米国のベネズエラ攻撃は超法規的処刑 国連専門家が警鐘
カリブ海での米軍によるベネズエラ関連船舶への攻撃について、国連の独立専門家グループが「超法規的処刑」に当たると強く批判し、国際法と主権をめぐる議論が一気に高まっています。
この記事のポイント
- ここ数カ月で、米国はカリブ海の少なくとも6隻の「麻薬関連」容疑の船舶を攻撃し、27人以上が死亡
- 国連独立専門家は、国連海洋法などに反し、超法規的処刑にあたると指摘
- 米国は国連憲章51条に基づく自衛権を主張し、ベネズエラ側と激しく対立
カリブ海で何が起きているのか
米国のドナルド・トランプ大統領は、ここ数カ月の間にカリブ海で少なくとも6隻の容疑船に対する攻撃を命じ、少なくとも27人が死亡したとされています。標的となったのは、ベネズエラから発しているとされる「ナコテロリスト」(麻薬とテロが結びついた脅威)に関係すると疑われる船舶です。
トランプ氏は、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領(とされる人物)に関連する脅威への対抗措置だと説明し、自身の対ベネズエラ強硬路線の一環として位置づけています。
国連独立専門家「超法規的処刑」と批判
こうした攻撃について、国連人権理事会が任命した独立専門家らは、火曜日に公表した声明の中で、強い懸念を示しました。専門家らは、たとえ米国側の主張どおり対象が犯罪組織に関わっていたとしても、適切な法的根拠なしに国際水域で致死力を行使することは、国連海洋法など国際法に違反し、「超法規的処刑」、つまり司法手続を経ない殺害に当たると指摘しました。
さらに専門家らは、この攻撃が南米の主権国家であるベネズエラの主権を侵害し、他国の内政に干渉せず、武力による威嚇や行使を慎むといった、米国自身が負っている基本的な国際義務にも反すると警告しています。
専門家グループは米国側と懸念事項について連絡を取り続けているとした上で、ベネズエラに対するさらなる秘密工作や直接的な軍事行動は、国連憲章に対する「一層重大な違反」になり得ると強調しました。
国際法と自衛権をめぐる争点
米国は、自らの行動は国連憲章51条に沿った自衛権の行使だと主張しています。同条は、武力攻撃を受けた国家が個別的または集団的自衛権を行使できると認める一方、取った措置について安全保障理事会に直ちに通報することを求めています。
一方で国連の独立専門家らは、そもそも国際水域での致死的な武力行使に足る明確な法的根拠が示されていないとみており、自衛権の拡大解釈が国際秩序を揺るがしかねないと懸念していると言えます。
米国とベネズエラ、それぞれの主張
米国側の論理
ワシントンは、2024年のベネズエラ大統領選挙(昨年の選挙)でマドゥロ氏が勝利したとの結果を認めていません。米国側は「野党候補が勝利したという圧倒的な証拠がある」と主張し、マドゥロ氏を「米国の司法から逃亡中の人物」と位置づけています。
米国務省の高官は匿名を条件に、国連の独立専門家らを「いわゆる専門家」だと批判し、「彼らは米国の安全保障を脅かし、米国人に害を与えている人物を擁護している」と反発しました。米国側にとって今回の軍事行動は、地域の安全保障を守るための必要な措置だという位置づけです。
ベネズエラと地域の反応
これに対し、ベネズエラのイバン・ヒル外相は、国連専門家の見解がカラカスの懸念を裏付けるものだと歓迎しました。ヒル氏はメッセージアプリのテレグラムで、米国は自国の自衛権を正当化するために敵をでっち上げ、その結果としてカリブ海での「虐殺」が生じていると非難しています。
2025年10月17日には、キューバのハバナでベネズエラを支持する集会が開かれ、キューバとベネズエラの国旗を掲げる人々の姿が見られました。カリブ海・中南米地域で、対ベネズエラ政策をめぐる米国への警戒感や反発が広がっていることをうかがわせます。
高まる軍事的緊張とリスク
こうした政治的応酬の背景には、カリブ海での米軍の軍事的プレゼンス拡大があります。現在、誘導ミサイル駆逐艦、F35戦闘機、原子力潜水艦、約6500人の部隊などが投入されており、トランプ政権によるベネズエラ政府との対立は軍事面でもエスカレートしています。
トランプ氏は先週、米中央情報局(CIA)に対し、ベネズエラでの秘密工作を承認したとも述べています。国連専門家らが、秘密工作や直接的軍事介入を「一層重大な違反」と位置づけたのは、この動きと無関係ではありません。
軍事力と情報機関による圧力が同時に強まるなかで、偶発的な衝突や、限定的な作戦のつもりだった行動が広範な武力紛争に発展するリスクも指摘されます。
日本の読者にとっての意味
今回の事案は、地理的には遠いカリブ海の出来事ですが、日本の読者にとっても無関係ではありません。国際水域での武力行使や、テロ対策や麻薬対策を名目とした致死的な作戦がどこまで許容されるのかという問題は、海洋国家である日本の安全保障や国際法秩序にも直結するテーマです。
また、国連の独立専門家と大国政府との認識のずれは、今後の国際人権・安全保障ガバナンスを考える上で重要なシグナルです。人権と安全保障、主権と国際協調のバランスをどう取るのかは、日本社会にとっても避けて通れない問いだと言えるでしょう。
これからの注目点
- 米国が今後もカリブ海での標的型攻撃を継続するのか、それとも国際的な批判を受けて見直すのか
- 国連人権理事会や安全保障理事会の場で、今回の攻撃と自衛権の解釈をめぐる議論がどこまで深まるのか
- ベネズエラ情勢をめぐる地域諸国の連帯や分断が、カリブ海・中南米の安全保障環境にどのような影響を与えるのか
武力行使のルールが揺らいだとき、最も影響を受けるのは一般の人々の暮らしです。ニュースを追いながら、自分ならどのようなルールと仕組みが望ましいと考えるか、一度立ち止まって考えてみることが求められています。
Reference(s):
Experts term U.S. strikes against Venezuela 'extrajudicial executions'
cgtn.com








