国連調査委がイスラエルのガザ作戦を「ジェノサイド」と認定 指導部の責任を指摘
国連の独立調査委員会が今週公表した最新報告書で、イスラエルによるガザでの軍事作戦について「ジェノサイド(集団殺害)が進行している」と厳しく非難し、イスラエル指導部に重大な責任があると結論づけました。およそ2年前に始まったガザ戦争をめぐり、国際社会にどこまで行動を求めるのかが、あらためて問われています。
国連独立調査委「ガザでジェノサイドが進行」
指摘を行ったのは、国連の「占領パレスチナ地域に関する独立調査委員会(COI)」です。委員長を務めるナビ・ピレイ氏(元国際刑事裁判所判事)は記者会見で、「ガザではジェノサイドが進行している」と述べ、次のように非難しました。
「これらの残虐行為に対する責任は、パレスチナ人グループを破壊することを明確な目的として、ほぼ2年にわたりジェノサイド的な作戦を指揮してきたイスラエル当局の最高レベルにある」
調査委は72ページにわたる報告書をまとめ、2023年10月7日のハマスによるイスラエル国内攻撃をきっかけに始まったガザでの戦争から、現在に至るまでの状況を分析しました。
死者約6万5千人、多数の住民が避難 「5つのうち4つの行為」
報告書は、ハマスが実効支配するガザの保健当局のデータを引用し、戦闘開始以降の死者が約6万5千人に達しているとしています。この数字は国連も信頼できるものとみなしていると記されています。
ガザ住民の大多数は少なくとも一度は避難を強いられ、イスラエル軍がガザ市の掌握を強めるなかで、新たな大規模避難が続いているといいます。国連はガザ市で「全面的な飢饉」が発生していると宣言しており、人道状況の悪化が深刻さを増しています。
調査委は、1948年に採択されたジェノサイド条約が定める「5つの行為」のうち、イスラエル当局と軍が2023年10月以降に「4つ」を行っていると認定しました。その4つとは次の行為です。
- グループの構成員を殺害すること
- グループの構成員に重大な身体的・精神的危害を加えること
- グループを全体として、または一部として物理的に破壊することを意図した生活条件を故意に課すこと
- グループ内での出生を妨げる措置を課すこと
調査委は、こうした行為がガザのパレスチナ人をグループとして破壊する意図をもって行われたと結論づけ、ジェノサイド条約上の犯罪に該当すると主張しています。
イスラエル指導部を名指し 「ジェノサイドの扇動」
報告書はさらに、イスラエルの市民および軍当局者の発言や軍事行動のパターンを分析し、「ガザ地区のパレスチナ人をグループとして破壊する意図を伴ったジェノサイド行為が行われていることが示されている」と指摘しました。
そのうえで、イスラエルのアイザック・ヘルツォグ大統領、ベンヤミン・ネタニヤフ首相、前国防相ヨアブ・ギャラント氏について、「ジェノサイドの実行を扇動した」と結論づけています。また、こうした扇動を処罰するための措置をイスラエル当局が講じていないと批判しました。
報告書は、ネタニヤフ首相が2023年11月に兵士あてに出した書簡を引用しています。その中で同首相は、ガザでの軍事行動をヘブライ語の聖典に記された「全的殲滅の聖戦」と比較したとされ、調査委はこれをジェノサイド的な文脈に位置づけています。
「沈黙は共犯」 国際社会に行動を要求
ピレイ委員長は最終報告の公表にあたり、「国際社会は、イスラエルがガザのパレスチナ人に対して開始したジェノサイド的作戦に沈黙してはならない」と強調しました。
さらに、「これを止めるための行動の欠如は、共犯に等しい」と警告し、各国に対しより踏み込んだ対応を求めました。イスラエルのガザでの軍事行動をめぐっては、これまでも多くの非政府組織(NGO)や独立した国連専門家、国際裁判所などからジェノサイドの疑いが指摘されてきました。
イスラエルは「歪曲された虚偽報告」と全面否定
こうした国連調査委の結論に対し、イスラエルは強く反発しています。イスラエル外務省は声明で、「イスラエルはこの歪曲された虚偽の報告を全面的に拒否し、この調査委員会の即時解体を求める」と述べました。
