オーストリアで子どものドイツ語力低下 義務幼稚園2年案は解決策になるか video poster
オーストリアの首都ウィーンで、小学校に入学した子どもの約半数が授業についていけるだけのドイツ語力を持っていないというデータが公表されています。移民ルーツの子どもが多いこの都市で、義務教育前の幼稚園教育をどう設計するかが、政治と教育現場の大きな焦点になっています。
ウィーンの教室で見える言語ギャップ
ウィーンの小学校教員マリー・ゾフィー・ポライさんのクラスには、6歳のモハメドという男の子がいます。先生が「今何時か分かる?」と問いかけても、彼は戸惑ってしまいます。授業の指示そのものが十分に理解できていないからです。
ポライさんによると、クラスには家庭でドイツ語を使わず、幼稚園や学校で初めて本格的にドイツ語に触れる子どもも少なくありません。彼女は「ここ数年で状況はむしろ悪化している」と感じているといいます。
公式統計でもその実感は裏付けられています。2年前には、ウィーンの小学1年生のうち授業についていけるほどドイツ語を話せない子どもは36%でしたが、現在は45%にまで増えています。
新しく来た子どもだけではない課題
この言語課題は、近年ウクライナやシリアなどからオーストリアに移り住んできた家族の子どもだけに限られません。多くの子どもはすでに長くオーストリアで暮らしており、統合のあり方そのものが問われています。
統計によると、ドイツ語力が足りないとされる子どもの約60%はウィーン生まれで、ほぼ全員が何らかの形で就学前の保育や幼稚園を経験しています。それでも小学校入学時点で授業についていけない子どもが多いという現実は、家庭と地域、そして教育制度の接続の難しさを示しています。
義務幼稚園を2年に延長する案
こうした状況を受けて、ウィーン市当局と新たに発足した連立政権は、義務的に通う幼稚園期間を1年から2年に延長する案を打ち出しています。就学前の段階でより長くドイツ語に触れる時間を確保し、言語格差を縮めたいという狙いです。
しかし、専門家は「通わせる年数を増やすだけでは不十分だ」と指摘します。ウィーン大学のハンネス・シュバイガー准教授は、CGTNの取材に対し「必要なのは、言語習得のプロセスをきちんと支援できる、高い専門性を持った幼児教育の教員です。言語支援に十分習熟した保育・幼稚園教員が不足しているのが現状です」と話します。
つまり、量を増やす前に、質をどう高めるかが問われているということです。
教師不足とバーンアウトの危機
現場の教師からは、制度の限界を訴える声も上がっています。小学校教員のポライさんは「教師は燃え尽きてしまうか、仕事を辞めてしまっている」と、疲弊した状況を語ります。さらに「このままでは数年以内にシステムが崩壊してしまう」と危機感を示しています。
ドイツ語支援を必要とする子どもが増える中で、教員一人ひとりにかかる負担は重くなっています。義務幼稚園の年数を増やすことは、早期支援のチャンスを広げる一方で、十分な教員数と研修体制が整っていなければ、現場の疲弊をさらに加速させるおそれもあります。
選挙のたびに浮上する「言語」と「統合」
学校での言語状況は、オーストリアの選挙キャンペーンで繰り返し取り上げられるテーマにもなっています。ウィーンでは4月に市議会選挙が予定されており、直近の世論調査では、移民に批判的な立場で知られる自由党が支持を伸ばすと見込まれています。この自由党は9月に行われた国政選挙でも勝利を収めました。
政治家たちの口からは、今後も「移民」や「統合」といった言葉が繰り返し語られるとみられます。有権者がそのテーマに反応し続ける限り、幼稚園や学校で話される言語は、選挙戦略の中心にあり続けるでしょう。
日本の読者への問いかけ
オーストリアの議論は、多言語化が進む社会での幼児教育のあり方を考える上で、一つの具体的なケースを示しています。
- 就学前からどの言語を、どの程度重視して教えるのか
- 家庭で別の言語が話される子どもを、学校でどう支えるのか
- そのための教員養成や研修をどう設計するのか
言語は、単なる学力の問題にとどまらず、社会参加や将来の選択肢にも直結します。オーストリアで進む議論は、どの社会にとっても他人事ではないテーマといえそうです。
Reference(s):
As language skills drop, Austria could extend mandatory kindergarten
cgtn.com








