米トランプ政権、FDAやCDCで約1万人削減 米公衆衛生はどうなる?
米国のトランプ政権が今週、食品医薬品局(FDA)や疾病対策センター(CDC)など主要な保健機関で約1万人を一斉に削減したことが分かりました。公衆衛生の「頭脳」が失われる中、今後の感染症対策や薬・ワクチンの安全性に懸念が広がっています。
何が起きたのか:HHS傘下で1万人の大量解雇
複数の関係者によると、米保健福祉省(HHS)傘下の複数の機関で今週火曜日、大規模な人員削減が始まりました。対象はFDA、CDC、国立衛生研究所(NIH)などで、合計1万人の職員が解雇通知を受けたとされています。
HHS全体の人数は、最近の退職と今回の削減を合わせて8万2千人から6万2千人へと、およそ4分の1減る見通しです。ドナルド・トランプ米大統領と実業家イーロン・マスク氏による「連邦政府の縮小と歳出削減」計画の一環と位置づけられています。
ロバート・F・ケネディ・ジュニア厚生長官は、この削減について「肥大化した官僚機構をスリム化するために不可欠だ」と説明しています。一方で、公衆衛生やがん研究、ワクチン・医薬品の審査を担ってきたトップ科学者の多くが職を失っており、米国の危機対応力が揺らぐとの見方も強まっています。
FDA:新薬・たばこ・ワクチンの中枢が相次ぎ退場
FDAでは、新薬審査を担当する医薬品評価研究センター(CDER)の新薬室ディレクター、ピーター・スタイン氏が解雇の通告を受けて辞任したと伝えられています。
たばこ規制を担うたばこ製品センター(CTP)では、トップのブライアン・キング氏が解任され、その前にはワクチン分野で高く評価されていたピーター・マークス氏も退任しています。CTP内部では「管理部門」と「規制部門」が丸ごと削減されたとされ、元センター長のミッチ・ゼラー氏は「事実上、たばこ製品を規制することはほぼ不可能になった」と懸念を示しました。
広報部門でも17人が解雇され、最高情報責任者(CIO)のヴィド・デサイ氏も職を失いました。製品審査を担当する職員からは、締め切りに追いつけないとの声も上がっています。
FDAの元長官ロバート・カリフ氏は、ビジネスSNSへの投稿で「これまでのFDAは終わった」と述べ、「歴史的な大きな誤りとみなされるだろう」と強い危機感を示しました。
NIHとCDC:現場にも広がる混乱
メリーランド州ベセスダにあるNIH本部キャンパスでは、火曜早朝に職員へ解雇の通知が出され、出勤しようとする車がキャンパス周辺の道路に長い列を作りました。
感染症研究を担う国立アレルギー・感染症研究所の所長で、アンソニー・ファウチ氏の後任だったジーン・マラッツォ氏も解任されたとされ、インディアン・ヘルス・サービスでの新たな職が提示されたということです。
CDCでも、環境衛生を担当する「国立環境衛生センター」、薬物依存などを扱う「物質乱用・メンタルヘルスサービス局」、はしかや呼吸器感染症に対応する「国立予防接種・呼吸器疾患センター」の職員が解雇されました。現在進行中のはしか対策に関わっていた職員も含まれるとされています。
現場で何が起きていたのか:警備員が解雇を伝える異例の対応
首都ワシントン中心部のメアリー・スウィッツァー・ビルでは、出勤してきた職員が入り口で警備員から突然「解雇された」と告げられる場面が相次ぎました。ある職員によると、多くの人が「RIF(人員削減)」の対象となっており、うち一人は耳が聞こえない人で、警備員が携帯電話の画面にメッセージを打ち込んで解雇を伝えたといいます。
FDAの建物では、入り口で職員がバッジを提示し、解雇対象となった人には「帰宅するように」と書かれた紙が渡されました。紙には備品を返却・回収するための担当部署の電話番号が並んでいたとされています。多くの職員は、自分がどうなるのか分からないまま、建物の外で長い列に並び続けました。
解雇された職員には、勤務実績や評価とは無関係であること、そして一定期間は「行政休職」とする旨を記したメールが届きました。関係者によると、これは労働組合との取り決めで、60日前には通知を行う必要があるためだということです。
メリーランド州ロックビルのHHSビルでも、入り口から駐車場まで人の列が伸び、2人の警備員だけが全員をチェックしていたと複数の関係者が証言しています。
政権のねらいと、その代償
トランプ大統領とマスク氏は、連邦政府の規模を縮小し、歳出を大幅に削減することを掲げてきました。ケネディ厚生長官はSNS「X」への投稿で、「仕事を失った人々には心から同情する。しかし、これまでのやり方はうまくいっていない」と述べ、「慢性疾患の予防というHHSの中核的使命に集中するために必要な改革だ」と主張しました。
一方で、今回の削減は、鳥インフルエンザやはしかといった現在進行中の公衆衛生上の課題にどう影響するのか、具体的な説明が十分になされていません。現場からは、専門知と経験を持つリーダーが一斉にいなくなったことで、危機対応や新薬・ワクチンの審査が遅れるのではないかという不安が出ています。
新トップの船出と、これからの論点
今回の大規模削減は、FDAの新コミッショナーであるマーティー・マカリ氏と、NIHの新ディレクターであるジェイ・バタチャリア氏が正式就任した初日に行われました。両氏が、この急激な組織再編の中でどのように組織を立て直すのかが問われます。
カリフ元長官は、壊れてしまった組織を童話の「ハンプティ・ダンプティ」にたとえ、「新しいリーダーたちが、どうやって全体を元に戻すつもりなのか注目したい」と述べています。
米国の保健機関は、感染症対応や医薬品の安全性だけでなく、世界の政策や産業にも影響を与える存在です。今回の人員削減が、どこまで効率化につながり、どこまで公衆衛生リスクを高めるのか。日本を含む各国にとっても、今後の動きから目が離せません。
Reference(s):
Trump begins mass layoffs at FDA, CDC, other U.S. health agencies
cgtn.com








