マスク氏がトランプ減税・歳出法案を痛烈批判 共和党内に広がる財政不安
米テスラとスペースXの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏が、ドナルド・トランプ米大統領が推進する大型減税・歳出法案を「嫌悪すべき怪物」とまで呼び、共和党内の財政論争を一段と激しくしています。与党の看板法案に対する著名実業家の異例の批判は、今後の審議の行方を不透明にしています。
イーロン・マスク氏「嫌悪すべき怪物」発言の波紋
報道によると、マスク氏は自身が運営する交流サイトXで、火曜日に連投するかたちでトランプ政権の減税・歳出法案を批判しました。
マスク氏は「もうこれ以上我慢できない」と書き出し、この議会歳出法案を「巨大で、とんでもなく、利益誘導の条項が詰め込まれた、嫌悪すべき怪物だ」と強く非難。さらに「この法案に賛成票を投じた人たちは恥を知るべきだ。自分たちが間違っていたことは分かっているはずだ」と、議員たちを名指しこそしないものの、異例の厳しい言葉で批判しました。
こうした発言には、財政規律を重視する共和党の上院議員らが呼応し、法案への支持をためらう声も上がっています。マスク氏の投稿は、すでに意見が割れていた共和党内の議論をさらに複雑にしている形です。
一方、ホワイトハウスはマスク氏の批判をすぐに退けました。報道官のカロライン・レヴィット氏は記者団に対し、「大統領はすでに、マスク氏がこの法案をどう見ているかを知っている。それで大統領の考えが変わることはない」と述べ、「これは一つの大きく美しい法案であり、大統領はその立場を崩さない」と強調しました。
法案「One Big Beautiful Bill Act」の中身
問題となっているのは、トランプ大統領が掲げる大型減税と歳出をまとめた「One Big Beautiful Bill Act」と呼ばれる法案です。下院では先月、わずか1票差で可決されましたが、その財政負担の大きさが議論を呼んでいます。
非党派の議会予算局(CBO)は、この法案が連邦政府の債務残高を3兆8000億ドル押し上げると試算しています。米政府の債務はすでに36兆2000億ドルに達しており、積み上がる赤字への懸念が強まっています。
下院を通過した内容はおおむね次のようなものとされています。
- トランプ政権の主な実績とされる2017年の減税措置を延長
- 国防費と国境警備費を増額
- 今後10年間で総額1兆6000億ドルの歳出削減を盛り込む一方、全体としては債務を増加させる見通し
上院側は来月の採決を目指していますが、下院案を修正する動きも想定されており、最終形はまだ見通せません。
共和党内の二つの軸 財政タカ派と農村州議員
赤字削減を求める財政タカ派
マスク氏の批判に対し、党内の財政タカ派と呼ばれる議員の一部は支持を示しています。彼らは、下院案に盛り込まれた10年間で1兆6000億ドルという歳出削減では不十分だとして、より踏み込んだ削減を求めています。
マイク・リー上院議員は、今回のトランプ法案だけでなく、今後の歳出法案全体を通じて赤字削減を進めるべきだと主張。ロン・ジョンソン上院議員も、十分な削減策と引き換えに法案をまとめるのは容易ではなく、独立記念日である7月4日までに合意にこぎ着けるのは難しいとの見方を示しました。
リー氏とジョンソン氏を含む少なくとも4人の上院強硬派は、債務と財政赤字の膨張に歯止めをかける条項を法案に盛り込むことを求めており、法案修正がなければ賛成しない姿勢をにじませています。
医療・エネルギーを守りたい議員たち
これに対し、農村部を地盤とする共和党議員らは、低所得者向けの公的医療保険制度メディケイドや、再生可能エネルギー関連投資への支援を守ることを優先しています。彼らは、歳出削減が行き過ぎれば、地方の病院や障害者を含む脆弱な人々にしわ寄せが出ると懸念しています。
ジェリー・モラン上院議員は記者団に対し、「障害のある人たちが不利益を被らないようにすることに強い関心がある」と述べたうえで、「同時に、病院への報酬がどう影響を受けるかという広い問題もある」と話し、医療現場の持続可能性を重視する立場を示しました。
メディケイド受給者やグリーンエネルギー投資を守りたい議員グループの規模は、赤字削減を求める強硬派と同程度とされ、共和党内の力学は拮抗しています。
ビジネス減税の恒久化と財政コスト
上院財政委員会(税制を所管)の共和党議員らは、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談し、企業向けの減税を恒久措置とする案について協議する予定と伝えられています。
減税を恒久化すれば、経済界にとっては先行きの見通しが立てやすくなる一方で、財政コストはさらに膨らむ可能性があります。アナリストらは、企業減税の恒久化が法案全体の価格札を大きく押し上げると警告しており、財政タカ派の反発が強まることも予想されます。
53対47の薄氷 数票で決まる行方
上院は現在、共和党が53議席、野党側が47議席を占めています。共和党指導部が副大統領のJD・ヴァンス氏による決定票をあてにする場合でも、離反を許されるのは3人までと計算されています。
赤字削減を求める強硬派と、メディケイドやグリーンエネルギー支援の削減に慎重な議員グループは、ともに数人規模ながら結束しており、わずかな造反でも法案が頓挫しかねない状況です。
一部の共和党議員からは、さらなる歳出削減を捻出するため、チップ(心付け)や残業代、社会保障給付を対象としたトランプ大統領の目玉的な減税提案を、今回の法案ではなく将来の立法に先送りする案も浮上しています。党内の異なる優先順位をどう折り合わせるかが、今後の妥協の焦点になりそうです。
実業家の一言が映す、アメリカ財政のジレンマ
マスク氏の投稿は感情のこもったものでしたが、その背景には、巨額の減税と歳出拡大を同時に進めることへの不安がにじんでいます。財政赤字の抑制、企業減税による成長期待、医療や社会保障の維持――どれも政治的コストが大きく、優先順位をつけるのは容易ではありません。
与党の中核支持層であるはずの経営者と、財政タカ派、農村部を代表する議員たちがそれぞれ異なる懸念を抱えるなか、最終的にどのような形で折り合いがつくのか。今回の攻防は、アメリカがこれからの数年間、どのような財政・経済運営を選び取るのかを映し出す試金石になりつつあります。
巨額の財政措置をめぐる議論は、経済指標や市場動向だけでなく、社会保障や地域経済への影響など、複数の視点から静かに見ていく必要がありそうです。
Reference(s):
Musk calls Trump's tax-cut, spending bill 'disgusting abomination'
cgtn.com







