ブラジルのルラ大統領、国連で多国間主義を訴え 熱帯林基金に10億ドル拠出表明
ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領は、国連総会第80回会期の一般討論演説で、多国間主義の防衛とラテンアメリカの平和を訴えるとともに、熱帯林保全のための新たな国際基金に10億ドル(約1,500億円規模)を拠出すると表明しました。
今回のポイント:ルラ大統領が示した3つのメッセージ
今回の国連演説で、ブラジルのルラ大統領が世界に向けて発したメッセージは、大きく次の3点に整理できます。
- 国際秩序の基盤として、多国間主義(複数国が協調して決める仕組み)を守るべきだと強調
- 最近の米国による対ブラジル制裁を「正当化できない一方的措置」として強く批判
- 気候危機と森林破壊への対応として、最終的に1,250億ドル規模をめざす熱帯林基金「Tropical Forests Forever Facility(TFFF)」構想を提示
国連総会で「多国間主義」とラテンアメリカの平和を強調
ルラ大統領は、国連総会第80回会期の一般討論で演説し、「多国間主義」とラテンアメリカの平和の重要性を前面に押し出しました。多国間主義とは、特定の大国の一方的な判断ではなく、国連などを通じて多くの国がルール作りに関わる考え方です。
ルラ氏は、この多国間主義を守ることが、ラテンアメリカの平和と安定、そして世界全体の秩序維持にとって欠かせないと訴えました。個別の国の力に頼るのではなく、国際社会全体で問題に向き合う必要性を強調した形です。
米国の制裁を批判「一方的措置は正当化できない」
演説の中でルラ大統領は、最近の米国による対ブラジル制裁についても言及しました。ブラジルの制度や経済に対する一方的な制裁措置は「正当化できない」と述べ、ブラジルの司法への介入は「受け入れられない(unacceptable)」と強い語調で非難しました。
ここでルラ氏が問題視したのは、当事国との対話や国際的な合意に基づかない「一方的」な制裁です。多国間主義を掲げる姿勢と対照的に、特定の国が制裁という手段で圧力をかけることへの懸念がにじみます。
麻薬取引と治安対策:国際協力なくして解決なし
ルラ大統領は、麻薬取引との闘いについても国境を越えた課題だと指摘しました。麻薬取引は一国だけでは対処できず、情報共有や司法協力を含む国際的な枠組みが必要だと強調しました。
同時に、治安対策の名の下で過度の武力行使に走ることにも警鐘を鳴らしています。戦争状態にない場面で致死的な武力を用いることは、「超法規的処刑(extrajudicial execution)」に当たると警告し、人権を尊重したアプローチの必要性を訴えました。
ブラジル主導の「熱帯林永久基金(TFFF)」とは
気候危機に関する部分で、ルラ大統領が最も力を入れたのが「Tropical Forests Forever Facility(TFFF)」と呼ばれる新たな資金メカニズムの提案です。これは、危機にさらされている熱帯林の保全を支えるための多国間基金構想です。
ルラ氏は、ブラジルとしてこのTFFFにまず10億ドルを投資すると表明し、「ブラジルは模範を示す」と述べました。その上で、国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)までにTFFFを本格稼働させることを目標に、各国や関係者に「同じくらい意欲的な拠出」を呼びかけました。
最終目標は1,250億ドル規模の基金
政策立案者たちが描くTFFFの青写真は、最終的に1,250億ドル規模のファンドです。構想では、各国政府からの拠出と民間セクターの資金を組み合わせ、長期的に運用される基金(エンダウメント)のような形態をとります。
この基金は、運用益などを原資として、参加国へ毎年「給付金」を支払う仕組みが想定されています。支給額は、その国にどれだけ熱帯林が残され、保全されているかに応じて決まるとされており、「森林を残すことに対するインセンティブ(動機付け)」を与える設計です。
呼び水となる250億ドルでさらに1000億ドルを呼び込む狙い
この壮大な目標を実現するため、当面は政府と大口のフィランソロピー(慈善家・財団)から合わせて250億ドルを先に集める必要があるとされています。これは、暫定的な試算に基づく数字です。
そのうえで、この「最初の250億ドル」を呼び水として、民間投資家からさらに1,000億ドル規模の資金を呼び込む構図が描かれています。公的資金と慈善資金がリスクを先にとることで、民間資金が参加しやすくなる仕組みをめざしていると言えます。
なぜ日本の読者にとっても重要なのか
一見すると、ブラジルとラテンアメリカの話に見える今回の演説ですが、日本を含む国際社会にとっても無関係ではありません。
- 気候危機と森林保全:熱帯林は、地球規模で温室効果ガスを吸収する「巨大な炭素の貯蔵庫」です。その保全や劣化は、世界各地の気候や災害リスクにも影響します。
- 国際秩序と制裁:一国による一方的制裁か、多国間の合意に基づく対応かという論点は、今後さまざまな国際問題で問われるテーマです。
- 国際協力のあり方:麻薬取引や環境問題のような「国境を越える課題」にどう向き合うかは、日本の外交・安全保障・経済政策にもつながる論点です。
ルラ大統領の演説は、気候危機対策の新たな資金の形と、多国間主義をめぐる議論の両方を考える素材を提供していると言えるでしょう。今後、COP30に向けてTFFF構想にどのような国や民間資金が集まり、実際に熱帯林保全にどこまでインパクトを与えられるのかが注目されます。
Reference(s):
Brazil's Lula urges multilateralism, launches $1b forest fund
cgtn.com







