イスラエル・イラン衝突で何が真実か AI時代の偽情報を追う
イスラエルとイランの間で2025年6月に起きた12日間の衝突では、SNS上で偽情報が大量に拡散しました。本記事では、ファクトチェックの取り組みが明らかにした「何が事実で何が作られた物語か」を整理し、AI時代の国際ニュースとの付き合い方を考えます。
AIと人間が協力したファクトチェック
2025年6月13日、イスラエルがイランの核施設を奇襲的に空爆したことをきっかけに、両国間で12日間にわたる衝突が続きました。この間、オンライン空間には真偽不明の情報が次々と投稿されました。
ファクトチェックに特化した取り組みであるFact Hunterは、複数の報道や検証ツールを照合しつつ、X、Bluesky、YouTube、Redditなどに投稿された1万件超のコメントを分析しました。
特徴的なのは、大規模言語モデルと呼ばれるAIと人間のアナリストを組み合わせたハイブリッド型の手法です。
- AIが膨大な投稿から話題のトピックや新たな物語の芽を抽出する
- 人間のアナリストが内容を検証し、発言の背景や感情の動きを読み解く
この組み合わせによって、実際の事実と、人々が信じて拡散している物語のズレが浮かび上がりました。
初期段階: 軍事的意図の誤解と編集された演説
衝突の初期には、軍事力や作戦の意図をめぐる誇張や曲解が目立ちました。
象徴的な例が、イスラエルのネタニヤフ首相の演説映像です。実在の演説をもとにした動画が編集され、パキスタンへの脅しとも受け取れる文言が付け加えられた形で拡散しました。
本物の映像そのものが「武器」として使われるパターンで、AI時代以前からある典型的な偽情報の手法ですが、SNSと組み合わさることで影響力は一層大きくなっています。
この段階で分析された1773件のコメントは比較的中立的で、「イランのミサイル発射が確認された」といった事実ベースの更新情報に関心が集まっていました。
エスカレーション: 両陣営が用いた誇張と捏造
衝突が長引き、被害情報が増えるにつれて、偽情報の内容もエスカレートしました。イスラエル側、イラン側それぞれの物語で、似たような操作手法が確認されています。
イスラエルの攻勢をめぐる誤情報
イスラエルによる攻撃を伝えると称して、過去の映像が「最新映像」として再利用されました。
- 以前のイスラエルとイランの衝突の映像
- ロシアとウクライナの戦闘映像
これらが、あたかも今回の攻撃の記録であるかのように投稿され、多くのユーザーが真実だと受け止めて拡散しました。DWやBBC Verifyの検証によって、こうした動画の多くが意図的な誤認を生む「ミスアトリビューション」(文脈のすり替え)であることが確認されています。
イランの報復をめぐるAI生成コンテンツ
イラン側の報復をめぐっても、古い映像の使い回しとAI生成コンテンツが入り混じりました。
典型的なケースの一つが、2018年に起きたアメリカ軍戦闘機の墜落映像です。この動画が「イランが撃墜したイスラエルのF35」として再投稿されました。
Fact Hunterは逆画像検索や報道アーカイブの照合、当時の空域閉鎖情報の確認などを行い、この動画が全く別の出来事を流用したものであると判断しています。
さらに、イランの攻撃能力を強調しようとする投稿の中には、AIで生成されたとみられるコンテンツもありました。
- テルアビブへの攻撃を映したとされる、実際には存在しない架空の動画
- イランがイスラエル機を撃墜したと主張する、加工された写真
どちらも、現地で起きた事実としては確認されていませんが、視覚的なインパクトの強さから多くのユーザーに共有されました。
感情と物語が事実を上書きするプロセス
Fact Hunterの分析によると、時間の経過とともに、SNS上の議論は「事実の共有」から「感情のぶつかり合い」へと重心を移していきました。
そこには、いくつか共通するパターンがあります。
- ショッキングな映像や写真ほど短時間で拡散する
- 自分の側を有利に見せる物語が支持されやすい
- 相手の側の残虐性や無能さを強調する投稿が注目を集める
AIによる動画編集や画像生成ツールは、この傾向を強めます。誰でも短時間で「それらしく見える」証拠を作れるようになったことで、感情を刺激する物語が、事実関係の確認より先に広がってしまうのです。
私たちができる5つのチェックポイント
こうした偽情報の洪水の中で、一般のニュース読者は何ができるのでしょうか。今回の事例から導ける、基本的なチェックポイントをまとめます。
- 動画や写真の日付を確認する。数年前の出来事ではないかを常に疑う。
- 同じ映像が他の場面で使われていないか、逆画像検索などで調べてみる。
- 1つのSNS投稿だけで判断せず、複数の報道機関や公式発表を突き合わせる。
- あまりに劇的で感情をかき立てる映像は、すぐにシェアせず一呼吸おく。
- ファクトチェックを専門とする取り組みの検証結果にも目を通す。
戦争や安全保障をめぐるニュースは、人々の不安や怒りを強く揺さぶります。その分だけ、偽情報が入り込む余地も大きくなります。受け手一人ひとりの慎重さが、誤った物語の拡散を抑える力になります。
イスラエル・イラン衝突が示したAI時代の課題
2025年6月のイスラエルとイランの12日間の衝突は、軍事面だけでなく、情報空間における新しい戦いの姿を映し出しました。
AIと人間の協働によるファクトチェックは、偽情報を見抜く上で重要な手段となりつつありますが、同時に、AIが偽情報の生成と拡散にも使われているというジレンマも浮かび上がっています。
私たち一人ひとりが、情報の受け手であると同時に発信者でもあるという自覚を持ち、「少しでも違和感を覚えたら立ち止まる」習慣を身につけること。それが、AI時代の国際ニュースに向き合ううえで、事実を守るための第一歩になりそうです。
Reference(s):
Fact Hunter: What's real in Israel-Iran conflict? What's manufactured?
cgtn.com








