トランプ氏と『60ミニッツ』訴訟でパラマウントが和解 メディアと政治の新たな駆け引き
米CBSの親会社パラマウントが、報道番組『60ミニッツ』のインタビューをめぐりドナルド・トランプ米大統領から提訴されていた訴訟で和解しました。メディア企業が相次いでトランプ氏との争いを裁判外で終結させる流れが続いており、米国の報道と政治の関係に新たな緊張が生まれています。
1600万ドル支払い、謝罪文はなし
パラマウントは、トランプ氏側との和解条件として1600万ドル(約数十億円規模)を支払うことで合意したと発表しました。資金はトランプ氏の将来の大統領図書館向けに拠出され、トランプ氏個人には直接・間接に支払われないとしています。
会社の声明によると、和解には謝罪や遺憾の表明は含まれていません。また同社は、今後『60ミニッツ』が米大統領候補者をインタビューした場合、放送後にインタビューの全文書き起こしを公開することにも同意しました。ただし、法的な理由や安全保障上の懸念がある箇所は黒塗りにできるとしています。
訴訟の発端:ハリス氏インタビューの編集めぐり対立
トランプ氏は10月、当時副大統領で大統領候補だったカマラ・ハリス氏への『60ミニッツ』インタビューをめぐりCBSを提訴しました。訴状によれば、イスラエルとハマスの戦闘をめぐる同じ質問に対し、ハリス氏が異なる答えをしているように見える2種類のバージョンが放送され、有権者の印象を操作して民主党に有利になるよう「天秤を傾けた」と主張しています。
トランプ氏は当初、100億ドルの損害賠償を求めていましたが、2月に訴状を修正し、請求額を200億ドルへと倍増させました。CBS側はこれに対し、一貫して「完全に根拠のない訴えだ」と反論し、訴訟の棄却を裁判所に求めていました。
訴訟は4月に調停手続きに入り、その過程で今回の和解がまとまった形です。ホワイトハウスはコメントを控えており、トランプ氏の代理人弁護士ともすぐには連絡が取れていないとされています。
テキサス州の消費者保護法を使った「新しい攻め方」
この訴訟でトランプ氏側が拠り所としたのが、テキサス州の「不当商行為・消費者保護法」です。これは、虚偽や誤解を招く表示など、不公正な商行為を禁止する州法で、本来は商品やサービスをめぐる消費者トラブルで使われることが多い法律です。
トランプ氏は、編集されたインタビューが視聴者に対する「誤解を招く行為」にあたると主張し、報道内容そのものをこの州法の枠組みで争おうとしました。メディア擁護団体は、こうした使い方が広がれば、名誉毀損とは別のルートから報道機関を訴えることが常態化しかねないと懸念しています。
米国では、公的な立場にある人物が名誉毀損を主張する場合、メディア側が発言が虚偽であると「知っていた」か、少なくとも「知るべきだった」という高いハードルを超えなければ責任を問えません。消費者保護法を使った訴訟は、このハードルを迂回する新たな戦術として注目されています。
合併を控えるパラマウントの思惑
今回の和解は、パラマウントがスカイダンス・メディアと84億ドル規模の合併を進めている最中に成立しました。合併には米連邦通信委員会(FCC)の承認が必要であり、経営陣としては大型訴訟による不確実性を早期に取り除きたいという思惑もあるとみられます。
トランプ氏は選挙運動の場などで、当選した場合にはCBSの放送免許を取り消す可能性に言及するなど、メディアに対して強い圧力をかけてきました。これまでも自らに批判的な報道をしばしば「フェイクニュース」と呼び、対立構図を鮮明にしてきた経緯があります。
ABCニュースとメタも和解 相次ぐ「図書館寄付」
パラマウントとの和解は、トランプ氏と大手メディア・テック企業との一連の法廷争いの最新事例です。これに先立ち、ディズニー傘下のABCニュースはトランプ氏からの名誉毀損訴訟について和解に応じ、1500万ドルをトランプ氏の大統領図書館に寄付しました。
ABCニュースはあわせて、キャスターのジョージ・ステファノプロス氏がトランプ氏について「レイプで責任を問われた」と不正確な表現をしたことをめぐり、公に謝罪しています。
さらに、フェイスブックとインスタグラムを運営するメタ(旧フェイスブック)も、トランプ氏のアカウント停止をめぐる訴訟で和解しました。メタは1月29日、約2500万ドルを支払うことで合意したと明らかにしています。訴訟は、2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件後に行われたアカウント停止措置をめぐるものでした。
世論調査を巡る訴えも継続
トランプ氏はメディアへの法的な挑戦を今後も続ける姿勢を示しています。12月17日には、アイオワ州の有力紙デモイン・レジスターと同紙の元世論調査担当者を相手取り新たな訴訟を起こしました。
対象となったのは11月2日に公表された世論調査で、同紙はハリス氏がアイオワ州でトランプ氏を3ポイントリードしていると報じました。訴状は具体的な損害賠償額は示していませんが、同紙に対し、世論調査に関連した「継続的な欺瞞的・誤解を招く行為」をやめるよう命じる裁判所命令を求めています。
デモイン・レジスター側は報道の正確性を強調し、訴えには根拠がないとの立場です。トランプ氏はその後6月30日に連邦裁判所での訴えを取り下げ、アイオワ州の州裁判所に改めて提訴しています。
問われるのは「編集」の線引きと有権者の知る権利
今回の一連の和解は、トランプ氏がメディアと対立しながらも、多額の資金を大統領図書館という形で引き出している構図を示しています。一方で、報道機関側にとっては長期化する訴訟リスクや規制当局との関係を考慮し、全面的な法廷闘争ではなく和解を選ぶ動機も見えてきます。
焦点の一つは、ニュース番組がインタビューをどこまで編集できるのか、その線引きです。誤解を招く編集と、限られた放送時間の中で要点を伝えるための編集との違いはどこにあるのか──今回の事案は、その曖昧な境界を突いたものとも言えます。
他方で、『60ミニッツ』が今後、大統領候補インタビューの全文書き起こしを公開するという合意は、報道の透明性を高める動きと受け止めることもできます。テレビでの編集版と、テキストでの完全版の両方を有権者が比較できれば、視聴者側も自ら判断する材料を得やすくなるからです。
政治家によるメディアへの圧力と、メディアの編集権、そして市民の知る権利。その三つのバランスをどう取るのかは、米国だけでなく日本を含む多くの国・地域で共有される課題です。今回のパラマウント和解は、そのバランスの揺れを映し出す一つのケースとして、今後も注目を集めそうです。
Reference(s):
Paramount settles lawsuit with Trump over '60 Minutes' interview
cgtn.com








