グリーンランド訪問巡り緊張 デンマーク首相「主権と尊重が前提」
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相が、今週予定される米国高官のグリーンランド訪問を前に、「主権」と「尊重」を重ねて強調しました。米国とデンマーク、そしてグリーンランドの関係をめぐる緊張が、改めて国際ニュースの焦点になっています。
何が起きているのか:米代表団のグリーンランド訪問
フレデリクセン首相の懸念は、米国の代表団によるグリーンランド訪問計画を巡るものです。報道によると、米国家安全保障担当補佐官のマイク・ウォルツ氏と、米国副大統領JD・バンス氏の妻であるウシャ・バンス氏らが、今週木曜から土曜にかけてグリーンランドを訪問する予定です。
代表団は首都ヌークと西海岸の街シシミウトを訪れる計画で、ウシャ・バンス氏は自身のInstagram動画で、シシミウトで行われる犬ぞりレースを観戦できることを「楽しみにしている」と語りました。
しかし、この犬ぞりレースを主催するグリーンランド犬ぞり協会(KNQK)は声明で、「米国代表団を招待した事実はない」と説明しており、行事と訪問計画の間に認識のずれがあることが浮かび上がっています。
デンマーク首相「主権と尊重が前提」
フレデリクセン首相は、デンマーク公共放送DRに寄せた書面声明の中で、今回の訪問について次のように述べました。
「米国からの訪問は、これまで公に行われてきた発言とは切り離して考えることはできません。デンマーク王国として、私たちは米国と協力したいと考えています。ただし、それは主権という基本的価値と、国と人々の間の尊重の上に成り立つ協力でなければなりません。」
ここで首相が指摘している「これまでの発言」とは、今年初めから繰り返されてきた米国側のグリーンランドに関する強い関心を指しています。2025年に入り、ドナルド・トランプ米大統領は、世界最大の島であるグリーンランドを「取得」したいという意向を繰り返し示し、ときには武力行使の可能性までほのめかしてきました。
こうした発言は、グリーンランドとデンマークにとって、自らの主権や自己決定権に関わるセンシティブな問題であり、今回の訪問計画に対する受け止め方を大きく左右しているといえます。
グリーンランド側からは「挑発」との声
今回の米代表団の訪問は、グリーンランドの政治家たちから強い反発を招いています。グリーンランドの政党「デモクラティット」の党首イェンス=フレデリク・ニールセン氏は、訪問時期そのものが「グリーンランドの人々への敬意の欠如」を示していると批判しました。
さらに、グリーンランドの自治政府首相であり「イヌイット・アタカティギート」党の党首を務めるムーテ・エーゲデ氏は、今回の訪問を「明白な挑発」と表現しました。特に、高位の安全保障担当の米当局者が含まれている点を問題視し、単なる親善目的を超えた政治的メッセージがあるのではないか、という疑念を示しています。
犬ぞりレースを巡る招待の有無という一見小さな行き違いも、こうした不信感の文脈の中では、大きな象徴として受け止められているようです。
歴史的背景:植民地から自治へ歩んだグリーンランド
グリーンランドは長くデンマークの植民地とされてきましたが、1953年にデンマークの不可分の一部と位置づけられ、グリーンランドの人々にはデンマーク国籍が与えられました。その後、1979年には「ホーム・ルール」と呼ばれる自治制度が導入され、内政面で大きな自己統治権を得ています。
一方で、外交と防衛政策については、今もデンマーク政府が権限を持っています。つまり、グリーンランドは自治を進めつつも、デンマーク王国の枠組みの中で対外関係を運営しているという、二重の性格を持つ地域です。
こうした歴史的経緯の中で、「大国」である米国がグリーンランドに強い関心を示し、その代表団が訪問するとなれば、デンマーク政府、グリーンランドの自治政府、さらには住民の間で、主権や尊重のあり方が改めて問われるのは自然な流れといえるでしょう。
なぜこのニュースが重要なのか
今回のグリーンランド訪問をめぐる緊張は、単なる一度きりの外交トラブルではなく、いくつかのテーマを浮き彫りにしています。
- 植民地支配の歴史を持つ地域が、どのように自己決定権と主権を主張していくか
- 軍事・安全保障を担う「本国」と、自治を進める地域との役割分担をどう調整するか
- 大国が自らの利益や安全保障を理由に他地域へ関与するとき、どこまで「尊重」が守られるのか
デンマーク首相が強調したのは、「協力そのものを否定するのではなく、その土台としての主権と尊重が欠かせない」という点でした。これは、米国とデンマーク、グリーンランドだけでなく、世界各地の「小さな地域」と「大国」の関係にも通じるメッセージです。
日本に暮らす私たちにとっても、このニュースは遠い北の島の話にとどまりません。安全保障や経済協力が強調される時代だからこそ、「協力の前提条件」としての主権と尊重をどう守るべきか。グリーンランドからのこの問いかけは、私たちが国際ニュースを読み解く視点を静かにアップデートしてくれます。
Reference(s):
Danish PM urges respect ahead of U.S. delegation visit to Greenland
cgtn.com








