韓国憲法裁、Han Duck-soo首相の弾劾棄却 約1年ぶりに職務復帰
韓国の憲法裁判所は2025年12月8日(月)、Han Duck-soo(ハン・ドクス)首相に対する弾劾訴追を棄却し、同首相の職務復帰を認めました。これによりHan氏は首相としてだけでなく、尹錫悦(Yoon Suk-yeol)大統領の職務停止に伴う代行大統領の権限も取り戻しています。
憲法裁判所の判断と投票結果
今回の判断は、9人定員の憲法裁判所で8人の裁判官が参加して下されました。その内訳は、
- 5人が弾劾訴追の棄却に賛成
- 1人が弾劾を認める立場
- 2人が訴え自体の却下を主張
多数を占めたのは「弾劾を棄却する」という判断で、これによりHan氏は即時に首相と代行大統領としての権限を回復しました。判決は言い渡しと同時に効力を持ち、Han氏はすでに執務を再開しています。
何が争点だったのか
野党が主張していたのは、大きく二つの点でした。
- 尹錫悦大統領による非常戒厳令(軍法)の宣言および内乱の疑いに、Han氏も関与していたのではないか。
- 憲法裁判所の裁判官任命を拒否し、進行中だった尹大統領の弾劾審理を弱めようとしたのではないか。
憲法裁判所は、弾劾手続きそのものについては「適法に行われた」と認めました。そのうえで、提示された証拠や客観的資料を吟味し、以下のように結論づけています。
- 尹大統領による軍法宣言や内乱の疑いについて、Han氏が関与したと認定できる証拠はない。
- 憲法裁判所裁判官の任命を拒んだ行為は違憲である。
- しかし、その行為により尹大統領の弾劾審理を骨抜きにしようとした「明確な意図」までは認定できない。
つまり、憲法秩序に反する問題行為はあったものの、職を失わせるほどの重大な違反とは言えないと判断したかたちです。
大統領弾劾と軍法宣言の経緯
今回の首相弾劾は、2024年12月に始まった韓国政治の危機の一部として起きました。短期間に以下のような出来事が連鎖しています。
- 2024年12月3日:尹錫悦大統領が夜に非常戒厳令(軍法)を宣言。しかし数時間後、野党が多数を占める国会(National Assembly)がこれを取り消す決議を採択。
- 12月14日:尹大統領の「軍法宣言の失敗」を理由に、国会が大統領の弾劾訴追を可決。大統領は職務停止となる。
- 12月27日:大統領弾劾に続き、野党主導の国会がHan首相の弾劾訴追案も可決。
大統領と首相の双方が弾劾訴追される異例の事態となった結果、経済・財政相であり経済担当の副首相でもあるChoi Sang-mok(チェ・サンモク)氏が、2024年12月以降、代行大統領として国家元首の役割を担ってきました。
今回の判決により、Choi氏は経済・財政政策により集中し、代行大統領としての役割はHan氏が引き継ぐことになります。
今回の判断が示すもの
憲法裁判所の判決は、韓国の権力分立のあり方を考えるうえでいくつかのポイントを示しています。
- 国会が行政トップの責任を問うために弾劾という手段を用いること自体は、憲法上認められた正当なプロセスである。
- 一方で、職務罷免につながる弾劾を最終的に認めるかどうかについて、憲法裁は極めて慎重に判断している。
- 首相による憲法裁判所の人事への介入は違憲と明確に指摘され、今後の人事慣行や制度運用への警鐘となった。
国会による「政治的責任の追及」と、憲法裁による「憲法秩序の最終的な判断」という二つの役割が、今回改めて浮き彫りになったと言えます。
国会と憲法裁のせめぎ合い
野党が多数を占める国会は、軍法宣言やその後の対応をめぐり、行政府トップの責任を強く追及してきました。これに対し憲法裁は、手続きの適法性を認めつつも、個々の行為が憲法上の罷免事由に当たるかどうかを切り分けて判断しました。
とくに、Han氏の裁判官任命拒否を「違憲」と明言しながらも、弾劾までは踏み込まなかった点は、今後の政治行動に対する一種のガイドラインとして受け止められそうです。
今後の韓国内政と周辺への影響
尹錫悦大統領は2024年12月14日の弾劾訴追以来、職務停止の状態が続いており、その弾劾審理が最終的にどう決着するのかは、韓国政治の最大の焦点の一つです。大統領の去就次第で、Han氏がどの程度の期間、代行大統領として権限を行使するのかも変わってきます。
約1年にわたる政治的不透明感は、韓国の経済運営にも影響を与えてきました。代行大統領だったChoi氏は、経済・財政政策と国家元首としての役割を兼務してきましたが、今回の判決で役割分担が整理され、市場や企業の間では一定の安定への期待も高まりそうです。
日本や東アジアの視点から見ても、韓国の政治的安定は無視できません。安全保障協力、サプライチェーン、観光・人の往来など、日韓関係は経済・社会の多方面で結びつきが強まっています。ソウルの政局が落ち着くかどうかは、日本企業の投資判断や地域全体のリスク評価にも影響し得ます。
これからの注目ポイント
- 憲法裁判所が尹錫悦大統領の弾劾について最終的にどのような判断を下すのか。
- Han Duck-soo首相が代行大統領として、どこまで政治的リーダーシップを発揮できるのか。
- 野党が今後も弾劾など強硬な手段を続けるのか、それとも与野党協議へと軸足を移すのか。
軍法宣言、二つの弾劾、代行大統領の登場と、韓国政治はこの1年、極めて例外的な局面が続いてきました。今回の首相弾劾棄却が政局の安定につながるのか、それとも新たな対立の火種となるのか。隣国の動きを追いながら、東アジア全体の行方もあわせて見ていく必要がありそうです。
Reference(s):
South Korean PM reinstated as constitutional court rejects impeachment
cgtn.com








