韓国憲法裁、尹錫悦大統領の弾劾を認定 短期戒厳令が招いた憲政危機
韓国憲法裁判所、尹錫悦大統領の弾劾を全会一致で認定
韓国の憲法裁判所は金曜日、国会が可決した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する弾劾訴追を全会一致で認め、大統領の罷免を決定しました。短期間の戒厳令発令を「憲法秩序の侵害」と判断した今回の決定は、韓国の民主主義と軍の統制をめぐる重大な節目となっています。
この決定により、保守系の尹氏は直ちに大統領としての権限をすべて失い、2017年に弾劾で罷免された朴槿恵(パク・クネ)氏に続き、韓国で2人目の罷免された現職大統領となりました。
「憲法保護の利益が上回る」 憲法裁の判断理由
憲法裁判所の文炯培(ムン・ヒョンベ)裁判官代行は、弾劾判決の言い渡しで、8人の裁判官全員が賛成した一致判断であると明らかにしました。
文氏は、尹氏が軍や警察を動員して憲法上の機関である国会を損ない、人々の基本的権利を侵害したことで、「憲法を守る義務に違反した」と指摘しました。判決では、戒厳令発令による憲法秩序への損害を重く見ており、尹氏を罷免することで憲法を守る利益は、その罷免による国家的損失を「圧倒的に上回る」と強調しています。
一夜で頓挫した「戒厳令」 国会に軍が突入
尹氏は「非常戒厳令」を昨年12月3日の夜に宣言しました。しかし、野党が主導する国会は数時間後にこれを取り消し、一夜にして戒厳令は頓挫しました。
その間の深夜には、軍のヘリコプターが国会議事堂に着陸し、武装した特殊部隊の隊員数百人が建物内に突入したとされています。韓国の民主化以降、国会に向けて軍がこのような形で動員されるのは極めて異例であり、今回の弾劾審理では、こうした行動が憲法秩序や市民の自由にどのような影響を与えたのかが大きな争点となりました。
弾劾手続きの流れと過去の事例との比較
昨年12月14日に、尹氏の弾劾訴追案が国会で可決されて以降、憲法裁判所では2月25日までに計11回の弁論が開かれました。弾劾訴追から最終判断までにかかったのは111日で、これは過去の大統領弾劾と比べても長期にわたる審理となりました。
- 朴槿恵氏の弾劾では、訴追から判決まで92日
- 2004年に弾劾された盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏の場合は64日で審理が終結し、職務復帰が認められました
今回、尹氏は「現職大統領として2人目の罷免」となる一方で、国会による弾劾自体は盧氏、朴氏に続いて3例目となります。韓国では大統領制のもとでも、国会と憲法裁判所が大統領を強くけん制しうることが、改めて示された形です。
尹氏は「内乱首謀」容疑で起訴 初の在任中逮捕
弾劾手続きと並行して、尹氏の刑事責任も問われています。尹氏は1月15日に大統領府で身柄を拘束され、「内乱の首謀者」とされる容疑で、1月26日に勾留されたまま起訴されました。現職大統領が在任中に逮捕・起訴されたのは、韓国の憲政史上初めてです。
有罪となった場合、尹氏には死刑または無期懲役が科される可能性があるとされています。一方で、検察が裁判所による保釈認定に抗告しなかったため、尹氏は3月8日に釈放されています。今後は、弾劾により職を失った元大統領として、法廷での争いが続くことになります。
60日以内の大統領選へ 政治の不確実性と民主主義の試練
韓国の法律では、憲法裁判所が弾劾を認めた瞬間から判決は効力を持ち、60日以内に新たな大統領選挙を実施することが定められています。判決当時、今回の出直し選は5月下旬から6月初めにかけて行われる見通しとされていました。
大統領が弾劾で退陣し、短期間で大統領選が行われる事態は、政治的な不確実性を高める一方で、民主主義の仕組みそのものが試される局面でもあります。今回のケースは、次のような論点を韓国社会に投げかけました。
- 危機対応と市民の基本的人権のバランスをどう取るのか
- 軍や警察の動員に対する「文民統制(シビリアンコントロール)」をどう担保するのか
- 大統領、国会、憲法裁判所という三つの機関の間で、健全なチェックアンドバランスをどう維持するのか
尹氏の弾劾と罷免は、韓国が過去の権威主義からどこまで距離を置き、どこまで民主的なルールに忠実であり続けられるのかを問う出来事となりました。
日本と東アジアへの含意 「隣国の政治」をどう見るか
韓国の大統領弾劾は、日本を含む東アジアにも少なからぬ影響を与えうる動きです。隣国の政権交代や政治的混乱は、経済協力、サプライチェーン、安全保障政策などに波及する可能性があります。また、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)をめぐる安全保障環境を考えるうえでも、韓国の政治基盤の安定性は重要な要素です。
同時に、今回の事例は「制度が機能する民主主義とは何か」という問いを、私たち自身にも投げかけます。強い権限を持つトップが、憲法に反すると判断された行為を行ったとき、どのような手続きで権力を制限し、最終的に市民の権利を守るのか──韓国の憲法裁判所の判断は、その一つの答えを示したと言えます。
日本語で国際ニュースを追う私たちにとって、この弾劾劇は、単なる「隣国のスキャンダル」ではなく、民主主義と法の支配をめぐる共通の課題を考える素材として、注視する価値のある出来事だといえるでしょう。
Reference(s):
S. Korea's constitutional court upholds President Yoon's impeachment
cgtn.com








