米国の移民取り締まりが鳥インフルエンザ対策を妨げるという報告
米国での移民取り締まりの強化が、鳥インフルエンザ(鳥フル)対策を弱体化させ、将来のパンデミック(世界的大流行)のリスクを高めていると指摘する報告が公表されました。国際ニュースとしての重要性に加え、移民と公衆衛生の関係を考えるうえで、日本の読者にとっても示唆に富む内容です。
鳥インフル対策の鍵を握る農場労働者
報告をまとめたのは、米国の医療政策を専門とする団体 KFF です。KFF によると、米国における鳥インフルエンザ感染例の多くは酪農・養鶏などの畜産業に従事する労働者です。彼らの感染を早期に発見し、予防することが、パンデミックを防ぐうえで極めて重要だとされています。
しかし、その最前線にいる農場労働者の多くは移民であり、なかには在留資格に不安を抱える人も少なくありません。報告によれば、強まる移民取り締まりへの恐怖から、医療機関に近づくこと自体を避ける人が増えているといいます。
米ミシガン州で移民や難民を支援する団体で活動するロサ・ヤネスさんは、移民コミュニティの現状を次のように語ります。日常的な買い物でさえ控える人がいるほど、人々は外に出ること自体を怖がっているというのです。
表に出ない感染者と崩れていく信頼関係
KFF の報告によると、2024年3月以降、米国全体で約65人の酪農・養鶏関連の労働者が鳥インフルエンザ陽性と判定されています。ただし、感染症の専門家たちは、実際の感染者数はこれより多い可能性が高いと警告しています。農場での監視体制が十分でないうえ、労働者が医療機関を避けているためです。
ミシガン州で活動するラテン系のアウトリーチ(支援・広報)ワーカーは、報復を恐れて匿名を条件に、現場の空気をこう証言します。多くの人が、目の充血や痛みなどの症状が出ても、医療機関に行かず、自宅で様子を見ることを選んでいるというのです。今年に入ってから状況は一段と厳しくなり、人々の恐怖心は強まっているといいます。
KFF は、こうした恐怖が在留資格の有無にかかわらず、ヒスパニック系コミュニティ全体に広がっていると指摘します。コロラド州で農場労働者の支援活動を行う団体 Project Protect Food Systems Workers のハンター・ナップさんも、見た目から移民とみなされる人であれば、誰もが強い不安を抱えている状況だと語っています。
農場労働者を組織するユナイテッド・ファーム・ワーカーズの広報担当、アントニオ・デ・ロエラ・ブルストさんによれば、農場労働者と保健当局との信頼関係も揺らいでいます。酪農労働者たちは、職場での防護対策の不足や、感染時の有給休暇の欠如といった問題について、匿名であっても語ろうとしなくなっているといいます。
2025年の政権交代と取り締まり強化
2025年1月の政権交代以降、米国では移民取り締まりが一段と強まったと報告されています。トランプ政権の下で、移民当局による家宅訪問や職場での摘発などが相次ぎ、移民コミュニティの不安をさらに高めました。
匿名を条件に証言したミシガン州のアウトリーチワーカーは、ラテン系であること自体が常に自分を目立たせ、取り締まりの対象になり得ると感じていると話します。就労ビザなどの在留資格を持っていても、政策が急速に変化するなかで、将来への安心感を持つことが難しいという声もあります。
ミシガン移民権利センターで弁護士を務めるアナ・ヒル・ガレンデスさんは、2025年1月下旬、ミシガン州北部の酪農地帯での事例を紹介しています。鳥インフルエンザに不安を抱える酪農労働者たちは、本来であればワクチン接種や検査、防護具の提供を受けたいと望んでいましたが、移民当局による強硬な摘発を恐れ、自宅から出ることを躊躇したといいます。
ワクチン作戦にも影響、広がる公衆衛生リスク
2024年末、米疾病対策センター(CDC)は、約20万人の畜産関連労働者を対象にしたインフルエンザワクチン接種キャンペーンを開始しました。季節性インフルエンザと鳥インフルエンザの同時感染を防ぐことで、ウイルスの変異リスクを抑える狙いがあったとされています。
しかし、2025年1月の移民取り締まりの強化や一連の摘発の後、現場の医療従事者によれば、ワクチン接種率はすぐに下がったということです。必要な人ほど予防接種から遠ざかるという、逆転現象が起きていると指摘されています。
ユナイテッド・ファーム・ワーカーズのデ・ロエラ・ブルストさんは、誰か一人の感染が社会全体のリスクにつながると強調します。ウイルスは移民かどうか、どのような在留資格を持つかを区別しません。労働者の安全を守ることは、地域社会全体を守ることでもあります。
公衆衛生の専門家たちは、鳥インフルエンザが人に感染する一つ一つのケースが、ウイルスが人同士で広がりやすい形に変異するチャンスになり得ると警戒しています。感染の芽を早期に見つけ、職場での予防策と医療アクセスを確保することが、世界的な大流行を防ぐうえでも重要だとされています。
日本の読者にとっての意味
今回の米国の事例は、国境を越えた感染症対策や、移民・外国人労働者をめぐる政策が、公衆衛生とどのように結びついているかを示しています。日本でも、技能実習生や特定技能など、外国人労働者が担う現場は少なくありません。彼らが安心して医療や情報にアクセスできる環境を整えることは、将来の感染症リスクの軽減にもつながります。
今回の報告から見えてくるポイントを、整理すると次のようになります。
- 移民・外国人労働者の不安や恐怖は、医療へのアクセスを妨げ、感染症対策を弱体化させる。
- 取り締まりの強化は、短期的には抑止力になる一方で、公衆衛生の観点からは逆効果を生む可能性がある。
- 感染症は、国籍や在留資格を問わず社会全体に影響を与えるため、包括的で信頼にもとづく対策が不可欠である。
国際ニュースとしての米国の鳥インフルエンザ対策の課題は、日本社会が今後、外国人労働者とどのように共に暮らし、安全を守っていくのかを考えるヒントにもなります。移民政策と公衆衛生をどう両立させるのかという問いは、米国だけでなく、多くの国と地域が向き合う共通のテーマになりつつあります。
Reference(s):
Report: Immigration crackdown hinders bird flu prevention in U.S.
cgtn.com








