ガザ停戦合意に従うのか イスラエルの思惑と揺れる世論
ここ数週間続くガザの停戦合意は、イスラエルとハマスの解釈の違いから揺らぎつつあります。イスラエルは第1段階の延長を模索し、ハマスは恒久停戦につながる第2段階への移行を強く求めています。イスラエルは本当にガザ停戦合意を順守するつもりがあるのでしょうか。
形だけの停戦か、それとも合意順守か
現行のガザ停戦合意は、段階的なプロセスとして構想されています。第1段階では一時的な停戦の下で人質の解放などが進み、第2段階で戦闘の恒久停止と紛争の終結に向けた枠組みを固める想定です。
しかし、イスラエルが米国の支援する提案をもとに、第1段階の延長を示唆したことで、合意の行方は不透明になっています。一方のハマスは、第1段階だけを引き延ばし、第2段階の協議を先送りすることは合意の精神に反するとして強く反発しています。
イスラエル国内政治:右派連立と停戦の板挟み
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、長らく政治的な計算と高まる国内世論の圧力との間で揺れています。とりわけ、連立を支える極右勢力の存在が、停戦合意に柔軟に対応する余地を大きく狭めています。
「完全勝利」を求める閣僚たち
財務相ベツァレル・スモトリッチ氏は、ハマスがさらなる人質を解放しない限り、イスラエル側がこれ以上の譲歩を行うべきではないと主張し、現在の強硬路線からの逸脱は政権の安定を脅かすと警告しています。
同じく極右のイタマル・ベン・グヴィル氏は、ガザ停戦合意をめぐる不満から政権を離脱しました。両氏は、ハマスに軍事的・政治的な力をいささかでも残す提案は容認できないとし、ハマスの軍事・政治インフラの完全な解体こそが唯一の選択肢だと訴えています。
こうした連立与党内の圧力は、ネタニヤフ首相にとって大きな制約となっており、停戦合意の履行に向けた柔軟な交渉を難しくしています。
世論は停戦第2段階を支持:街頭に広がる反戦の声
一方で、イスラエル国内の世論は、政府の硬直した姿勢とは異なる方向に動いています。今年2月にイスラエルのテレビ局チャンネル12が実施した世論調査では、回答者の70%が停戦合意の第2段階を支持したとされています。右派連立に投票した層に限っても、54%が賛成、反対は36%にとどまりました。
戦争支持が低下する中で、反戦デモは各地で勢いを増しています。とりわけ、ガザにいる人質の家族や支援者は、軍事作戦の継続よりも人質の安全な帰還を優先するよう政府に求めており、その訴えは社会全体の感情的な負担の大きさを象徴しています。
ハマスの姿勢:第1段階延長は「受け入れられない」
交渉の相手方であるハマスも、イスラエル案に対して明確な拒否のメッセージを発しています。ハマスの報道官ハーゼム・カセム氏はアルアラビーTVのインタビューで、イスラエルが望む形での第1段階の延長は受け入れられないと強調しました。
カセム氏は、現在の一時停戦だけを長引かせ、第2段階への迅速な移行を伴わない提案は、もともとの合意を裏切るものだと主張しています。イスラエル側が追加の人質解放の時間を稼ぐ目的で一時的な延長を求めているのに対し、ハマス側は、包括的な第2段階への即時移行を要求しています。その中心となるのは次の二点です。
- イスラエル軍のガザからの完全撤退
- 残る全ての捕虜・人質の解放
こうした立場の違いが、停戦交渉の行き詰まりを生んでいます。
米国の役割とアラブ諸国の対案
今回の停戦合意をめぐる駆け引きの背景には、米国の強い対イスラエル支持もあります。米国が支援する提案は、第1段階の停戦を延長する内容で、これがイスラエルに対し、元の合意を実質的に棚上げする余地を与えていると見る向きもあります。国際社会の一部からは、この姿勢が恒久的な和平の実現や停戦交渉の前進をむしろ妨げているとの指摘も出ています。
さらに、ドナルド・トランプ米大統領が打ち出したガザ掌握構想は、イスラエルの強硬な安全保障要求を後押しし、地域の緊張を一段と高めたとされています。この構想は、ガザの統治を米国側が主導的に引き受けるイメージを伴うもので、妥協の余地を狭める結果になっているとの見方もあります。
これに対し、アラブ諸国はワシントンの姿勢を一括して退けることで対抗しています。火曜日に開かれた緊急首脳会議では、パレスチナ人をガザから移転させるトランプ構想とは対照的に、住民を移動させることなくガザを再建するための総額530億ドル規模の復興計画が採択されました。
この提案では、パレスチナ人の専門家による行政委員会がガザ統治を担う構想も打ち出され、ハマスはこれを歓迎しました。しかし、米国とイスラエルは、この枠組みでは依然としてハマスが一定の影響力を保持するとして受け入れを拒否しています。
ネタニヤフ首相の計算:安全保障か政権延命か
ネタニヤフ首相は、一貫してハマスの完全な解体が停戦の前提条件だと主張してきました。ただし、観測筋は、この強硬姿勢は純粋な軍事戦略だけでは説明できないと見ています。
首相は汚職疑惑を抱え、連立内の対立も絶えません。そうした状況のなかで、自らを国家安全保障の守護者として演出し続けることは、極右の連立パートナーをつなぎ留め、一定の有権者の支持を維持するためにも重要になっています。
批判的な見方によれば、ハマスの力をわずかでも残すような停戦合意に応じれば、弱腰とのレッテルを貼られるリスクが高まり、政権の命運にも直結しかねません。ハマスの壊滅を停戦の前提とする姿勢は、戦争終結の条件であると同時に、ネタニヤフ首相自身の政治的な生き残り戦略でもあるという指摘が出ています。
イスラエルはガザ停戦合意を守るのか
こうした状況を踏まえると、イスラエルがガザ停戦合意をどこまで順守するのかは、依然として不透明です。少なくとも現在の動きだけを見ると、イスラエルは第1段階の停戦を延長しつつ、人質解放を進める一方で、戦闘終結とガザからの完全撤退を含む第2段階への明確なコミットメントは避けているように見えます。
その背景には、
- 極右連立勢力が掲げる完全勝利要求と政権維持の計算
- 停戦第2段階と人質解放を求める国内世論と街頭の圧力
- 第1段階延長を拒むハマスとの深い不信
- 米国の強い対イスラエル支持と、これに対抗するアラブ諸国の復興構想の対立
といった複合的な要因があります。
ガザ停戦合意が本当に恒久停戦と紛争終結につながるのか、それとも一時的な小休止にとどまるのかは、今後の交渉次第です。イスラエルがどの時点で、第2段階に含まれるガザからの撤退や包括的な捕虜・人質解放に踏み込む意思を示すのかが、和平への道筋を大きく左右することになりそうです。
読者としては、次の三つの点に注目してニュースを追っていくと、今後の展開が読みやすくなるでしょう。
- 停戦合意の文言と、イスラエル・ハマス双方の解釈ギャップ
- イスラエル国内政治の行方と、ネタニヤフ政権の安定度
- ガザ戦後をめぐる米国とアラブ諸国のビジョンの違い
ガザ停戦合意をめぐるこのせめぎ合いは、単なる軍事的な駆け引きにとどまらず、中東全体の秩序と国際社会の信頼にも長期的な影響を与える可能性があります。
Reference(s):
cgtn.com