今回の調査委は国連の独立機関であり、法的拘束力を持つ裁判機関ではありません。ただし、その報告書は外交的な圧力となりうるだけでなく、将来の訴追に向けて証拠を蓄積する役割を果たす可能性があります。
一方で、国連全体としては、ガザの状況を公式に「ジェノサイド」と認定してはいません。とはいえ、国連の人道支援責任者は今年5月、各国指導者に対し「ジェノサイドを防ぐために断固とした行動をとるべきだ」と呼びかけました。また、国連人権高等弁務官は最近、イスラエル側の「ジェノサイド的なレトリック(言説)」を非難しています。
ICJとICC:法廷で進むガザをめぐる攻防
ガザをめぐる法的争いは、すでに国際司法の場でも進んでいます。昨年1月、国際司法裁判所(ICJ)は、イスラエルに対しガザでの「ジェノサイド行為」を防止するよう命じました。この決定は暫定措置とはいえ、ジェノサイド条約に基づいて締約国の行動を制約しうる重い判断です。
その4か月後の5月には、国際刑事裁判所(ICC)がネタニヤフ首相とギャラント前国防相に対し、戦争犯罪および人道に対する罪の疑いで逮捕状を発付しました。現職の首相がICCの逮捕状の対象となるのは極めて異例であり、国際政治に大きな波紋を広げました。
このICCの動きに反発したアメリカでは、ドナルド・トランプ大統領率いる政権が先月、ICCの判事2人と検察官2人に制裁を科しました。対象となった関係者は米国への入国を禁じられ、米国内資産も凍結されるとされています。
イスラエルをめぐるガザ戦争は、国連機関、ICJ、ICC、そして各国政府という複数の舞台で同時進行的に争われており、「法」と「政治」が複雑に絡み合っていることが浮き彫りになっています。
なぜ「ジェノサイド」認定が重いのか
今回の国連調査委の報告が注目されるのは、「ジェノサイド」という国際法上もっとも重い犯罪の一つを、国連の枠組みの中で明示的に持ち出した点にあります。
ジェノサイド条約は、単に多数の人が殺害されたかどうかだけでなく、「特定の集団を破壊する意図」があったかどうかを重視します。そのため、トップレベルの指導者の発言や命令、政策の一貫性などが、意図を示す重要な証拠として扱われます。
調査委は、イスラエル側の具体的な軍事行動だけでなく、政治指導者の言葉や、出生の制限を含む政策的な側面まで含めて分析し、「意図」を伴うジェノサイドが進行していると主張しました。これに対しイスラエル側は、あくまでハマスとの戦闘であり自衛であると説明しており、両者の認識の溝はきわめて大きいと言えます。
これからの論点:日本からどう見るか
今回の報告書を受けて、今後の焦点となりうる論点を整理すると、次のようになります。
- 国連本体や各国政府が、調査委の「ジェノサイド」認定をどの程度まで受け入れるのか
- ICJやICCで進む手続きに、この報告書がどのような形で影響するのか
- 第三国としての各国が、軍事支援や経済関係、人道支援のあり方をどこまで見直すのか
- ガザの住民保護と、ハマスなど武装組織への対応をどのように両立させるのか
日本を含む各国にとっても、今回の報告は他人事ではありません。ジェノサイド条約の締約国は、ジェノサイドを防止し、処罰する義務を負うとされています。もし国連機関や国際裁判所がジェノサイドの危険性を繰り返し警告しているにもかかわらず、各国が何も行動を起こさない場合、「不作為」が問われる可能性もあります。
ガザの戦争が始まってから約2年。犠牲者の数や住民の生活環境をめぐるデータは、日々積み上がっています。今回の国連独立調査委の報告は、その記録の一部であると同時に、私たちに「何をもってジェノサイドと呼ぶのか」「国際社会はどこまで介入すべきなのか」という難しい問いを突きつけています。
ニュースを追う際には、各国政府や当事者の主張だけでなく、国連機関や国際裁判所、そして現地からの証言がそれぞれどのような立場・目的に立っているのかを意識しながら、複数の情報源を照らし合わせていくことが重要だと言えるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com








