高齢化と年金:世界は「リタイアメント危機」を回避できるか video poster
世界各地で高齢化が進み、出生率が低下するなか、年金や働き方、「老後」のかたちが見直されています。こうした変化を背景に、国際ニュース番組「On The Agenda」では、長寿社会が世界経済を揺さぶる「リタイアメント危機」になるのか、それとも新たな成長の源泉となるのかが取り上げられました。
シルバーエコノミーが未来を左右する
番組の出発点になったのは、いわゆる「シルバーエコノミー」が、これからの世界を動かす最大級の要因になりつつあるという認識です。高齢者向けの医療、介護、金融サービス、住まい、教育や娯楽まで、高齢化は経済全体の構造を静かに変えています。
長く生きる人が増えることは本来、歓迎すべき変化です。一方で、現役世代の人数が相対的に減っていけば、「誰が年金や医療費を支えるのか」という問いが避けられません。このジレンマこそが、「リタイアメント危機」と呼ばれる不安の背景にあります。
長寿は負担か、それとも成長エンジンか
司会のジュリエット・マン氏は、寿命が延びることが「世界経済を破綻させてしまうのか、それとも新しい成長の時代を切り開くのか」という問いを投げかけました。議論には、中国人民大学人口与健康研究院の杜鵬(Du Peng)氏、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの公共経済学者ニコラス・バー(Nicholas Barr)氏、世界経済フォーラムで「長寿経済」を担当するハレ・ナゼリ(Haleh Nazeri)氏が参加しました。
人口学、公共経済学、国際機関のそれぞれの視点から、長寿化にはリスクとチャンスの両面があり、制度や市場の設計次第で結果は大きく変わるという点が共有されました。
ヨーロッパの年金抗議が映す不安
番組では、ヨーロッパ各地で続いてきた年金制度改革への抗議にも触れました。退職年齢の引き上げや給付水準の見直しをめぐり、街頭デモが起きてきたのは、「老後の安心」が人びとにとってどれほど切実なテーマかを物語っています。
- これまで約束されてきた年金が、本当に支払われ続けるのか
- 現役世代と高齢世代の負担は公平と言えるのか
- 長く働くことは、健康や生活の質と両立できるのか
こうした問いはヨーロッパだけの問題ではなく、多くの国と地域で共有されつつあります。年金を「削るか守るか」という二択ではなく、働き方や税制、企業年金などを組み合わせた柔らかい調整が求められていることが浮かび上がります。
中国本土の高齢者ケア市場に広がるチャンス
一方で、中国本土では高齢者向けサービスの市場が急速に拡大している様子も取り上げられました。都市部を中心に、高齢者住宅、在宅ケア、健康管理やリハビリサービス、デジタル技術を用いた見守りサービスなど、多様なビジネスが生まれています。
高齢化が進む社会では、介護や医療へのニーズが増えるだけでなく、高齢者が自ら消費し、社会参加を続けることで新たな市場が形成されます。番組で議論された「シルバーエコノミー」は、負担の増加としてだけでなく、新しい産業と雇用の源としても捉えられていました。
専門家たちが見た3つのポイント
人口、年金制度、ビジネスの最前線にいる専門家たちの議論からは、次のような論点が浮かび上がります。
- 人口構造の変化を前提にすること:少子高齢化は多くの国と地域ですでに進行しており、「一時的な現象」ではないと認識することが出発点になります。
- 年金を一つの制度に頼りすぎないこと:公的年金だけでなく、企業年金や個人の貯蓄・投資、就労収入など、複数の柱をどう組み合わせるかが問われています。
- 高齢者を「支えられる側」だけで見ないこと:経験やスキルを生かした就労、ボランティア、起業など、さまざまな形で社会とつながり続けることが、当人にも経済にもプラスに働きます。
「引退」のかたちが変わる時代に
かつてのように、一度退職したら完全に仕事から離れるという「引退」は、世界の多くの場所で少しずつ姿を変えつつあります。短時間勤務やプロジェクト単位の仕事、学び直しを挟みながら複数のキャリアを重ねる生き方など、選択肢は増えています。
各国政府は、年金制度や労働市場のルールをこうした変化に合わせようと、今まさに対応を急いでいます。番組で交わされた議論は、高齢化を恐れるだけでなく、「より長く生きること」を前提に社会と経済のかたちをどう描き直すかという静かな問いかけでもありました。
Reference(s):
Aging and Pensions: Can the world avoid a retirement crisis?
cgtn.com








