ハマスが新たな人質交換 369人のパレスチナ人釈放と停戦維持の綱渡り
ガザ地区でハマスがイスラエル人人質3人を解放し、見返りにイスラエルがパレスチナ人の受刑者や被拘束者369人の釈放を始めました。今年1月19日に発効した停戦のもとで6回目となる人質交換で、崩壊寸前とも言われた停戦合意がひとまず維持された形です。
6回目の人質交換で解放された3人
今回ガザから解放されたのは、イアイル・ホルンさん、サグイ・デケル=チェンさん、サシャ(アレクサンダー)・トルファノフさんの3人です。いずれもイスラエルと他国の国籍を持つ人質で、デケル=チェンさんは米国とイスラエル、トルファノフさんはロシアとイスラエルの国籍を持つとされています。ホルンさんの兄弟エイタンさんも同じく拉致されたままです。
3人はいずれもガザ地区周辺の共同体キブツ・ニルオズで暮らしていました。この地域は2023年10月7日、ハマスの武装勢力によって襲撃され、多くの住民が殺害・拉致された場所として知られています。
イスラエル中部テルアビブでは、いわゆる「人質広場」と呼ばれる場所に集まった人々が、赤十字の車両が3人をイスラエル軍に引き渡すとの知らせを聞き、歓声と涙で迎えたと伝えられています。
369人のパレスチナ人釈放と停戦維持
ハマスによる3人の解放に合わせ、イスラエル側はパレスチナ人の受刑者・被拘束者369人の釈放に踏み切りました。これは、今年1月19日に始まった停戦合意の一環とされています。
この停戦は第1段階が42日間とされ、その間にハマスがイスラエル人人質33人を段階的に解放し、イスラエル側が数百人規模のパレスチナ人を釈放する内容です。人質33人には、女性や子ども、病気や負傷のある人、高齢の男性などが含まれています。
土曜日以前には、イスラエル人人質33人のうち16人がすでに解放され、加えてタイ人5人が予定外の形で引き渡されていました。今回の3人の解放で、イスラエル人人質の解放者は19人、タイ人は5人となり、依然として多数の人が拘束されたままです。
イスラエル当局によると、なお73人の人質がガザに残されており、そのうち約半数は行方不明のまま死亡したと公式に「不在のまま死亡」と認定されています。
崩壊寸前の停戦をどうつなぎとめたか
今回の人質交換は、停戦合意が崩壊寸前と見られた局面で実現しました。ハマスは、イスラエルが停戦条件に違反し、ガザへの人道支援物資の搬入を妨げていると非難し、合意に基づく人質解放を停止すると警告していました。
これに対しイスラエル側は、戦闘再開を辞さない構えを示し、予備役の召集や部隊の高い警戒態勢を敷いたとされます。緊張が高まるなか、仲介役を務める関係国などが働きかけ、今回の第6陣となる交換にこぎつけたとみられます。
停戦は本来、第2段階として残る人質の解放とイスラエル軍のさらなる撤収を進め、その後に戦争終結とガザの復興へつなげる構想でした。しかし、ガザ地区では今も広範囲が廃墟と化し、食料や水、電力などの不足が深刻だと伝えられており、停戦の先行きは不透明です。
トランプ案と「ナクバ」の記憶
こうした中で、停戦に新たな不安定要因をもたらしているのが、ドナルド・トランプ米大統領によるガザ地区をめぐる構想です。報道によれば、トランプ大統領は、ガザ地区を他の勢力が「引き継ぐ」形で掌握し、200万人を超えるとされるガザの住民をエジプトやヨルダンへ移動させる案を打ち出しました。
パレスチナ側にとって、こうした強制的な移動の構想は、1948年のイスラエル建国時に多くのパレスチナ人が土地を追われた出来事の記憶と重なります。パレスチナではこの歴史を「ナクバ(大災厄)」と呼び、世代を超えて語り継いできました。再び大規模な住民移動が起きる可能性は、極めて敏感な問題です。
アラブ諸国の足並みと外交の舞台裏
トランプ大統領の構想に対して、アラブ諸国は連携して反対の姿勢を示しています。サウジアラビアは、エジプト、ヨルダン、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)の首脳を招き、ガザ問題を協議する首脳会議を木曜日に主催すると表明しました。
さらに、その後にはアラブ連盟がカイロに各国代表を集め、2月27日に同じ課題を協議する予定だとされています。ガザの将来像や停戦の持続可能性、住民の保護をめぐり、アラブ世界としてどのような共通方針を打ち出すのかが注目されます。
ガザの停戦はどこへ向かうのか
今回の人質交換は、停戦合意がぎりぎりの綱渡りで続いていることを改めて示しました。一方で、ガザの住民が直面する人道状況や、トランプ案のような大規模な人口移動の構想は、地域全体の不信を深める要因にもなっています。
今後の焦点は、次のような点にあります。
- 残る人質をどのような形で解放し、停戦第2段階の交渉につなげるのか
- イスラエル軍の撤収やガザの統治体制を含め、戦後の政治的な枠組みを誰がどのように設計するのか
- ガザの住民が望まない形での強制的な移動をどう防ぎ、生活再建を支えるのか
- アラブ諸国と米国など主要国が、どこまで共通のシナリオを描けるのか
ガザで続く危機は、遠く離れた場所の出来事に見えますが、戦争と平和、人道と安全保障をどう両立させるかという、現代の国際社会が抱える課題を凝縮しています。数字や外交日程の羅列だけでなく、そこで暮らす人々の「日常を取り戻す権利」がどのように守られていくのかに、引き続き目を向けたいところです。
Reference(s):
Hamas releases hostages, Palestinian prisoners freed in latest swap
cgtn.com








