ギリシャ大理石産業を揺るがす貿易戦争 米国関税案の衝撃 video poster
ギリシャ大理石を襲う貿易戦争の波
2025年現在、ギリシャの伝統産業である大理石が、国際ニュースの最前線に立たされています。米国が検討している欧州製品への新たな関税案と、米中の貿易戦争の余波が重なり、ギリシャ北部の産地と地域社会に不安が広がっています。
古代から続く産業が現代の危機に直面
パルテノン神殿にも使われたギリシャの大理石は、いまも同国を代表する輸出品です。特に北部のドラマやタソスなどの地域では、採石場や加工工場が数千人規模の雇用を支えています。ギリシャは毎年、米国向けに26億8000万ドル超の製品を輸出しており、その中でも大理石は重要な位置を占めています。
しかし、こうした強みが、貿易摩擦の激化によって一気に弱点へと変わりつつあります。米国は欧州製品への新たな関税を提案しており、その一部は最大50パーセントに達する可能性があるとされています。
米国の関税案がギリシャ大理石に直撃
大理石大手Iktinosの副最高経営責任者、イウリア・ハイダさんは、現場の切迫感をこう語ります。
「市場が縮小しています。これ以上のコストは吸収できません。プレッシャーはここだけでなく、どこにでもあるのです」
米国はギリシャにとって5番目に大きな輸出先であり、とりわけ大理石産地にとっては不可欠な市場です。その米国向け輸出が大幅関税の対象となれば、価格競争力は一気に低下し、受注減や利益圧迫につながります。
現場で起きている変化:急ぐ注文と相次ぐキャンセル
変化はすでに物流の現場にも表れています。輸送会社を営み、1日に最大7台分の大理石を運ぶスピロス・パパマリノスさんは、家計への影響を心配しています。
「これが家族を支える手段です。もし荷が減れば、私たちは困ったことになります」
実際、一部の顧客は関税が上がる前にと注文を前倒しする一方で、別の顧客は先行き不透明感から契約をキャンセルしているといいます。
ボラカスの大規模採石場を担当するプロダクトマネージャー、アレクサンドロス・ゾルピディスさんも、その影響を肌で感じている一人です。
「9歳の子どもがいるのですが、よりよい未来を持ってほしいと願っています。でも、もし大理石が止まってしまったら、そのときどうなるのでしょうか」
米中貿易戦争の余波で「逃げ場」が狭まる
ギリシャの大理石産業を難しい立場に追い込んでいるのは、米国の関税案だけではありません。米中の貿易戦争が続くなかで中国からの需要が弱まり、多くのギリシャ企業が新たな販路を求めて西側、特に米国市場に軸足を移してきました。
ところが、ようやく開拓してきた市場が、今度は関税という新たな壁に直面しています。米国でギリシャ産大理石を扱う輸入業者のニコス・コレイディスさんは、次のように打ち明けます。
「関税がさらに上がれば、価格を引き上げざるを得ません。しかし、そうなれば中国やトルコには太刀打ちできません。すでに輸入量を75パーセント削減しました」
米国の輸入業者が仕入れを絞れば、そのしわ寄せはギリシャ側の採石場や加工業者、物流会社に直撃します。貿易戦争の波は、国と国の対立にとどまらず、遠く離れた地方都市の労働者やその家族の暮らしにも静かに届いているのです。
地域経済への連鎖反応
大理石産業が地域経済にとってどれほど大きな存在かは、パパマリノスさんの言葉によく表れています。
「影響を受けるのは私だけではありません。カフェも、ガソリンスタンドも、電気工も同じです。採石場が止まれば、みんなが打撃を受けます」
採石場で働く人が残業を減らせば、昼食をとる食堂やカフェの売り上げが落ちます。トラックの往来が減れば、燃料を扱うガソリンスタンドやメンテナンス業者も影響を受けます。単一の産業に依存する地域ほど、こうした連鎖は深刻になりやすい構図です。
築き上げた市場は簡単には戻らない
ギリシャ輸出業者協会の会長、アルキビアディス・カランポキスさんは、短期だけでなく長期のリスクにも警鐘を鳴らします。
「私たちは、この市場を何十年もかけて築き上げてきました。もし関税によって崩れてしまえば、簡単には戻らないでしょう」
貿易相手国との信頼関係やブランドは、一朝一夕には形成されません。価格高騰や供給不安が続けば、顧客は別の産地へと切り替え、そのまま戻ってこない可能性もあります。
私たちが考えたい3つのポイント
ギリシャの大理石産業をめぐるこの国際ニュースは、日本に暮らす私たちにとっても他人事ではありません。同じように特定の輸出市場や産業に依存する地域は世界中にあり、日本の地方にも共通する課題が見えてきます。
- 関税や貿易戦争といった政策的な衝突が、地方の雇用や家族の暮らしにどう影響するのか
- 特定の国や分野への依存度を下げ、多角的に市場を開拓することの重要性
- 長年かけて築いた信頼と市場を守るために、企業と地域がどのような備えを持てるのか
いまも採石場の機械は動き続けていますが、ギリシャの大理石産業とそれに依存する地域社会の未来は、関税をめぐる交渉や国際情勢によって大きく左右されようとしています。国と国の駆け引きの陰で、日々の仕事と家族の生活を守ろうとする人びとの声に耳を傾けることが、国際ニュースを自分ごととして捉える第一歩なのかもしれません。
Reference(s):
Losing their marbles – how trade war threatens ancient Greek industry
cgtn.com








