トランプ米大統領、関税裁判で敗訴ならEU・日本との貿易合意「巻き戻し」示唆
米国の関税政策をめぐる裁判が、日米欧の貿易ルールそのものを揺さぶりつつあります。トランプ米大統領は、関税をめぐる最高裁の裁判で敗訴した場合、EU(欧州連合)や日本、韓国などとの貿易合意を「巻き戻さざるを得ない」可能性に言及し、米国が「非常に大きな苦しみを味わうことになる」と強い危機感を示しました。
関税の違法性をめぐる裁判、最高裁へ
2025年8月30日、米連邦控訴裁判所は、トランプ政権が導入した多くの関税について違法だと判断しました。この判決を受けて、政権は連邦最高裁に判断を仰ぎ、判決の覆転を求める方針です。
トランプ大統領は、判決が出た直後の水曜日、ホワイトハウスで記者団に対し、最高裁で敗訴した場合には、EUや日本、韓国などと結んだ貿易合意を「巻き戻す」必要が出てくるかもしれないと語りました。関税が認められないなら、その前提で組み立てた合意の見直しを迫られるという論理です。
大統領は、関税を撤回することは米国にとって大きな負担になると強調しましたが、通商専門家は、関税は相手国企業ではなく、米国内の輸入業者が支払っていると指摘します。
争点となっている「相互主義」関税とは
今回の控訴裁判所の判決が対象としたのは、トランプ大統領が「相互主義」と呼ぶ関税です。これは、貿易相手が米国に課している関税に合わせて、米国も同程度の関税をかけるという発想に基づき、貿易摩擦の一環として4月に導入されたものです。
判決はさらに、2月に導入された、中国本土、カナダ、メキシコからの一部輸入品に対する別の追加関税の合法性も判断の対象としました。一方で、別の法的根拠にもとづいて課されている鉄鋼やアルミニウムへの関税は、今回の判決の影響を受けないとされています。
つまり、トランプ政権の関税政策のうち、どこまでが大統領権限の範囲内だったのかが、司法の場で細かく線引きされつつある状況です。
貿易合意「巻き戻し」の意味
トランプ大統領が口にした「貿易合意を巻き戻す」とは、具体的には何を意味するのでしょうか。
- 関税を前提に合意した条件の再交渉
- 一部の合意条項の修正や凍結
- 場合によっては合意全体の撤回
元米通商当局者のライアン・マジェラス氏は、EUなどとの合意は当初から「枠組み合意」であり、状況に応じて変更されうる性格のものだったと指摘します。完全な自由貿易協定というより、今後の交渉に向けた土台となる取り決めだという見方です。
そのため、裁判の結果を受けて内容が見直されることになっても、法的な位置づけからすれば「想定外」とまでは言えない側面もあります。ただ、日本や欧州、韓国の企業にとっては、先行きの条件が読みづらくなっているのも事実です。
関税は誰が払うのか――物価への影響
トランプ大統領は、関税を撤回することが米国にとって「コストが高い」と主張しています。一方で通商専門家は、関税を実際に納めているのは米国内の輸入業者であり、そのコストの一部は最終的に企業や消費者に転嫁されると説明します。
エコノミストたちも、関税は米国内のインフレ(物価上昇)圧力を高めるおそれがあると警告しています。そのメカニズムは次のようなものです。
- 輸入品に関税がかかる → 企業の仕入れコストが上昇
- 企業はコスト増を販売価格に上乗せしやすくなる
- 結果として、消費者が支払う価格がじわじわ上がる
一方で、関税によって国内産業が守られ、生産や雇用が増える可能性があるという見方もあります。ただし、裁判所が判断しているのは、関税の経済効果ではなく「法律に基づき適切な手続きで導入されたかどうか」という法的な観点です。
政治の反応と、広がる不透明感
米上院財政委員会で野党側のトップを務めるロン・ワイデン上院議員(民主党)は、トランプ大統領の発言がさらなる混乱を生んでいると批判しました。関税政策、貿易交渉、そして裁判の行方が複雑に絡み合うなかで、企業や市場にとって先の見通しが立ちにくくなっていることへの懸念がにじみます。
今回の動きは、日本や欧州、韓国など米国と貿易関係を持つ国々にとっても他人事ではありません。関税の行方次第で、輸出条件やサプライチェーン(供給網)の設計、投資判断にまで影響が及びうるからです。
これから何を注視すべきか
今後、国際ニュースとして注目したいポイントを整理すると、次のようになります。
- 連邦最高裁が控訴裁判所の判断を支持するのか、それとも覆すのか
- 判決内容に応じて、EU、日本、韓国などとの貿易合意がどの程度見直されるのか
- 関税政策が米国のインフレや世界経済、サプライチェーンに与える影響
米国の通商政策をめぐる今回の裁判は、一国の関税の問題にとどまらず、法の支配と経済政策のバランス、そして国際貿易のルールづくりをどう考えるかという、より大きな問いを投げかけています。
日本語で国際ニュースを追う私たちにとっても、最高裁の判断とその後の各国の動きを丁寧に追いながら、自分なりの視点を更新していくことが求められていると言えそうです。
Reference(s):
Trump: U.S. may have to unwind trade deals if it loses tariff case
cgtn.com








