米判事がトランプ政権の強制送還便に詳細開示要求 米司法と行政府の緊張高まる
米国で、18世紀の法律を根拠にしたトランプ政権のベネズエラ人強制送還をめぐり、連邦判事の差し止め命令後も送還便が飛び立っていたことが分かりました。司法と行政府の緊張が一気に高まっています。
何が起きたのか
ワシントンD.C.の連邦地裁のジェームズ・ボーズバーグ判事は土曜日、1798年制定のエイリアン敵法を使ったトランプ政権の強制送還を、2週間にわたって一時停止する命令を出しました。対象となったのは、ベネズエラの刑務所ギャング「トレン・デ・アラグア」が米国に対して不正な戦争行為を行っているとトランプ大統領が主張し、その構成員とされる人々の送還でした。
しかし判事の命令にもかかわらず、その週末に少なくとも2便の送還機が米国を出発し、エルサルバドルに到着していたことが判明。ボーズバーグ判事は火曜日、司法省に対し、この2便の詳細なフライト情報を提出するよう求めました。
エイリアン敵法とはどんな法律か
エイリアン敵法は、18世紀末に制定された古い米国法で、戦時に敵対国の国民を拘束・排除する権限を大統領に与えるものです。第2次世界大戦中には、日本人、イタリア人、ドイツ人の収容を正当化する根拠の一つとしても使われました。
トランプ政権は今回、この法律を根拠に、移民裁判所の最終的な退去強制命令がない人々についても、トレン・デ・アラグアへの関与が疑われる場合は送還できると主張してきました。
しかしボーズバーグ判事は、同法はトランプ大統領の主張する「戦争行為」にあたる状況を想定したものではなく、今回のケースの根拠にはならないとして、送還を一時的に止める判断を示しました。
司法省は命令前に離陸と説明
ボーズバーグ判事の新たな命令を受け、司法省の弁護士は火曜日、裁判所に提出した文書で、問題の2便は書面の命令が発出された午後7時25分(米東部時間)より前に米国の領空を離れていたと説明しました。そのうえで、判事がそれ以前に口頭で述べた指示は、法的に拘束力のあるものではないと主張しました。
この説明に対し、ボーズバーグ判事はさらに詳細な説明を求めています。判事は政府に対し、
- 各機がいつ離陸したのか
- いつ米国の領空を出たのか
- いつ着陸したのか
- 搭乗者がいつ米国の拘束から解放されたのか
- エイリアン敵法のみを根拠に送還された人が何人いたのか
といった事項を、翌水曜日正午までに報告するよう命じました。作戦上の理由から詳しい情報を公表できないとの政府側の主張を踏まえ、報告書は非公開で提出してもよいとしています。
移民・関税執行局(ICE)の担当者ロバート・セルナ氏は、別の裁判所提出書面の中で、判事の書面命令が裁判所の電子記録に掲載された後に出発した第3便については、移民裁判所の別個の退去強制命令が出ている人だけが搭乗しており、エイリアン敵法だけを根拠とする送還ではなかったと説明しました。
ベネズエラ側は人道に反すると批判
この強制送還をめぐっては、ベネズエラ側の反発も強まっています。ベネズエラの有力議員ホルヘ・ロドリゲス氏は月曜日、米国による送還を「野蛮」で「人道に対する罪」だと非難し、対象者に適正な手続きが保証されなかったと主張しました。
一方、米国のマルコ・ルビオ国務長官は火曜日、ベネズエラ政府が送還便の受け入れを拒み続ける場合、追加制裁を科す用意があるとXに投稿しました。ルビオ長官は、ベネズエラ政府が言い訳や遅延なく一定のペースで送還便を受け入れなければ、米国は新たで厳しい制裁を段階的に課すと警告しました。
ベネズエラ政府はこれまで、米国の制裁を、自国経済を弱体化させることを狙った不当な経済戦争だと批判してきました。今回の強制送還問題は、そうした米ベネズエラ間の長年の対立とも結びついています。
トランプ氏は判事の弾劾を要求 最高裁長官が異例の声明
司法の動きに対し、トランプ大統領は火曜日、自身のSNSプラットフォームであるトゥルース・ソーシャルに投稿し、この事件を担当する判事の弾劾を要求しました。投稿では名前こそ挙げなかったものの、ボーズバーグ判事を急進左派のトラブルメーカーだと批判しました。
