NATO防衛費「5%目標」にスペインが異議 同盟の結束は揺らぐのか
防衛費を国内総生産(GDP)の5%まで引き上げる――米国のドナルド・トランプ大統領が求める新たなNATO目標に対し、スペインが慎重な姿勢を崩していません。従来の2%目標をめぐる議論がなお続くなかで浮上した「5%」構想は、同盟の結束と各国の国内事情がいかに絡み合うのかを映し出しています。
何が起きたのか:NATO防衛費「5%」構想とスペインの抵抗
スペインは、2024年末時点でNATO加盟国の中で最も防衛費の対GDP比が低い国でした。2014年に合意された防衛費2%目標もまだ達成できていません。
こうした中でトランプ大統領は、同盟国に対して防衛費をGDP比5%まで引き上げるよう要求し、対応が不十分とみなした加盟国には米国の安全保障上の保障を見直す可能性まで示唆しました。圧力を受けたスペイン政府は、少なくとも従来の2%目標については今年中に達成するための新たな支出計画を発表しています。
しかし、マドリードは5%という新たな基準には難色を示しています。ドイツやポーランドがすでにこの「5%目標」への支持を表明する一方で、スペインは慎重姿勢を崩さず、2025年6月24〜25日にオランダ・ハーグで開かれたNATO首脳会議を巡っては、同盟内で孤立しかねないとの見方も出ていました。
ロブレス国防相「パーセンテージではなく能力が重要」
スペインのマルガリータ・ロブレス国防相は、ブリュッセルで開かれたNATOの会合の場で、こうした批判に反論しました。
ロブレス氏は「5%を望む国は多く、それを尊重します。しかしスペインは、NATOから割り当てられた能力と目標をきちんと果たします」と述べ、「重要なのは、NATOが求める能力と目標を達成することであり、単純にパーセンテージだけを自らに課すことはできません」と強調しました。
数字ではなく「何にどう備えるのか」という能力ベースの議論を優先したい、というのがスペイン政府の公式な立場です。
国内政治がブレーキに:少数与党と左派パートナー
なぜスペインは、NATO内で最も低い防衛費水準でありながら、大幅な増額に慎重なのでしょうか。マドリードのシンクタンク「エルカノ王立研究所」の安全保障専門家フェリックス・アルテアガ氏は、その背景に「国内政治の事情」があると指摘します。
スペインのペドロ・サンチェス首相は、社会労働党(PSOE)を中心とする少数左派連立政権を率いていますが、急進左派の少数与党パートナー「スーマル」は、防衛費の増額に強く否定的です。サンチェス政権は100億ユーロ超(約120億ドル)規模とされる新たな防衛費計画を議会に正式提出しておらず、政権の存立を支える他党からの不満も高まっています。
さらに直近では、サンチェス首相の側近の一人を巡る汚職疑惑が浮上し、社会労働党内部に危機感が広がりました。もともと政治的な分断が大きいスペインでは、「ドイツのように幅広い合意をまとめること自体が難しい」と、ラス・エスペリデス大学の経済学者サンティアゴ・カルボ氏は指摘します。
財政事情と「脅威の距離感」
スペインが慎重になる理由は、政治だけではありません。カルボ氏は、スペインの公的債務残高が国内総生産の103.5%に達し、欧州連合(EU)内でも高水準であることを挙げ、「財政が非常にデリケートな状況」にあると説明します。大幅な防衛費の積み増しは、財政規律とのバランスをさらに難しくします。
アルテアガ氏は、地理的な要因も見逃せないと話します。ポーランドなどロシアに近い東欧諸国と比べると、イベリア半島に位置するスペインはロシア本土から遠く、「脅威と緊急性への感覚が薄い」。その結果として「自分たちは差し迫った脅威にさらされていない、武力紛争に巻き込まれたくないという意識が強い」といいます。
同じNATO加盟国であっても、ロシアへの地理的距離や歴史経験の違いが、防衛費増額への温度差として表面化している形です。
そもそも「5%」とは何を意味するのか
そもそも、防衛費5%という数字はどこまで具体的に詰められているのでしょうか。NATOのマーク・ルッテ氏は、2032年までに「伝統的な意味での軍事支出」をGDP比3.5%まで引き上げ、その上で残り1.5%を国境管理やサイバーセキュリティなど、より広い意味での安全保障関連支出に充てる構想に言及しています。
つまり「5%」と言っても、その内訳や定義はまだ曖昧な部分が少なくありません。アルテアガ氏は、ハーグでのNATO首脳会議では「防衛費とみなす範囲をどこまで柔軟に解釈するのか」「いつまでに目標を達成するのか」といった細部が最大の争点になると予測していました。
NATOの結束と「公平感」をどう両立させるか
スペインの慎重姿勢は、NATO内で進む「負担の公平化」をめぐる議論が、単なる数字合わせでは終わらないことを示しています。ロシアに近い東欧諸国は、現実の脅威を前にさらなる防衛力強化を求めますが、スペインのように財政制約や国内政治の制約が大きい国では、急激な増額は簡単ではありません。
一方で、トランプ大統領が示したように、「応分の負担を果たさない国は安全保障上の傘から外れるかもしれない」というメッセージは、NATOの信頼性そのものにも影響を与えかねません。どこまでを「公平」とみなすのか、そしてその基準を各国の民主政治や財政事情とどう調和させるのか――。
スペインをめぐる一連の動きは、NATOの将来像を考えるうえで、数字の大小だけでは測れない問いを投げかけています。防衛費5%というインパクトの強い数字の裏側で、同盟はどのような合意点を見いだしていくのか。2025年の議論は、その試金石となりました。
Reference(s):
cgtn.com








