イスラエルがガザ南部から部分撤退案 停戦交渉は前進か行き詰まりか
イスラエルがガザ南部からの部分撤退を含む新たな提案を仲介役のカタールに示しました。停戦と人質解放をめぐる間接交渉が続くなかでの重要な一歩とされますが、両者の根本的な目標の違いは依然として大きいと指摘されています。
2023年10月のハマス主導の攻撃を受けて始まった戦闘から2年以上が経つ2025年12月現在も、イスラエルとハマスの間で恒久的な停戦の見通しは立っていません。本記事では、日本語で国際ニュースを追う読者向けに、最新のガザ停戦交渉のポイントを整理します。
イスラエルが示した新たな部分撤退案
イスラエル国営放送カンによると、イスラエルはカタールの仲介で行われているハマスとの間接交渉の場で、新たな地図を提示しました。場所はカタールの首都ドーハで、提案の核心はガザ南部からの部分撤退です。
焦点となっているのは、ラファとガザ南部最大の都市ハンユニスの間に位置するモラグ回廊と呼ばれる地域です。イスラエル軍はこの一帯を制圧し、要塞化された軍事ゾーンとして利用してきました。
モラグ回廊は2024年4月に設けられた複数の安全地帯の一つで、建物やインフラを破壊してガザ地区を分断する形で形成されたとされています。イスラエル側はこれまで、この回廊からは撤退しないと繰り返してきましたが、今回はその一部からの撤退に応じる案を提示したとされます。
イスラエル側の当局者は、この新提案が交渉における大きな前進だと強調しています。ただし、どの範囲をどのタイミングで撤退するのかなど、具体的なスケジュールは明らかになっていません。
ホワイトハウスでの会談と米国の関与
交渉の背景には、米国の強い関与もあります。トランプ米大統領は、現地時間の水曜日に「ガザをめぐる合意に非常に近づいている」と発言しました。一方で、まだ確実な状況ではないとも述べ、楽観一色ではない姿勢もにじませました。
トランプ大統領は前日の火曜日、ホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相と会談しました。ネタニヤフ首相によれば、会談の中心議題は停戦と人質解放に関する可能な合意でしたが、会談後に具体的な突破口は発表されませんでした。
米国が支持する停戦案とイスラエルの軍事的な要求、そしてハマス側の条件をどうすり合わせるかが、今後も大きな焦点になります。
ハマスの人質解放表明とパレスチナ側の温度差
パレスチナ側では、武装組織ハマスが水曜日の夜に声明を発表し、進行中の和平交渉の一環として人質10人の解放に応じると表明しました。停戦と人質解放を組み合わせた案に、一定の柔軟性を示した形です。
しかし、パレスチナ・イスラム聖戦(イスラミック・ジハード)のモハメド・アルヒンディ副事務局長は、同日カタールの衛星局アルアラビーテレビのインタビューで、現状について「実質的な突破口はない」と述べました。
アルヒンディ氏によると、交渉が行き詰まっている主な争点は次の通りです。
- イスラエル軍の撤退範囲と時期
- ガザ地区への人道支援物資の搬入量やルート
- 停戦後の統治体制や安全保障に関する保証
ハマスが人質解放に応じる姿勢を見せる一方で、パレスチナ側内部でも、停戦案に対する評価や優先事項には温度差があることがうかがえます。
60日間停戦案と人質問題の行方
ドーハには日曜日から、イスラエル側とパレスチナ側の代表団が滞在し、米国が後押しする60日間の停戦案について間接協議を続けています。この案には、一定期間の停戦と引き換えに人質を解放する仕組みが組み込まれています。
具体的には、60日間の停戦とともに、生存が確認されている人質10人の解放と、死亡したとみられる人質の遺体の引き渡しが含まれるとされています。イスラエルは、ガザ地区には約50人の人質が依然として拘束されており、そのうち生存が確認されているのは約20人だと見積もっています。
この数字からは、今回協議されている案が実現しても、すべての人質が解放されるわけではないことが読み取れます。イスラエルにとっては人質全員の救出、ハマス側にとっては段階的な解放を通じた交渉カードの維持という、双方の思惑が交錯している状況です。
積み重なる犠牲 数字が示す戦争の重さ
今回の停戦交渉の背景には、膨大な人命の犠牲があります。イスラエル側によれば、戦闘の発端となった2023年10月7日のハマス主導の攻撃で、約1200人が死亡し、約250人が人質として拘束されました。
一方、ガザ地区当局によると、戦争開始以降に少なくとも5万7680人が死亡したとされています。これらの数字は、交渉の場でやり取りされる地図や文書の背後に、多くの人々の生活と命がかかっていることを物語っています。
専門家が指摘する「根本的な行き違い」
こうした最新の動きについて、中国・寧夏大学中国アラブ研究院の牛新春(ニウ・シンチュン)教授は、中国メディアのインタビューで、停戦交渉が行き詰まりやすい構造的な理由を指摘しています。
牛教授によれば、イスラエルがガザで攻勢を続けるなかで、本格的な停戦交渉は今回で3回目の大きな山場を迎えていますが、これまでの2回はいずれも短期間の停戦にとどまりました。その背景には、双方の目標が根本的に食い違っているという問題があります。
牛教授は、ハマスの基本的な要求は「組織として生き残ること」であり、そのためにはイスラエルによる軍事作戦の完全な停止と恒久的停戦が必要になると分析します。一方でイスラエルには、
- 拘束されているすべての人質の救出
- ハマスの完全な排除
という二つの大きな目標があります。ハマスの生存とイスラエルによるハマスの完全排除は、論理的に両立しにくい目標です。そのため、どちらかが核心的な要求を緩めない限り、恒久的な停戦合意は極めて難しいというのが牛教授の見立てです。
私たちが注目すべき3つのポイント
今回のイスラエルによる部分撤退案は、交渉が前進しているサインとも、軍事作戦を維持しながらの限定的な譲歩とも受け取ることができます。長期停戦につながるかどうかを見極めるうえで、日本からニュースを追う私たちが注目したいポイントは次の3つです。
- モラグ回廊からの実際の撤退がどの範囲で、どのタイミングで行われるか
- 人質10人の解放をきっかけに、その後の追加解放につながる道筋が見えるか
- 人道支援の拡大や停戦後のガザ統治について、どの程度具体的な合意が示されるか
ガザ情勢をめぐる報道は、軍事行動や政治交渉のニュースが中心になりがちです。しかし、その背後には日々変化する現地の暮らしと、多くの市民の不安があります。国際ニュースを日本語で追う私たちにとっても、この停戦交渉がどのような価値観や安全保障の発想に基づいて進められているのかを意識的に見ていくことが求められているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