これに対し、米連邦最高裁のジョン・ロバーツ長官は、極めて異例の声明を出しました。ロバーツ長官は、
「2世紀以上にわたり、裁判所の判断に対する不満に弾劾で応えるべきではないことは明らかになっている。そうした場合のために通常の控訴手続きが存在する」
と述べ、特定の判決内容に不満があるからといって、判事の弾劾を求めることは適切ではないとの考えを示しました。
ボーズバーグ判事本人は、トランプ氏の批判にコメントすることを控えています。同判事は元検察官で、ジョージ・W・ブッシュ政権時代にはワシントンD.C.の地方裁判所判事に任命され、その後オバマ政権下の2011年に連邦地裁判事として上院の全会一致(96対0)で承認されました。当時上院議員だった現国務長官ルビオ氏も賛成票を投じています。
今回の投稿は、トランプ氏の2期目政権で、特定の連邦判事の弾劾を公然と求めた初めてのケースとされています。これまでにも、一部の共和党議員や実業家イーロン・マスク氏など、トランプ氏の支持者が、政権の政策を制限する判決を下した判事の弾劾や人格攻撃を行ってきました。
連邦議会で進む弾劾手続き
トランプ氏の投稿から数時間後、共和党のブランドン・ギル下院議員は、ボーズバーグ判事に対する弾劾決議案を提出したとX上で明らかにしました。
米国の連邦判事を罷免するには、まず下院が単純過半数で弾劾決議案を可決し、その後上院が出席議員の3分の2以上の賛成で有罪と判断する必要があります。現在、上下両院とも共和党が多数派を握っているものの、上院で3分の2の賛成を確保できるかは不透明です。
連邦司法の幹部らは先週、判事への脅迫が増加していると警鐘を鳴らし、判決内容を理由とする弾劾要求の風潮に懸念を示していました。今回の一件は、そうした状況にさらなる緊張を加えるものとなっています。
なぜこのニュースが重要なのか
今回の問題は、単なる移民政策論争にとどまらず、米国の立憲主義の根幹である三権分立のバランスをめぐる問題でもあります。18世紀の法律を根拠に行政権限を大きく拡大しようとする大統領と、それに歯止めをかけようとする司法の対立構図が浮かび上がります。
日本を含む他国から見ると、次のような点が重要だと言えます。
- 移民・難民政策が、治安対策や安全保障上の議論とどのように結びついているのか
- 大統領が裁判所の判断に公然と反発し、判事の弾劾を求めることが、司法の独立にどのような影響を与えるのか
- ベネズエラなど他国との制裁や外交関係が、移民・強制送還の現場にどのように波及しているのか
3つのポイントで整理
- 行政権限の拡大の試み:18世紀の戦時法を用いて、通常の移民手続きとは別枠で送還を進めようとする動き
- 司法がかけるブレーキ:連邦判事がエイリアン敵法の適用範囲を厳格に解釈し、一時差し止めに踏み切ったこと
- 政治化する司法批判:大統領や議員が個々の判決に反発し、弾劾を含む圧力を強めることで、司法への信頼が揺らぐリスク
今後の注目点
2025年12月現在、この訴訟と政治的攻防は進行中です。今後の焦点として、次のような点が注目されます。
- 政府が提出するフライトの詳細なタイムラインと、それに対する裁判所の評価
- ボーズバーグ判事による送還一時停止命令が今後も維持されるのか、それとも見直されるのか
- ベネズエラ政府が送還便の受け入れにどう対応し、追加制裁が実際に発動されるのか
- 下院での弾劾審議がどこまで進み、上院で実際に有罪評決に至る可能性があるのか
- 今回の事例が、今後の米国の移民・治安政策、そして司法と行政府の関係にどのような前例を残すのか
トランプ政権の動きと、それに対する米司法や議会の対応は、米国政治の今を象徴する出来事として、今後も追いかける価値がありそうです。
Reference(s):
U.S. judge demands flight details as Trump adm. defends deportations
cgtn.com








