瀬戸際の米イラン核外交 新たな核合意は実現するのか
米国とイランの核交渉が、軍事衝突の回避と核開発の制限をかけた瀬戸際の局面に入っています。オマーンが仲介する協議では、トランプ米大統領2期目の政権とイランが新たな核合意の枠組みづくりを模索しており、今週にも専門家レベルの詰めの協議が始まる見通しです。本稿では、このハイリスクな外交ゲームの焦点と、合意成立の可能性を整理します。
オマーン仲介で再始動した米イラン核交渉
今回の米イラン核交渉は、テヘランの核開発計画と、ワシントンが求める検証可能な安全措置の両立を図りつつ、軍事衝突を避けることが大きな目的です。交渉はオマーンの仲介で行われており、2015年の包括的共同行動計画(JCPOA)から米国が一方的に離脱し、制裁を復活させて以来、まれな本格的対話となっています。
JCPOAの下でイランは、経済制裁の解除と引き換えにウラン濃縮活動を大幅に制限していました。しかし2018年以降、イランはこの枠組みの制限を超え、60%まで濃縮したウランを274.8キログラム保有するに至っています。これは兵器級に近い高い濃度でありながら、イラン側はあくまで核計画は平和目的だと主張しています。
トランプ大統領が掲げる「最後の外交」
トランプ米大統領(2期目)は、今回の協議をイランの核兵器保有を防ぐための「土壇場の試み」と位置づけています。外交が失敗すれば軍事行動も辞さない構えを示しており、言葉の一つ一つが市場と地域情勢に緊張を走らせています。
これまでに、イランのアッバース・アラグチ外相と米側のスティーブ・ウィトコフ特使との間で、マスカットとローマにおいて2回の間接協議が行われました。今週からは技術専門家のチームが合意文書の具体的な内容の作成に入る予定で、交渉は実務レベルの正念場を迎えています。
イラン側の「赤線」 濃縮能力と核施設の維持
イランのアラグチ外相は、交渉で譲れない「赤線」として、ウラン濃縮能力の維持と核関連インフラの解体要求の拒否を明確にしています。イラン側は、核の知識や施設を放棄することは国家主権に関わる問題だと見なしており、一方的な譲歩には応じない姿勢です。
同時にイランは、制裁解除が自国経済に実際の恩恵をもたらすことを重視しています。カーゼム・ガリババディ外務次官は日曜日、「すべての制裁は、イランの人々に実際の利益をもたらす形で解除されなければならない」と強調しました。過去の合意で期待された経済効果が十分に実感されなかったという認識が、今回の交渉条件にも影を落としています。
揺れる米政権内 強硬派と現実派のせめぎ合い
合意への道を複雑にしているのが、トランプ政権内部の路線対立です。マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障問題担当)やマルコ・ルビオ国務長官らは、イランの核計画そのものを完全に解体することを主張する強硬派です。
これに対し、政権内の現実派は、国際的な監視の下で限定的な濃縮活動を認める方向性を模索しています。米国は当初、核施設の全面的な解体を求めていましたが、現在は濃縮度を3.67%に制限するという、かつてのJCPOAと同様の条件を受け入れる用意があるとも伝えられます。
ウィトコフ特使がこの方針転換を示唆した後に一部発言を修正するなど、メッセージがぶれる場面もありました。こうした姿勢の揺らぎは、イラン側の不信感を強め、交渉の信頼構築を難しくしている面があります。
根深い不信と「報復」のメッセージ
米イラン関係には、長年の対立と相互不信が深く刻まれています。最近の挑発行為の積み重ねもあり、今回の交渉にも重い影を落としています。イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、わずか2カ月前には対米交渉を「理にかなわず、名誉あるものでもない」と厳しく批判していました。
現在は慎重ながらも交渉を支持する立場に転じていますが、攻撃された場合には報復する姿勢を崩していません。側近のアリ・ラリジャニ氏は「イランは核兵器を追求していない。しかし爆撃されれば、再考せざるをえない」と警告しており、軍事行動が取られれば核政策の再検討も辞さないとのメッセージと受け止められています。
一方、米側には、イランが厳格な査察を受け入れるかどうか、またイエメンのフーシ派のような地域の同盟勢力との関係を見直す意思があるのかについて、根強い懐疑論があります。核問題と地域安全保障をどこまで結びつけるのかも、今後の大きな争点になりそうです。
イスラエルの軍事オプションが交渉を揺さぶる
交渉に外から圧力をかけているのがイスラエルです。イスラエル政府は、イランの核計画を「リビア方式」と呼ばれる完全解体にまで追い込まない限り、いかなる合意も受け入れられないという強硬な姿勢を示しています。
イスラエルは、単独でイランの核施設を攻撃する可能性を公然と示唆しており、交渉の行方を不安定にしています。トランプ大統領はベンヤミン・ネタニヤフ首相を抑えつつ、外交を優先するとしながらも、協議が決裂すればイランは「大きな危険」に直面すると警告しました。
それでも、通信社の報道によればイスラエル当局は限定的な攻撃の選択肢をなお検討しているとされ、ひとたび軍事行動が取られれば、辛うじて進んできた外交プロセスが崩壊するリスクがあります。
なお残る合意への「5つの接点」
こうした数々のハードルにもかかわらず、米国とイラン双方が戦争を避けたいという思惑を共有していることから、最終的な妥協の余地は残っているという見方もあります。プリンストン大学の研究者で元イラン交渉官でもあるセイエド・ホセイン・ムーサヴィアン氏は、両国の間にある「収れん点」として次の5点を挙げています。
- 米国もイランも、核兵器そのものには反対していること
- 双方とも大規模な戦争を回避したいという利害を共有していること
- 米国がイラン政権の打倒を目指さないと明言していること
- 制裁解除など経済的なインセンティブが、イランにとって大きな動機となること
- 根本的には、軍事力ではなく外交による問題解決を双方が望んでいること
交渉参加者がこうした「接点」を具体的な条文に落とし込めるかどうかが、新たな核合意の成否を左右します。濃縮上限や査察体制、制裁解除の手順、そして再び合意が一方的に破棄されないための仕組みづくりなど、詰めるべき論点は少なくありません。
私たちは何を注視すべきか
中東での軍事衝突は、エネルギー市場や海上輸送を通じて世界経済全体に影響し、日本の暮らしにも間接的な影響を与えかねません。米イラン核交渉は、遠い地域の出来事でありながら、国際ニュースとして私たちの日常ともつながるテーマです。
今後数週間で予定される専門家レベルの協議や、トランプ政権内・イラン国内の政治力学、さらにイスラエルの動きが、合意へのわずかな道を広げるのか、それとも軍事的緊張を高めてしまうのかの分岐点になります。断片的な発言や威嚇だけでなく、その背景にある利害と制約を丁寧に追うことが、状況を冷静に理解するうえで重要になりそうです。
Reference(s):
Diplomacy on the brink: Can U.S. and Iran forge a new nuclear deal?
cgtn.com








