米国、入植者による米国籍パレスチナ人殺害でイスラエルに徹底捜査要求
アメリカ政府が、ヨルダン川西岸でイスラエル人入植者に殴打され死亡した米国籍パレスチナ人男性の事件について、イスラエル当局に徹底した捜査を求めています。
この国際ニュースは、米国とイスラエルの関係だけでなく、長年緊張が続くヨルダン川西岸情勢や国際法の議論とも深く関わる問題です。本稿では、事件の概要と背景、今後の焦点を整理します。
この記事のポイント
- ヨルダン川西岸で20歳のパレスチナ系米国人サイフ・ムサレットさんがイスラエル人入植者に殴打され死亡
- 米国大使マイク・ハカビー氏が事件を「犯罪かつテロ行為」と非難し、イスラエルに「積極的な捜査」を要請
- ガザでの戦闘開始以降、西岸で入植者とパレスチナ人の暴力が増加し、国連機関は占領と入植を違法と判断
事件の概要:ヨルダン川西岸で何が起きたのか
イスラエルが占領するヨルダン川西岸の町シンジル(ラマラ北方)で金曜日の夜、米国籍のパレスチナ人サイフ・ムサレットさん(フルネームはサヤフォラ・ムサレット、20歳)がイスラエル人入植者らに激しく殴打され、死亡しました。
家族は、フロリダ州在住のムサレットさんが親族を訪ねてシンジルを訪問中に襲撃され、救急隊が数時間現場に到達できず、その間に死亡したと訴えています。病院に搬送される前に命を落としたとされています。
イスラエル軍は事件を捜査中だとしつつ、パレスチナ人側がイスラエル人に向けて投石し、イスラエル人が軽傷を負ったため、パレスチナ人と入植者の間で衝突が起きたと説明しています。軍は「非致死性」の兵器を用いて双方を解散させたとしています。
米国大使ハカビー氏の「異例」な強い発言
こうした中、イスラエル駐在のマイク・ハカビー米国大使は火曜日、X(旧ツイッター)に投稿し、イスラエル側に「積極的に」事件を捜査するよう求めたことを明らかにしました。
ハカビー氏は投稿で「家族を訪ねてシンジルを訪れていた米国市民サイフ・ムサレットさんの殺害について、イスラエルに積極的な捜査を求めた」と述べ、今回の行為を「犯罪でありテロ行為だ」と強く非難しました。
イスラエルの入植地建設を強く支持してきたことで知られるハカビー氏が、入植者による暴力をここまで明確に批判し、米国として調査を公に求めるのは「まれで踏み込んだ対応」だと受け止められています。
高まるヨルダン川西岸の緊張と国際法の視点
イスラエル人入植者によるパレスチナ人への攻撃と、パレスチナ人によるイスラエル人への攻撃は、2023年10月に始まったイスラエルのガザでの戦闘以降、ヨルダン川西岸で増加しているとされています。もともと同地域では長年にわたり低いレベルの暴力が続いてきましたが、その頻度と激しさが増した形です。
ヨルダン川西岸は、将来の独立国家を目指すパレスチナ側が領土として求めている地域の一つです。一方、イスラエルは1967年の中東戦争で同地域を占領して以降、入植地を拡大してきました。
国連の最高司法機関は2024年、ヨルダン川西岸などパレスチナの占領地に対するイスラエルの占領と入植活動は違法であり、可能な限り速やかに撤退すべきだと判断しています。これに対しイスラエル側は、安全保障上の必要性や、同地に対する歴史的・宗教的なつながりを理由に、この見解に異議を唱えています。
米国籍市民の犠牲が続くヨルダン川西岸
ヨルダン川西岸では近年、米国籍を持つパレスチナ人やイスラエル人が相次いで犠牲になっています。
- パレスチナ系米国人ジャーナリストのシリーン・アブ・アクレ氏
- パレスチナ系米国人の少年、オマル・モハンマド・ラベアさん
- トルコ系米国人の活動家、アイシュヌル・エズギ・エイギさん
といった人物が、過去数年のうちにイスラエル軍や入植者などによって殺害されたと報じられてきました。
一方で、パレスチナ側の攻撃により、イスラエルと米国の二重国籍を持つ人々が殺害または負傷する事例も起きています。2023年3月には、イスラエルと米国の国籍を持つエラン・ガネレスさん(当時27歳)が、ヨルダン川西岸ヨルダン渓谷の高速道路を車で走行中に銃撃を受け、死亡しました。
今回のムサレットさんの死は、ヨルダン川西岸における暴力の連鎖が米国社会とも無縁ではないことを改めて浮き彫りにしています。
トランプ政権の制裁解除と米国のスタンス
2025年1月には、ドナルド・トランプ米大統領が、旧バイデン政権によって科されていたイスラエル人入植者団体や、パレスチナ人に対する暴力への関与が疑われる個人への制裁を解除しました。
こうした制裁は、本来であれば暴力行為への抑止や、イスラエル政府に対する圧力の手段として機能しうるものでした。その一方で、制裁解除によって入植者に対する米国の姿勢がどのように受け止められるのか、今回の事件をきっかけに国内外で議論が高まる可能性があります。
ムサレットさんの事件に対し、米国が今後どこまで踏み込んだ対応をとるのか──たとえば、捜査の透明性や責任追及をどのように求めるのかは、米イスラエル関係や、ヨルダン川西岸での暴力抑制に影響する重要な要素になりそうです。
私たちに突きつけられる問い
今回の事件は、一人の若い米国籍パレスチナ人の悲劇であると同時に、占領地で続く構造的な暴力と、国際社会の関与のあり方を問いかける出来事でもあります。
- 外国で自国民が殺害されたとき、政府はどこまで責任追及を求めるべきか
- 治安と人権、そして国際法をどのようにバランスさせるべきか
- ガザでの戦闘が続く中、ヨルダン川西岸の緊張をどう和らげていくのか
答えは簡単ではありませんが、一つ一つの事件の背景を丁寧にたどることが、中東情勢をめぐる自分なりの視点を持つ第一歩になります。
Reference(s):
U.S. demands probe into killing of American by Israeli settlers
cgtn.com








