のランドルフ・モス判事は、カリフォルニア大学の学生団体が求めた、教育省の情報システムへのDOGEのアクセス禁止命令の延長について、判断を保留しました。
学生側は、学生ローンの情報を含む教育省のシステムにDOGEが介入することは、プライバシーや行政手続きのルールに反すると主張しています。一方、トランプ政権は、学生ローン制度における「不正・無駄・乱用」を減らすにはDOGEによるアクセスが不可欠であり、そもそも教育省そのものを廃止すべきだと訴えています。
モス判事は審理の中で、「不正や無駄とは具体的に何を指すのか」と政府側に問いただし、「もしマスク氏に聞けば、教育省全体が無駄だと言うのではないか」と述べ、DOGEの権限や目的に慎重な姿勢をにじませました。
何が問われているのか 三つの視点
今回の一連の判断は、アメリカの政治・行政を理解するうえで、次の三つのポイントを浮かび上がらせます。
- 1. 行政改革のスピードと法の歯止め
マスク氏のDOGEは、急速なコスト削減を掲げていますが、その過程で既存の法律や手続きとの整合性が問われています。裁判所は、改革のスピードそのものではなく、権限の根拠や手続きの正当性を細かくチェックしています。 - 2. 個人情報と公共サービスへの影響
財務省の支払いシステムや教育省の学生ローンデータなど、DOGEが狙うのは巨大なデータと予算を抱える領域です。アクセスの仕方次第では、医療や教育など日常生活に直結するサービスが影響を受ける可能性があり、プライバシー保護とのバランスが課題になっています。 - 3. 「新しい組織」をどう位置づけるか
DOGEが「政府機関」なのかどうかという議論は、デジタル時代に新設されるタスクフォースや特別チームの扱いをどう制度化するか、というより広い問題にもつながります。都合によって機関と見なしたり、そうでないと言ったりすることは、透明性や説明責任の観点からも問われています。
裁判所の判断は今後も続き、DOGEの権限やトランプ政権の行財政改革がどこまで進むのかはまだ見通せません。アメリカ政治のチェック・アンド・バランス(権力の抑制と均衡)が、実際の政策をどう形づくるのかを考えるうえで、注視しておきたい動きです。
Reference(s):
U.S. judges bar Musk's DOGE from Treasury, allow access to labor
cgtn.com








