中国主導のWTOセミナー、米国の一方的関税と世界貿易の行方
ジュネーブで開催中の世界貿易機関(WTO)パブリックフォーラム2025で、中国の大学が主導するセミナーが開かれ、米国の一方的な関税措置が多角的貿易体制と開発途上国に与える影響、そしてルールに基づく貿易システムをどう守るかが議論されました。
WTOパブリックフォーラム2025で「貿易の再調整」を議論
スイス・ジュネーブで木曜日に開かれたこのセミナーは、世界の貿易が揺れるなかでの「グローバル貿易の再調整」をテーマに、中国のShanghai University of International Business and Economicsが主催しました。WTOの旗艦アウトリーチイベントであるパブリックフォーラム2025の一セッションとして位置づけられています。
今年のパブリックフォーラムはデジタル貿易に焦点を当てており、政府、企業、学界、市民社会などから4,000人以上が参加し、約90のセッションが行われています。そのなかで今回のセミナーは、米国による一方的な関税措置と、その影響を受けるWTO加盟メンバーに光を当てました。
米国の互恵関税で世界貿易は3.4%減少か
セミナーでは、中国・清華大学のジュ・ジエンドン教授が、米国の関税政策が世界の貿易構造に与える影響について、チームによる定量分析の結果を紹介しました。
分析によると、米国が掲げる互恵関税政策が続いた場合、2025年末までに次のような変化が起きると予測されています。
- 世界全体の貿易量:3.4%減少
- 米国の輸入:19%減少
- 米国の輸出:12%減少
ジュ教授は、米国の一方的な関税が、報復措置の応酬や、他国を犠牲にして自国の利益を優先する「隣人貧困化」政策の連鎖を招きかねないと指摘しました。
報復の連鎖がもたらすリスク
一国が関税を引き上げると、相手国も対抗措置として関税を上げる──こうした応酬が続けば、企業はサプライチェーン(供給網)の再編を迫られ、投資や雇用が不安定になります。関税は一見すると自国産業の保護策に見えますが、長期的には世界全体の需要を冷やし、結果として自国経済にも跳ね返ってくる可能性があります。
貿易コスト増で打撃を受ける開発途上国
国連貿易開発の国際貿易・商品部門ディレクター、ルス・マリア・デ・ラ・モラ氏は、2016年以降、地政学的な緊張の高まりなどを背景に、世界の貿易不確実性が高まっていると指摘しました。
その結果、貿易コストが上昇し、特に開発途上国や後発開発途上国の利益が損なわれているといいます。資金や技術へのアクセスが限られる国ほど、関税の引き上げや手続きの複雑化の影響を受けやすいためです。
デ・ラ・モラ氏は、各国と関係機関に対し、次のような対応を呼びかけました。
- 国際貿易の新たなルール作りを進める
- WTOの紛争解決メカニズムを回復・強化する
- 自由貿易協定(FTA)の交渉を進展させる
- 長期的な投資への信認を高めることで、貿易のレジリエンス(回復力)を高める
こうしたメッセージには、ルールに基づく多角的な貿易体制を維持・強化しなければ、短期的な政治判断が長期的な成長の足かせになりかねないという危機感がにじみます。
デジタルツールで「売上アップ・コスト減」を
国際貿易センター(ITC)の貿易・投資戦略政策チーフ、バルバラ・ラモス氏は、企業、とりわけ中小企業が、デジタルツールを活用することの重要性を強調しました。
オンラインマーケットプレイスや電子決済、デジタルマーケティングなどのツールは、企業の販路拡大やコスト削減に直結します。一方で、これを十分に活用できるかどうかは、各国のデジタル環境に大きく左右されます。
ラモス氏は、各国が次のような分野を整備する必要があると指摘しました。
- 通信インフラなどのデジタル基盤
- デジタルスキルを持つ人材の育成
- 電子商取引やデータ流通を支えるルール・規制の枠組み
デジタル貿易がWTOパブリックフォーラム2025の全体テーマとなっていることからも分かるように、ルールベースの貿易体制の議論と、デジタル化への対応は切り離せないテーマになりつつあります。
日本やアジアにとっての意味
輸出入に依存する日本やアジアの多くの経済にとって、WTOを中心とする多角的な貿易体制は「見えないインフラ」ともいえる存在です。米国の一方的関税措置とそれに対する報復が続けば、為替や資本の動き、サプライチェーンを通じて、日本企業や働く人にも影響が及びます。
今回のセミナーから、日本の読者が押さえておきたいポイントは次の二つです。
- ルールに基づく多角的貿易体制をどう守り、機能させるかは、依然として国際経済の中心的な課題である
- 貿易摩擦が続くなかでも、企業レベルではデジタル化を通じて新しい市場を開拓し、リスクを分散する余地がある
私たちが考えてみたい問い
- 日本やアジアの国々は、WTOでどのような役割を果たすべきでしょうか。
- 保護主義的な動きが広がるなかで、開発途上国の声をどうやって国際ルールに反映させることができるでしょうか。
- 自分の働く企業や業界は、デジタルツールを活用して海外市場とのつながりを強める準備ができているでしょうか。
こうした問いを共有しながら、国際ニュースを自分ごととして捉え直すことが、変動の大きい2020年代後半を生きるための一歩になりそうです。
ルールとデジタルが支える次の貿易秩序
セミナーの参加者は、現在の世界的な貿易の混乱のなかでこそ、ルールに基づく多角的貿易体制を守り、国際貿易環境の安定性と予見可能性を高めることが不可欠だという点で一致しました。
関税の応酬や不確実性の高まりは、一国だけではなく、グローバルなサプライチェーン全体を揺さぶります。一方で、適切なルール作りと紛争解決の仕組み、そしてデジタル技術の活用を組み合わせることで、企業や労働者が受けるショックを和らげることも可能です。
ジュネーブでの議論は、日々のニュースの見出しの背後で進む次の貿易秩序づくりの一端を映し出しています。今後のWTOや各国の通商政策の動きが、2025年以降の世界経済のかたちを左右していくことになりそうです。
Reference(s):
China-led WTO seminar formulating response to unilateral tariffs
cgtn.com








